第287話 陰謀の気配

 宿前の掃除中に、ロシェルの両親が姿を見せた。その影に隠れる様にロシェルもついて来ている。


 朝食の時に見れた笑顔は無く、母親の手をしっかり握っても緊張で顔が強張り、色も白くなっていた。


「悟郎さん、ロシェルの周りに『砂塵』で、外を見えなくしてくれる?軽くで良いからね?」

「ニャッ(わかった)!」


 その姿を見るや、ほくそ笑む2人組。

 依頼がまだ有効なのか、クズ共がニヤつく。


「おい……子供にその汚ぇ面を見せんじゃねぇよ!」

「え?」 「あ?」


 ロシェルを狙った奴らは、宿と反対の路地に空気砲でぶっ飛ばす。圧に押されて飛ばされると、折り重なる様に路地の壁にぶつかりそのまま倒れた。

 そして、悟郎さんの『砂塵』に阻まれながらも、近寄ろうとするヤツがまだ1人いる。

 

「くそ!いきなりなんだよ!この砂埃は!」

「ニャァニャオ(たおす)!」


 悟郎さんが砂飛ばしで近付いて来たクズに頭から砂を浴びせ、腹に緩い礫を一発お見舞い。

 蹲った所をさっきの奴らと同じ様に、俺が空気砲で路地へぶっ飛ばした。


「悟郎さん、ロシェルの様子を見ててくれる?俺はさっきの奴らを片して来るから。」

「ニャッ(わかった)!」


 悟郎さんの隠密を外し、ロシェルの側に居てもらう様にお願いする。


 すると、少しづつ砂塵を消してロシェルの前に姿を現す悟郎さん。これ……狙って演出をしてますよね?


「あ!ゴローさんだ!」

「ニャ(うん)!」

「す…凄いね……これはゴローさんがやってたのかい?」

「ニャォフ(当たり前)!」

「ゴローさん……かっこいい!!」


 うわわ〜…凄い自慢気だよ……。あ、こら!!チビは悔しいからって、俺の鎖骨を叩くな!!


 路地に寝ていた3人に水を掛けて起こし、同じ様に質問して選ばせる。そして、また例の印。調べたら、『ジケイナ商会の割符』と出た。


 クソジジイが……。これだけじゃ、どんな指示をしたかも分からない。しかも、ご丁寧にカーク隊長の偽物に依頼を出させる小細工付き。


 だが、今それを突き詰めるよりも、ロシェルを送り届ける方を優先しないと…。


 他に怪しいヤツがいないか確認し終え、悟郎さんと一緒に外に出て来たロシェルに声を掛ける。


「ロシェル!悟郎さんカッコ良かったろ?」

「あ!おにいちゃん!ゴローさんね、すっごくかっこよかった!!おすながいっぱいのところからね、シュッとでてきたんだよ!」

「そうか。ロシェルも外に出れて偉いな!怖くないか?」

「うん!ゴローさんがいるから、だいじょうぶ!」

「頑張ったな…。俺は悟郎さんと一緒に旅の買い物に少し行って来るから、お家に帰る準備をしてくれるか?大っきいお兄ちゃんが、ロシェルを守ってくれるからな!」

「おうちにかえるの?」

「そうだよ。直ぐには着かないから、それまでは、ロシェルは特別に悟郎さんのお家に招待するよ。楽しみに待っててな!」


 そう言うと、ロシェルは『ゴローさんのおうち!』と、とても喜んでくれた。……なんだか、これはこれで別れる時に泣かれそうだなぁ…。


 改めて隠密を掛け直し、ジケイナが滞在しているらしい宿の方へ向う。


 高級そうな宿や商店が並び、ブランド品でも取り扱いしてんのか?店の制服らしい服を纏った、コンシェルジュの様な人物がいた。


 建物の側まで行くと、そのコンシェルジュが顔をしかめて首を振っている。何かあるのか、建物の脇を気にしてチラチラと見ていた。


 そこを覗くと、男が1人地面に横たわっていた。浮浪者か?と、思ったが、それにしては身なりが良い。


 念の為と確認すると、それが探していた人物だった事が分かった。


「(疑心暗鬼)……ザマアねぇな?ウコハンボウ。呪いを返された挙げ句、無惨に使い捨てられたか。」

「……うぅ……く、そ…………」

「どうだ?自分の呪いの効果は?あれでも効く方なんだろ?………ああ、でも、もうすぐお前の呪いも成就するな。あんなヤツの仕事を受けたばかりに……。もしかして、返される可能性を知ってて、お前を使い捨てにしたんじゃないか?……今まで成功してたのに、おかしいよな?」

「!!く…そ……ジケイナめ……あ…いつを…呪って……やる…!」

「しかも、ジケイナが狙わせたのって従魔……魔物らしいな?何の為にそんな事を?」

「こ…ろして……やる……ジケイ…ナ……ころす……のろ…う………くた……ばれ……ジ…ケ…イナ……」


 そのまま、最後まで人を呪って、ウコハンボウは息絶えた。

 その落ちた穴には、お前に呪い殺された人達がたくさん待っていそうだな……。


 ウコハンボウの懐を探ったが、見事に何一つ入って無かった。コイツになら依頼書を発行してると思ったんだけど……ここに捨てられた時にでも抜き取られたか……。


 ふと、髪をまとめる簡素なリングが目に留まる。地味だが、よく見ると細やかな彫金が透かし彫りの様に刻まれていた。



【魔力増幅のリング(ダンジョン品) 装備者の魔力量と威力を増幅させるプラチナ製のリング 魔力+100 威力+100】



 あ!!こいつのせいか?!呪いの効果が高かったのって!………コレは頂いて行こう。


 と、その前に清浄して……の、前にここを離れよう。隠密を掛けたまま『跳躍』で飛び、屋根の上に着地。誰か来ないか少し様子を見ようか。


 待ってる間に、清浄を掛けてからリングを洗うと、元の白金の輝きが戻って来た。


 ……………これ、地味に見えたのって、ヤツの頭皮脂とかホコリがこびり付いていたか…ら……?もう1回洗って……清浄!!………これでよし!


 悟郎さん、これ魔力と魔法の威力が上がるリングなんだけど使わない?邪魔に感じないなら、首輪のチャームにどうかな?え?付けてみる?


 じゃあ、一度首輪を外して……はい、リングを通したよ!早く従魔の首輪をつけ直して!早く早く!!


「……ふう。リングを通す為とは言え従魔の首輪を外されるのは、俺のハートがブレイクしそうな程キツイ……。でも、悟郎さんに似合ってるし、しかもパワーアップ悟郎さんだ……」

「ニャゥニォ(ありがとう)!」

「良いんだよ!だけど、悟郎さんの魅力が更に上がって、ヤバい事になってるからね?従魔さらいとか気をつけてよ?!」

「ニャッ(わかった)!」


 光り輝く毛並みにプラチナリングが映えるね!あとで写真撮らせて!!


「ギュゥーーーーーーーーーーーーー!!!」

「どした、チビ?腹減ったのか?」

「ギュ!キュゥ!!」


 チビが抗議の鳴き声を発しながら、悟郎さんの首輪を指さした。


「だって、チビは前に聞いたら、従魔の首輪を付けなかったじゃん!」

「キュキュキュゥ!!」

「途中で、ポイッてしそうなんだよな〜お前は…」

「キュゥ〜〜〜〜〜!!!!」


 何だか必死だな……悟郎さんが羨ましくなったのか?……まあ、着けてくれた方がステータスが上がるし悪くは無いけど…。


「じゃあ、従魔の首輪を出すけど、大事にしてくれますか?」

「キュキュ!!」

「分かった。チビの従魔の首輪は……黄色か…(漏らす事も多いし、意図せずピッタリだな)」


 出した従魔の首輪にチビが乗ると、一瞬輝き、そのまま収縮すると、チビに装着された………腹に。おい、何故に腹?ベルトかよ?!


「キッキュー(やったー)!」

「良かったね。本当に大事にすんだぞ?!」

「キュキュ(わかった)!」


 その間も、ウコハンボウの所に何人か来たが、懐を探り、何も無い事が分かると、直ぐにその場を後にした者ばかり。


 もう引き上げようと思った時に、大勢の護衛らしいヤツ等を引き連れて、ジケイナ御一行がやって来た。


 ジケイナは、ウコハンボウを見て護衛に何かを伝えると、その護衛はウコハンボウの生死を確認する為か、ヤツに触れ、その後で刃物をウコハンボウに突き立てた。


 その後、刃物はそのままにジケイナ達はその場を後にする。………撮影はバッチリ!衝撃スクープとして発表しなきゃな!


 それと、死体に態々刃物を突き立てて、その刃物を残した理由は何かね?降りて確認しようかなっ!


【衛兵隊の短剣 衛兵隊長に就任した者に贈られる記念の短剣】


「不穏だねぇ……本当あのクソジジイは何をしにランティエンスへ来てんだ?領主館に居た、雑魚ヘボクソ儂が偉そうに『いつまでも隊長でいられると思うなよ!』って言ってたしな…。何か知ってそうだ……」


 ちょっと時間を食ったな…。


 ロレンドさんには、追い掛けるから先に出発してくれと言ってある。それに、俺が街を出ようとしたら、絶対に止められるだろうからな。


 外壁なんて、1人だったら飛び越えて行けるけど……そうか!帰りも門を通らなきゃいいだけだ。


 ……あ〜〜だけど、ギルド長が『絶対に門から出ろよ』って言ってたな…。


 面倒臭いけど……行くか。

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