第289話 チェンパータへ

「シロォォォォォーー!!少し……飛ばし…過ぎ……じゃぁぁーー無いかぁぁぁーー?!」

「あれ?ロレンドさんまだ駄目ですか?『回復』!」

「ち・が・うーーーーーーーーー!」


 キノコダンジョンから先は、俺の未知の地域になるんで、ロレンドさんとトラキオさんの順番で道案内をして貰ってる。


 いつもの『健脚』+『跳躍』をしてるんだけどおかしいな……あ!そうか!今日は1人しか同行者がいないから、その分軽くて飛距離が伸びているんだ!


 今は、道の途中にあると聞いた、小さな滝を目指している。既に砂漠が終わって、森林に入り、少し道が登り始めた。


 ここの辺りならピヨ達も外に出せるな。ハウスの中ばかりじゃ退屈だろうし、様子を見て声を掛けよう。


「あ!ロレンドさん、この近くじゃないですか?」

「そ、そうだ!その先が滝だ!!………良かった…やっと着いたぁ……。」


 ザァザァと、水が落ちる音がする。進んで行くと、先に沢に着いたんで、そのまま上流を目指すと、5分程で目的の滝に到着した。


 落差15mくらいの滝は、途中にある岩に当たって幾筋かに別れ、滝つぼへと落ちている。


 午後は回ってるけど、陽は落ちる前だ。ロシェルもここなら怖くないか?


「おお!!そう言えば俺、リアル滝は初めてかも!マイナスイオーーン!」

「…………………つ…疲れた……」


 微かに感じる水しぶき……濡れる程ではないから、これなら遊ばせてやれるな。

 座り込んだロレンドさんはソッとしておいて、先に皆を呼んで来よう。


「トラキオさん、滝に到着しました!」

「……………嘘だろ?!もう着いたのか?!」

「?はい。ロレンドさんもここだって言ってたので、間違いないと思いますよ。みんな!滝に到着したから、外で少し遊ぼう!」

「ニャフ(行く)!」 「キュ(うん)!」

「「「ピョッピ(やったー)!」」」


 ピヨ達は、やっぱりハウスで待たせて退屈だったんだろう、大喜びで先に外へ出て行った。


「シローさん。ロシェルは今、あそび疲れて昼寝をしているんです。妻も付いているんで、私だけ外に出てみても大丈夫ですか?」

「はい、もちろん大丈夫ですよ。この中には、俺の許可が無い者は入れない様になっているんで。それに、外にも魔物の気配が無かったから、良かったら出てみて下さい。」


 親父さんが、ロシェル達の様子を見てから来ると言うので先に出てみると、ピヨ達が滝の周りを駆けずり回っていた。


「おお〜〜!凄え走り回って……やっぱり外でも活動させたいよな…。」

「キュウッ(いく)!」

「チビもか。行って来い!」


 砂漠にいたから、チビも木がたくさんある場所が嬉しいんだろう。木から木へと魔法を使いながら動き回っている。


「………ロレンド、どうしたんだ?」

「ああ……トラキオか。お前もすぐに、同じ体験が出来るさ……。」

「…………?」


 ヨロヨロと立ち上がったロレンドさんが、そう言ってトラキオさんの肩をポンと叩く。……トラキオさんは大丈夫じゃね?


 暫くすると、ロシェルの両親も外に出で来て、周りの様子をキョロキョロと見回していた。

 そして、滝つぼのほとりまで並んで行って、仲良く話をしている。

 

 悟郎さん、さっきはロシェルと遊んでくれてありがとうな!湿気は大丈夫?少しエアコンしようか?

 え?それより一緒に追い掛けっこしたい?


 滝の周りの森では、チビとピヨ達のハイスピードな追い掛けっこが繰り広げられていた。

 

 悟郎さん、新しく覚えた『俊足』を使ったら、みんな悟郎さんには敵わないから、上手く調整頼むよ?追い掛けっこなら、あとで俺としよう!魔法有りの本気で良いからさ!


「シローさん、色々とありがとうございます。……初めて来ましたが、素敵な所ですね。ロシェルも起きていたら、見せてあげたかったわ。でも今日は、シローさんの従魔達にたくさん遊んで貰って、満足した様にもう寝てるんです。あの調子だと、夜までしっかり寝て、きっと起きませんから、私達だけで来ました。」

「疲れ過ぎてませんか?必要だったら、回復しますから言って下さいね。」

「ありがとう、でも大丈夫ですよ。少し眠れば、また遊ぼう!って自分から行くと思うんで、相手をしてくれたら嬉しいです。」


 話をしていると、母親の焦燥も影を潜め、普段の落ち着きを取り戻した様に見える。

 ランティエンスから離れ、自分達の住む街に戻りつつあるって事も、安心材料になってんだろうな。


スティンムロシェルパパさん、この調子で進んで行くと、明日の昼前にはチェンパータに到着すると思います。今回は、夜もシローのハウスに滞在してもらい、この後は街に着く直前までは、他に立ち寄る事無くそのまま行く予定です。」

「そんなに早く着くんですか?!」

「はい。この調子で行けば着きますね……とても速かったんで…シローの進行が……。」


 早い分には良いじゃないか?ロレンドさんが恨めしげに見ていたから、ニッコリ笑って返しておいた。


 この後は、またチェンパータに向けて走ろう。それにここからは、トラキオさんが案内をしてくれる予定だから、もう少しスピードを出しても大丈夫だよな?


 みんなの元気な追い掛けっこを目に、ゆっくりとマイナスイオン(滝の水しぶき)を浴びてると、ランティエンスでのゴタゴタも自然と和らぐ気がする。


 もういっその事、戻りたく無いな……なんて思ったが、そうなったらきっと、あのクソジジイが俺を指名手配ぐらいにはしそうだ。


 しばらく、ぼーーっとしていると、頃合いになったんで、悟郎さん達を呼び戻す。


 悟郎さん以外は良い感じで疲れていた。


 鬼になった悟郎さんに、追い掛け回されたんだろう。チビが抗議をして来たけど、『木渡り』と『脱兎』を使って逃げてたんだから、文句を言うのは違うんじゃないか?って言ったら、またダンダンとし出す。


「チビは、ダンダンするくらい悔しいなら、ちゃんとレベル上げを頑張れば良いんだよ。せっかく魔法も増えたんだし、ランティエンスに戻ったら気張れや!」

「……キュキュ(わかった)!」


 ピヨ達の方がヘロってたんで、カバンに入って貰いハウスに戻った。ピヨ達にとっては卵から孵った期間と使える魔法を考えると、ウルトラハードモードだったろうからな。


 そして、ロレンドさんとロシェルの両親にはハウスで過ごしてもらい、ピヨ達を休ませて飯を置いたら、また進むぞ!


 この後は悟郎さんとトラキオさん、ロシェルが寝ていたんで、チビもついて来た。

 

「じゃあ、また行きますか!」

「ニャフゥ(行くよ)!!」

「…………ゴローもヤル気に満ちているが……何でだ?」

「トラキオさんなら大丈夫かと思って、悟郎さんと競争しながら進もうって話てたんです。」

「……………競争?」

「ニャウニャッ(はやく)!!」

「分かった!じゃあ、トラキオさん行きましょう!悟郎さん行くよ〜〜!位置について〜〜よ〜〜〜い……ドン!!」

「ニャフ(行く)!!」

「……………ちょ!シロー?!ゴロー?!」


 両者一斉にスタート!!


 今ここに『チェンパータ杯(仮称)』の火蓋が切られた!! 

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