第284話 休憩と言質取り
捜査完了を伝えると、盛大にため息を付いて一呼吸し、カーク隊長は向き直ってお礼を言って来た。
「シロー、本当にありがとう……。ご領主をこんな危険の中に晒していたかと思うと…………駄目だ…少し落ち着こう。俺もお茶を貰って良いか?」
「もちろんです」
既に寛いでいる領主さんとギルド長のテーブルへ付き、深く腰を下ろす。
2人に肩をたたかれ『お疲れ様』と労われるも、心労が多過ぎたのか、手を軽く上げてお茶を飲み出した。
悟郎さんもお疲れ様!手伝ってくれてありがとう!何が食いたいかな?ええ?!モウのステーキ?!そんなにガッツリ食いたいの…?それは…ちょっと聞いて見るから待って?
「すみません、悟郎さんにしっかりご飯を上げても構いませんか?」
「ええ、大丈夫よ!そのゴローちゃんも手伝ってくれたんでしょ?ありがとうね〜!シロー君もありがとう!」
「俺もちょっと食いたい。シローご馳走してくれ!今度何か奢るから!」
「ギルド長には少しカーク隊長の苦労を分けて上げたいですね。」
「無理無理!それは昔からカークの領分なんだよ。」
ギルド長がそう言うと、その通りとばかりに、隊長が頷いた。本人自ら自覚してんのか。
……しょうが無いな。じゃあ、悟郎さんどうぞ!ギルド長にも同じく、モウのステーキを出す。
「……シロー、これ何のステーキだ?」
「?マウンテンモウのステーキですよ?ギルド長は年だから、脂が少ない食べやすい部位(ヒレ)を出しました。悟郎さんは若くてピチピチだから、脂の多い部位(サーロイン)ですけど、どちらもマウンテンモウです。」
「美味しそう!!私も御相伴に預かりたいわ!」
「………差し支えなければ俺も食いたい。」
「別に構いませんが……その前にご領主様、一度回復しても良いですか?」
俺がそう声を掛けると、3人で黙って俺も見てきた。え?何かあったか??
「……ねえ、ヒッルリウ。このシロー君はいくつ魔法を使えるの?」
「知らねぇよ!!ここに来てからまたヒョイヒョイと、知らねぇ魔法を使いやがって!俺が聞きたい!」
「と、とにかく回復は掛けてもらえ、ノクイルヨン」
「そうね……お願いするわ、シロー君」
「了解です」
回復と、解毒の両方を掛けておけば、金属中毒(中度)も………よし、消えた。
それから2人分のモウステーキを出して、ついでにパンと野菜も出すか。俺的に、食事の時は野菜必須なんだよ。
「……どうだ?ノクイルヨン?」
「凄いわ!回復薬でも全然治らなかったのに!」
「ああ、それはそうでしょう。解毒もしましたから」
「「「解毒?!」」」
ん?……あ!さっき見た、カップの説明をして無かったな…。
「部屋を先に調べて説明が前後しましたが、さっきご領主様がいつも使っていると言ってたカップ、あれでお茶を飲むと、身体に金属の成分……本来はたくさん身体に取り入れてはいけない物が蓄積して、ダルさや貧血といった症状を引き起こす原因になるんです。摂取し続ければ、より酷くなってましたよ?」
「え…?!あのカップがそんな物だったの?!…全然知らなかったわ……。あの給仕がいつも熱過ぎるお茶を淹れるものだから、あまり飲んでいなかったのよ。冷めたお茶は飲む気がしなくなったし。……それは幸いしたわね……」
「あ〜〜その金属、熱で溶け出すんです。熱いお茶を淹れてたのは態とでしょうね。今度、試しにその給仕やカップを用意した補佐に、熱々のお茶でも振る舞ってみたらどうです?絶対に飲みませんよ」
ギルド長も食うのを止め、眼光鋭く俺を睨んで来る。睨んだって返答は変わらねぇよ〜。
「……本当だろうな?」
「俺が嘘を言って何の得があるんです?ギルド長も試しに一ヶ月くらい飲んでみたら分かりますよ?熱々のお茶で1日3杯!徐々に不健康になれますよ〜!」
「ヒッルリウ?!絶対にやらないでよ?!」
「大丈夫だ、ノクイルヨン。このカップも証拠品として、俺が持ち帰らせて貰うから。さっきのダンジョン品と一緒に改めて鑑定させる。」
「……悪かったよ。少し頭に血が昇った」
ん?悟郎さんはお代わり?今度は?唐揚げかいいの?え?白いカエルも?!……そりゃあるけどさ。
「はい、唐揚げとカエルのクリーム煮だよ。
「ニャ、ニャッム(うん、食べる)!」
「まだ出て来るのか?!」
「え?!悟郎さんが、ちゃんとお腹いっぱいになるまでは出ますよ?」
「「「…………」」」
何を言ってんだか……。俺はホロトリのローストをライス付きで食おう。後は定番の野菜炒めだな。
何だか変なスタートだったせいと、隊長とギルド長が軽いノリで領主さんとやり取りをしていたからか、緊張らしい緊張もせず普通に飯を食ってしまった。
だが……ゴタゴタで忘れられ無い様に、ロシェル達の事を約束してもらおう。
「悟郎さんの食事はともかく、これを見てください。俺はその為に来たんで。」
「これ?」
3人はほぼ食い終わってるから、有無を言わせずクソジジイの記録動画を再生する。
さっきも見たろうに、隊長もまた一緒になって見てるし。ギルド長は悟郎さんの飯を見てるし…。
「……なるぼどね。ジケイナの主張が虚偽である証拠として、確認させて貰ったわ。判決所で当番員に言って、ジケイナを出頭させましょうか?」
「あ〜〜ノクイルヨン、それはシローに言って、ちょっと待って貰ったんだ」
「待つ?」
「ただ、待つには条件があります。攫われた子供とその家族を家まで護衛します。ランティエンスに戻るにはたぶん、往復で4〜5日後です。その間は、クソジジイが騒いでもそちらで収めて下さい。それが出来ないなら、今すぐ訴えを取り消しさせます。それと、ティエーエム商会の番頭から告発されていると思いますが、連れ去られた辺境の子供を俺達の帰る時に、一緒に連れ帰ります。あとはティエーエムの適正な処罰ですね。」
俺がそう言ったら、今度はカーク隊長の方が睨みを効かせるて来た。2人共目力強いんだから、お手柔らかにしてくれないと、俺ビビっちゃう!
「…シロー。どうして、君がそこまで知ってるんだ?まだ取り調べの段階で、細かい事は一切、公にはしていないんだぞ?」
「それは単純に、ティエーエム商会に行った際に、番頭さんから聞き出したからですよ。それと、次はあなたの番ですよ…って」
「あなたの番?」
「その前にセダンガ商会の絡みで、あの商会からも捕まった者が出たと聞きました。だから次は、俺を襲うように名前入りで依頼をした人物の番ですよと、教えてさし上げたんです。まさかお土産持参で衛兵隊に駆け込むとは思いませでした。気の利く番頭さんで良かったです」
「お土産って……ヤツの
「あ!その話はギルド長から聞きました!」
すると、カーク隊長の矛先がギルド長へ向かった。悪かった!と、その場ですぐにギルド長が謝り、一先ずは言いたい事を伝えられた。最後に確認を。
「それで?ティエーエムのヤツから、ダンジョン品に入れらものは押収出来ましたか?」
「………それも知ってるのか」
「はい。番頭さんも流石に子供たちに悪いと思っていたのか、教えてくれました」
「その状態もか?」
「おおよそは。残りは砂漠に捨てられたと聞いてます」
隊長がまた息を吐く。フウライさんも子供の救出から戻った時、そんな感じの顔をしていたな…
「あれが、人の所業だとは思いたく無いほどだぞ?」
「嫌だなぁ〜カーク隊長。人は結構残酷ですよ?生きたまま刻んでバラすくらい容易い……ましてや禄に抵抗も出来ない子供なら尚更でしょう。……辺境で見付けられて唯一生きていた子供も、手足と目が無い状態だったと聞きました。その所業に対しての裁きが満足出来たかと聞かれれば、ディクライエント送りなんて甘いですよね……。でも、辺境の衛兵隊はやり切ってくれたと俺は思ってます。それに、判決が既決された後も、諦めずに売られた子供をまだ探しています。だからどんな状態だろうと、見付けられた子供は辺境に連れて帰ります。カーク隊長も、身中に敵を飼ってる時に大変でしょうが、頑張って下さい!」
「…………分かったよ…俺だって衛兵隊長だ。やり切るさ!」
これで、辺境の子供は連れ帰ってやれそうだ……ロレンドさん達にもそれは知らせよう。そして、肝心の領主さんの返答が聞こえて来ないんだが?
「……シロー君!私も頑張るわ!先にこの状況を改善して行かないとね!」
「俺は領主様が何に頑張るのかは知りませんが、さっきの事をはっきりさせて下さい。ジケイナのクソジジイは、俺がランティエンスから出て戻るまで、そちらで抑えてくれるんですよね?」
「抑えるわよ!だからきちんと送ってあげて!戻ったら、ヒッルリウの所に顔を出して欲しいの。そうしたら、あのダンジョン品の記録を判決員にも見せるから」
「俺達も、あのオヤジについては、今も調べている最中だ。王都へも照会中だから、間もなく回答が送られてくる予定だしな」
ヤル気に満ちた返事が来たが、街の事となると、あんまり俺関係無いから、そっちで頑張ってくれ。
以上だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます