第307話 ノクイルヨンの動向
「お、落ち着いて下さい!ノクイルヨン様!!」
「…ふぅ……私に“落ち着け”だと?…何を言っている?私は十分落ち着いている。お前こそ落ち着いたらどうだ?寧ろ、お前のその狼狽えように驚いている所だ。そんなに慌てては、私に特技を使われたら不味いとでも言っている様なものだぞ?」
カークが事前に入れ替えてくれた衛兵達を伴い、領主館の大臣執務室へ赴いている。その途中、1人の大臣に来訪の意図を聞かれたので、素直に答えれば、面白い程の狼狽えよう。…この者まで賄賂を受け取っているのか………。
「で…ですが、領主館勤めの者に“真偽”を使われるなど!我等を信用しておられないのですか?!」
「ああ……しておらんな。少なくとも、私は命を狙われ、敵か味方か…どちらであるかを判別する必要を余儀なくされた。ここに勤める者達が、ランティエンスの為を思って動ける者か、私腹を肥やす事に熱心な愚か者なのか……。何、簡単な事だ。私がお前達に尋ねるのは、たったの1つ。『ジケイナから賄賂を受け取ったか』それを尋ねるだけだ。………それに、お前の耳にも届いておろう?街で一部の衛兵が、不名誉な札を付けられている事を。あれをしているのは、『看破』持ちの冒険者の仕業だ。それを聞いて奮起したのだ。様子を見るなどの甘い考えは捨て、もっと積極的にならねばとな…」
今まさに大臣共の執務室では、街での状況を知り、雁首揃えて、その対処方法を打ち合わせしているらしい。
ランティエンスの通例会議でも、同じ位の熱量で議論をして欲しかったものだ……。
「失礼ですが、御領主様は婚約者であるカーク隊長が殺人の罪で捕縛され、気の迷いを起こされているのでは?お気持ちはお察し致しますが、冷静になる為のお時間を取られた方が良いかと……」
「………では、大臣執務室に乗り込む前に冷静になるとしようか。まず初めにお前から尋ねる。『ジケイナから賄賂を受け取ったか』?はい・いいえ、どちらでも好きな方を答えよ。………さあ」
「……あ……その…………」
私を呼び止めた大臣は青ざめ、どちらとも答えられず、口をパクパクと開いていた。
まるで、水から陸に上げられた魚ね。
私の保有する特技『真偽』は、その言葉通り、質問に対しての返答を見定める為のもの。『看破』の様な万能性は無く、質問が見当違いでは、望んだ結果に辿り着けない。
だが今回は、シローの働きでジケイナが派手に賄賂をばら撒いている事が分かった。なら、尋ねる事は1つだ。どうせ、私の執務室に仕掛けたダンジョン品の撤去と警備兵の入れ替えで、ヤツ等は異変に気付いているだろうからな。
いい機会だ…全て炙り出してやるよ……。
「早く答えよ!!」
「…………う……はい。受取……ました」
「対価に対する働きは、何を求められた?」
「……ノクイルヨン様の……後任領主として、クンテーラ様を希望する嘆願書に署名を…しました…」
クンテーラ!!その名を聞き、一気に頭へ血が上った。あの愚か者を領主にだと?!
当時、この街の大臣をしていたクンテーラは、自薦で領主交代の際に名乗りを上げ、自分こそランティエンスの領主として相応しいと謎の自信を持って立候補したが、結果的に選ばれたのは私の父であった。
そして、父がランティエンスの領主になった後、それを執拗に認めようとせず、事あるごとに反発し、領主交代直後の父の仕事をどれだけ邪魔していたことか!!余計な苦労を増やしていた事か!!
目先の利にすぐ食い付き、後の事を考えない安直な思考で、ランティエンスの命とも言うべき湖を潰す案を出したり、王都方面以外の外門の通過料を倍にしようとしたり、兎に角、出す案全てが検討にも値しない場当たり的で、利己的な物ばかりだった。
そんなクンテーラを領主にさせようとするなど、ジケイナは、あの愚か者を領主に据え、自分の傀儡にでもするつもりか?
「……愚かな……………」
「で、ですがクンテーラ殿は革新的な発想の持ち主であると、聞き及んで………」
「お前は、父の代ではまだ大臣に就任していなかったか……。クンテーラの言う『革新的な発想』が以前から変わっていないのなら、アイツは先ず湖を2つ埋め立てようとするだろう」
「は?!ま、まさか!!湖を埋め立てしたら、水流の循環に支障が出てしまい、最悪、水源が枯れてしまいます!!」
だから、それが想像出来ないから『愚か者』なのだよ。きっと、湖は1つあれば十分だと、安易に考えているのだろう。
この者も、碌な確認もせず話を鵜呑みにする阿呆だったと言うことか、それともジケイナの言葉が巧みだったのか………。
「今一度、良く考えるのだな…。私は、クンテーラが領主となった場合、ランティエンスは砂漠に飲まれると、そう思っているよ。」
「…………私は……」
その大臣は、俯き言葉を無くした。これ以上、時間を無駄には出来ないな…。
さあ、残りの愚かな大臣共の顔を拝みに行くか!
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