第283話 悟郎探偵の捜査
領主館は、やはり荘厳な作りが、おちゃらけを抑止させて来る。別にはっちゃける気はねぇけど、いつも通りにはさせてくれない雰囲気がある。
入口の扉の両脇には、専属の衛兵らしい人が立っていて、街で見掛ける制服とは違う物を着用してるし。
隊長とギルド長に敬礼し、俺を『なんだコイツは?』と、
はぁ〜〜〜〜〜役所っぽくて、やっぱり嫌いだな。
その床もピッカピカで、ゴミ1つ落ちていない。ふと、悟郎さんが首の根元を後ろ足で搔くと、フワッと白茶色の毛が舞った。
そうだよ!綺麗過ぎて、余計に落ち着かねぇんだ!ちょっとは汚して、気兼ねない領主館にしようぜ!いっその事、悟郎さんのブラッシングもしようか?
悟郎さんを撫でて、更に毛を舞わせる。正面の窓から差し込む光で、キラキラと輝いて見える……。少し埃も相まって、チンダル現象でもっとキラキラして来ると、悟郎さん降臨!って感じだ!神々しいね……。
「カーク隊長。その様な不浄な魔物連れの小汚い冒険者を領主館に入れないでもらいたい。即刻退去させよ!」
「……ムヨハマ殿。この度、貴重なダンジョン品に記録された情報をご領主様に見て頂く必要があり、この者を連れて参りました。ご覧頂け無い場合は、ランティエンスの不利益にもなりかねない事なので、ご了承下さい。」
「ランティエンスの不利益だと?!ならば、先に儂が見るから出してみせよ!」
来たよ!クソ儂!!俺、儂、大嫌い。
……それにコイツ『黒』だし、しかも悟郎さんを不浄な魔物だと?!テメェの面の方がよっぽど不浄だ!脂ギッシュなクソジジイめ!!あぶら取り紙で顔を拭いて出直せクズ!!
「(ギルド長、コイツが誰かは知りませんが、ジケイナとくっついてるっぽいです。あの記録は見せられませんよ。)」
「(……そうか、分かった。)」
「ムヨハマ殿。失礼ですが、あなたにそれを決める権限は無いと思いますが?その判断を含めてご領主様にお伺いを立てます。」
「…お前!冒険者ギルドの長風情がデカい口を聞くな!!」
うわ〜〜頭ごなしなこの言いっぷり!俺の一番嫌なな“儂”だぞ。
「ムヨハマ殿、あなたこそ越権行為が過ぎる様なら、こちらも然るべき手段を講じますよ?」
「……カーク隊長。いつまでもその隊長の地位にいられると思うなよ!!」
「………話はもう終わりにさせて頂きます。あなた程度に説明する義務は、私にはありませんので。」
「貴様!!」
カーク隊長カッケー!!そんなクソ儂なんざ、もっと扱き下ろせ〜!!俺が腹の中で囃していたら、ヘボクソ儂は、ぶつくさと悪態を付き俺達を睨み付けると、その場から去って行った。
「うはっ!ショボっ!!!そんなんで引き下がるなら、最初から絡むなよって感じだな!」
「ヤツは所詮小物だ。大商会の声掛けで気がデカくなった所で、その者の器が変わった訳でもないのに、それを錯覚出来る都合の良いオツムをしているんだろうよ。」
はは!ギルド長も言うな〜!さっきのオヤジの名前は『雑魚ヘボクソ儂』で覚えておくか。
「シロー。この先にもさっきの『混ざりモン』がいると思う。もし『看破』を使う余裕があるなら、後でギルドに協力要請として依頼を出しておくから頼めないか?」
「……はい、大丈夫です。ただ、俺の魔法はまだ育成中で、全ての情報を掴めるかは約束出来ません。それと、見た結果は色で伝えて良いですか?『混ざりモン』は『黒』で、大丈夫な者は『白』でお知らせします。基本的には、相手を正面から見て、右側の人物から伝えていきます。」
進みつつ打合せをしていると、また、装飾の凝ったドアの前に2人の衛兵。
「『黒』、『白』」
「………はぁ…まさかここまで…………。さっき扉前に居た兵は見てたか?」
「どちらも『白』」
「分かった、ありがとう。…………2人共、警備ご苦労。悪いがお前は、入口に行って、どちらの兵でも構わないから、こちらに来る様に言ってくれ。代わりに入口の警備はそのままお前が引き継ぎとする。」
「な、何故でしょうか?」
「何故?警備は基本持ち回りだ。呼んで来た衛兵と変わって、何か不都合でもあるのか?」
「いえ……ありません。」
「なら、こちらで待ってるから、早めに入れ替わりを頼む。」
「………了解しました。」
……何だ?ヤツの状態が『焦り』に変わった…。
「悟郎さん、俺も見てるけど、何か怪しいのに気付いたら教えて。」
「ニャッ(わかった)!」
魔力は………まだ平気だな。ちょっと防御しておこう。
「隊長!お呼びとお聞きして参りました!」
「急に済まないな。今日は、このままここの警備をしてもらいたい。それと、俺の指示が直接無い入れ替わりは決してしない事。無理に替わろうとする者がいた場合は、問答無用で拘束して構わない。いいな?」
「「了解!」」
衛兵2人の顔に緊張が滲む。そりゃ、ただ事じゃない感じがするよな。
その『ただ事』が何なのかは…きっと隊長もギルド長もはっきりとは分かってなさそうだけど。もちろん俺も。
衛兵への指示が終わり、改めて隊長がドアの方へ向かった。
そして、ドアをノックすると、女の声が返って来たが……なんだ?秘書でもいるのか??
「……失礼します、ノクイルヨン様。お忙しい所、お邪魔して申し訳ありません。」
「構わない。そろそろ休憩したいとは思っていたからね。……報告を聞くのは、お茶を飲みながらでも平気?」
「はい、構いません。」
?????えーーーーと………これどれだ?男か?ヅカ風味の女か?それとも第3の……?……異世界にもいるのか?!
と、とりあえずは、見ておかなきゃな………。
「……そっちの子は、ヒッルリウの所にいる冒険者?随分可愛いね。」
「そうです。久し振りにお持ちしたタケも含めて、最近の納品物はコイツ等のお陰です。シローと言います。」
「そうだったの!それはお礼を言わないと!クリフが辞めてからは新鮮な
あ、調べたら女性だった……それに
「恐れ入ります。」
「ふふっ!それにデザートキャットも久し振りに見たわ!やっぱり砂漠で一番可愛い魔物よね?」
「全ての魔物を知りませんが、俺が遭遇した中では一番可愛いです。確かに。間違いなく。」
流石、領主……見る目もある。
まあ、悟郎さんの可愛さは溢れ出しているから、誰もが気づいてしまうのは、致し方無い事だ…。
「……シロー、どうだ?」
「全部『黒』」
「!!!」
この領主の部屋には、護衛の衛兵が2人、メイドっぽい女が1人、秘書?文官?みたいな男が1人いたが、全員『買収済(ジケイナ)』と出て来た。
使いまくって段位が上がったのか、情報が少し増えた。……それにしても、新規店舗開業でここまでするか?!
カーク隊長が、領主さんに全員の人払いをと、静かに言うと、流石に領主さんも驚きの表情に変わる。
それでも、領主さんは隊長の言う通り、すぐに人払いの指示を出してくれた。
「……これから重要な報告を聞くから、全員退出をしなさい。」
「ノクイルヨン様!それでは、何かの時の防備や給仕に差し支えます。せめて、1人ずつは残して……」
「あら、この2人にそこの衛兵は
「…っ!分りました…………。」
秘書風の男の言葉を全否定し、人払いをさせると、フウッと、息を吐いて椅子に腰掛けた。
「……先にお茶にさせてよ?最近、疲れてしまって堪らないのよ。」
「以前の給仕の女はどうした?お前と気が合っていたじゃないか?」
「それがね、ご家族に不幸があった様で、帰省したまま戻らないのよ。落ち着いたら戻って来てくれると、話をしていたんだけれど………。」
「それは俺の方で調べておく。先ずは休め。本当に顔色も悪いぞ?」
悟郎さんがソワソワしてる。何か気になる物があったんだな?
「俺がお茶用意をしても良いですか?」
「シロー、さっきのヤツも出してくれねぇか?」
「良いですよ。何点か出すんで摘んで下さい。」
お茶は、この前の緑茶レモンフレーバーを淹れるか…。もう、マジでトラキオさんに言われた通り、茶器セットを買っておいて良かった。
カップは用意してくれたやつに……………おい。
「?どうしたシロー??」
「……あの、いつもこのカップを使っているんですか?」
「ええ、以前愛用していたカップは、給仕が誤って割ってしまったの。それを見て、補佐のトーンハッセが揃えてくれたのよ。最近はいつもこれを使ってるわね?」
【カップ(生焼け) 釉薬及び縁取りの装飾に、銅、鉛が混ぜ込まれているカップ。特に酸性の物を入れると溶け出す量が増す。】
これ態とか……?おかし過ぎるだろ?!ジワジワ金属中毒まっしぐらのカップを領主に使わせるとか…。
「何か……」
「(少し待って下さい…。)」
悟郎さんのソワソワがピークに達しそうだから、とりあえずは、俺の持ってる茶器にお茶を注ぎ、各種フルーツとさっきのピスタチオ料理を出し、先にどうぞと勧めておく。
悟郎さんの指示で部屋の中を行くと、カーク隊長が着いてきた。ギルド長はそのまま席について、領主さんの相手をしている。
「……!」
「(これだね?)」
悟郎さんが示したのは、領主さんの仕事机に置いてあった飾りの付いた花瓶だ。
【声伝えのダンジョン品 花瓶が置かれた場所の音を離れた所で聞くことが可能になるダンジョン品】
おい!これ盗聴器じゃねぇか!!カーク隊長には、皮紙にその機能を書いて知らせ、バケツを出して水を貯め、その中に盗聴のダンジョン品を沈めた。…花は大丈夫みたいだから、とりあえずは竹に水を入れて差しておくか。
悟郎探偵の捜査がまだ続いている。次は書棚か…。
ここには犬っぽい動物を象った置き物があった。犬か……俺が見た事あるのって狼くらいだよな?こんなザ・犬(レトリバー)もどっかにいるのか?!
【遠見のダンジョン品 置き物が置かれた場所の視界を遠くに伝えるダンジョン品】
今度は盗撮かよ……。え?何これ…普通にキモいんだけど。こんなダンジョン品もあるのか?!
速攻でそいつも水に沈め、カーク隊長に同じく伝える。どんどん隊長の顔が険しくなるぞ。
悟郎探偵も落ち着いた様で、最後に俺も一廻り見て確認し………何だこれは?……まだあったのか?
【隠蔽のクロス クロスを被せると物を隠す事が出来るダンジョン品】
おいおい…何を隠してくれてんだよ?絶対にヤバいモンだろ?!これ、迂闊に
全員に護身を掛け、クロス丸ごと水の魔法で包んでそのまま凍らせてから、ひっくり返した。
これ何だ……?調べようとしたら、カーク隊長が掴んで窓から放ろうとする。
待て待て!これ証拠のダンジョン品だから!
何とか止めて、手にしたダンジョン品を渡して貰い、隠された物の確認をした。
【弩弓 矢がセットされた弩弓。矢の台座には通常より細い矢を複数纏めて設置し、クロスが剥がれたタイミングで発射されるように細工がされている。】
おおぅ……。領主さんの机に向いてたぞ?この弩弓。これはそのまま収納させて貰います。
あとは……………………大丈夫だな。それにしても、この部屋不穏過ぎ!
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