第306話 サイド ジケイナの誤算
豪華な調度品が揃えられたその一室には、静かに座る老人が1人、報告に来た私兵達を鋭く睨めつけていた。
室内にいるそれ以外の者は、自らの存在を感じさせない様に気配を消し、その矛先が自分に向かない為の無駄な努力をしている。
全ては、ティエーエムがあの冒険者に要らぬ手出しを仕掛けた事から崩れ出した。
逆恨みからあの冒険者を殺そうと、ティエーエムが雇った
そればかりか、冒険者本人に商会にまで乗り込まれた時には、依頼にばかり力を入れ過ぎ、まともに動かせる護衛や冒険者を店に雇ってもいない状態になっていた。
しかも、ヤツの商会の番頭が証拠の数々を持って、衛兵に告発した事によって、ティエーエム自身が投獄され、衛兵隊に未発見の証拠までもしっかりと押さえられる結果に。
あやつは、ランティエンスで活動する為の駒として、使うつもりでおったのに……。
先のセダンガ商会の判決の波及で、ヤツと取引のあった者や商会は、その大小に関わらず
儂もランティエンスで使うダンジョン品を購入する為、もう一つ別の商会を通してセダンガとは取引があったが、流石に取り調べの手は儂の所までは及ばなかった。
その時の辺境の衛兵の団結力と迅速な行動、そして、それを纏め統率していた、あのフウライと言う衛兵には肝を冷やした。王都の衛兵隊を通さず、隠密裏に王都まで直接調べに来たと分かった時は、その調査・捜査が及ばない様、慌てて動かなければならなくなった程だ。
斯く言うティエーエムも、セダンガから不法品や人身売買といった取引をしておったが、当時の番頭に罪を被せ、当人は逃げ果せた。
だが、ティエーエムは子供の供給が断たれたことで激しく恨んでおった。その元凶となった冒険者シローを。
あればかりは儂にも理解し難い、嗜好と執着だ。だが、だからこそ弱みを握り、汚れ仕事を押し付けるのには格好の者であった。
それが、呆気なく捕縛され使い物にならなくなった。
あの冒険者とティエーエム商会で会った時、その見た目から、同行していた二人の冒険者の力を傘に着た、向こう見ずな小童と思い、護衛に連れていたエスモーケンに相手をさせてしまった。
あれは、儂の一生の不覚であった。
あの冒険者は、エスモーケンの攻撃を容易く凌ぎ、枝を払うかの如く、あっさりとその腕を落とし、返り討ちにした。
エスモーケンは、父の代から護衛として儂に仕え、信頼出来る人柄と技量で、常に専属で儂の側におった者だったのに…。
しかも、領主館に仕掛けてあったダンジョン品が、
また、側近を意のままに動かす為に、家族を人質に取ったが、その本人がノクイルヨンから離され、どうにも動く事が出来なくなっていた。
給仕の女に至っては、職を解かれる際に、領主自ら、例のティーセットで入れたお茶を飲む様に言われたと、震えながら報告して来た……ダンジョン品だけでなく、毒殺の計画も露見したと言う事だ。
件の冒険者をよくよく調べさせた所、その討伐記録に言葉を無くした。
だが、成人してそう経っていない年齢で、あの様な魔物を討伐出来る訳が無いと疑い、もしや連れている従魔のデザートキャットが希少種で、特殊な能力を保有しているのでは?と、呪術に長けたウコハンボウを使い従魔を殺そうとしたが、敢え無く詛呪返しを喰らってウコハンボウも果てた。
丁度、衛兵隊長のナイフを手に入れておったから、邪魔なカークを封じる為にウコハンボウの死体を使って、ヤツを犯人として捕縛させる事は順調に行った。
しかし、その後のあの騒ぎは何だと言うのだ?!
至る所で、儂の息の掛かった者が、巫山戯た札を付けられた状態で街に放たれた。
そして、今度はランティエンスから出ていたはずのシローが姿を現したかと思ったら、謎のダンジョン品を使い、街中でその記録した物を市民に見せて回っていた。
その報告を聞いた時は、我が耳を疑った程だ。
エスモーケンとのやり取りから始まって、カークを嵌めた時の記録までもが、赤裸々に晒された。
それを止めようにも、ダンジョン品は壊せず、壊しに行った者は、シローの魔法によって拘束され、あの札を付けられる始末。加えて収容されていたカークが放免となり、ノクイルヨンまでもが烈火の如く怒り狂い、下手に手を出せない状態だと報告が入って来た。
………セダンガの裁判の際に、とあるダンジョン品の記録が証拠として採用され、その上身内の裏切りも有り、そのままディクライエント送りが決まったと聞いた。
まさか………アレがそのダンジョン品なのか?!
だが…まだあの方の事は知られていないはずだ。
それに、多少の便宜を図って貰う為の買収が罪になると言うなら受けるまでだ。ただ、カークを嵌めた事に付いては、言い逃れが難しそうだな…。
その程度で済むなら、このまま進むしか無い。計画はもう進められている。誤算があったら修正すれば良いだけだ。
あの忌々しき冒険者は、全てが終わってから殺せば良い。
儂の邪魔をした事を必ず後悔させてやるわ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます