第290話 閑話 絶叫マシン体験後の2人

「………………………………………………」

「ど、どうしたんだ?!大丈夫か、トラキオ?!」


 ハウスに戻って来るなり、膝から崩れ落ちて玄関の床に手を付いた相棒を見て、流石にただ事では無いと心配になり、ロレンドは慌ててそう声を掛けた。


「………シローは……もう少し進むそうだ。真っ直ぐ行けば大丈夫な場所まで来れたから、俺は…先に戻らせてもらった……」


 トラキオが力ない声でロレンドに返答をする。自分以上の疲弊を見せているトラキオに違和感を感じ、恐る恐るその行程を尋ねる。

 

「シローは、そんなに速かった……のか?」

「………ああ。俺に変わった後『トラキオさんなら大丈夫かと思って』と言って、ゴローと魔法有りで速さを競い合ってしまった………」

「ああ…………それは………何て事だ…………」


 その話を聞き、自分以上の体験をした相棒に手を貸し、立ち上がらせるとリビングのソファまで連れて行った。


 士郎の『健脚』&『跳躍』を使ったその進行は、段位の上昇と共に、地を這う絶叫系のアトラクションの如き様相を呈していた。


 『健脚』で助走を付け、そこから一気に『跳躍』すると、走り幅跳びの要領で500m以上は進行方向へ飛び、障害物があればそれを更なる足掛かりにして『跳躍』を繰り返した。


 一方で悟郎は、覚えたての『俊足』と地力の瞬発力に加えて、士郎から貰った『魔力増幅のリング』によるパワーアップが作用し、士郎との本気の追い掛けっこを楽しむのに十分なスピードを出す事が出来ていた。


「………たぶん、朝にはチェンパータに着くと……いや、もしかしたら、夜の内に着いているかもしれない」

「ええ?!夜の内にって……どう言う事だ?シローは休まず進む気か?!」

「………いや、どうやら夜目が効く魔法と灯りの魔法を使いたいらしいんだ。だから、夕飯後に少しだけ出ると言っていた。ただ、その少しが……どの程度進むのか……正直言って怪しい……。それに、護衛を受けてからランティエンスに帰る迄の時間が早ければ、何処に送ったのかも錯誤させたり、想定し難くなると言ってな……」

「そ、そうか……確かにそうだな。ギルドで指命依頼を出して貰った時にも、護衛先の所在地は伝えずにしておいたが、万一を考えるとその方が安全か…」


 ロレンドは、備え付けの冷蔵庫から、飲み物を出してトラキオにそれを渡し、話を続ける。


「まだシローから聞けていないが、きっとランティエンスで何かあったんだな……」

「………そうだと思う。ロシェルを早く送り届けたいと言う気持ちもあるだろうが、明らかに戻る事を想定しての行動だ。」

「それだと、戻ってもすんなりとは街に入れなさそうな気がするぞ?」

「………その覚悟はしておこう」


 悟郎とチビも士郎に付いて出ていたので、お昼寝から起きたロシェルは、両親とピヨ達に囲まれて畑に行っている。


 下手な事を聞かせる心配も無かった為、2人はそのまま話し続けた。


「………予定通りには辺境に帰れないだろうな…」

「そうだな…。まあ、頼まれていた仕入れも完了してるし、それ以上の物だって手に入ってる。収納袋に入ってたダンジョン品の分配だってまだなんだし」

「………そうだった。とんでもない物がたくさん入っていたもんな。だが、あの『解呪の水晶』は、シローが持つべきだろう。諍いに巻き込まれたり、恨みを買ったりは、絶対にシローの方が多い」

「ああ、そうして貰おう。昨晩は簡単そうにシローは解呪していたが、その解呪に必要な魔力だって俺達ではきっと全然足りなかったはずだ。その意味でもシローが持っていた方が、ずっと有効利用出来る」


 話が一区切り付いた所で、飲み物を飲んで一息付くと、トラキオはゆっくり立ち上がり、キッチンに向かう。


 実際に移動していたのは士郎だが、砂漠での移動と違って森の中での高速移動。

 視覚的に、次々と迫り来る木々にぶつかりそうに見えて、同行者の神経をかなり消耗させた。


 その為、道案内に付いていただけでも、2人は十分疲れる事になった。


「………シロー達が戻ったら、すぐ夕飯を食える様に用意をするか。」

「よし、俺も手伝うよ!切る・焼く位なら出来るからな。それに、ゴローもそれだけ走ってるなら、きっと腹を空かせて戻るはずだ。」


 士郎が事前に冷蔵庫へ入れてくれた、肉や野菜の食材等、ランティエンスで揃えた調味料が並ぶ棚を確認しつつ、トラキオはメニューを決めて調理を始めた。

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