第282話 領主館へ
「ヒッルリウ、ウチの衛兵のせいで足労を掛けて済まなかったな。……そっちの者が冒険者のシローか?」
「おお、そうだ。どっちにしろ、コイツが持ってるダンジョン品の確認をして貰う時には同行する予定だったから気にすんな。お前も最近、混ざりモンが増えて大変だな。」
「混ざりモン?」
おっと……聞き慣れない言葉につい、口を挟んじまった。
「そうだ。まあ、そのままに言えないから、使ってるだけなんだがな。要は、間者やさっきのヤツ等みたいに、誰かの息の掛った者が増えているんだよ。お前が『看破』を使えるから言ったが、他には口外はしないように。それと、今回は迷惑を掛けて本当に済まなかったな。」
「いえ、俺は大丈夫ですが……。それって、ジケイナの耄碌クソジジイのせいですか?」
「はは!お前言うな〜!………証拠は無いが、ここの所、王都から態々足を伸ばして来ては、商談と称してランティエンスで店を開く為の根回しをしてるから、ほぼ間違いないと睨んでいる。」
「ええーー!!あんなクソジジイがランティエンスで店を開いたら、他の良い店を押しやって、やりたい放題すんじゃないですか?!」
せっかく香辛料やお茶の葉、美味い店の多い街なのに!皆で反対運動でもやって阻止した方が、この街の為だと思うぞ?!
「だがな、特段理由も無く、王都の大商会の出店を拒むことは出来ない。」
「……そうか。これだけじゃ弱いか。」
カークさんにスマホに記録した動画を見て貰い、今回のヤツの発言が虚偽である確認をしてもらう。
「…………これは、なかり鮮明に記録されているな!確かに手を出したのは、ジケイナの護衛が先だ。ははは!アイツはこれの存在を知らずに、偽りの訴えを出した訳だ。もう、言い逃れはさせないぞ!」
「だがカーク、これだけでは思い違いだったと、ヤツなら訴えを取り下げて終わってしまう気がする。もう少し泳がせでみないか?ジジイのしつこさなら、シローにやり返す迄は諦めねぇと思うからよ。」
「………ギルド長、それ俺を囮にする話ですよね?」
ニカッと笑って“そうだ!”と、悪怯れなく言い放ちやがった!くそオヤジめ〜!
「きっと、お前がランティエンスから出ようものなら、絶対に仕掛けて来ると思わねぇ?」
「ですが、俺、この後は攫われたロシェルと家族を家まで護衛する予定なんです。それは動かせません。」
止められたって、追われたって振り切ってやるつもりだし。
「そうか………。シロー、悪いがさっきの記録をもう一人に見せてもらいたい。お前の都合は大丈夫か?」
「ええ。大丈夫ですよ。この記録の確認に付いては、今日にでも完了させて、いつでもロシェルと家族を送ってやれる様に準備をしたいんで。」
「そうか、分かった。あと、ヘリミエアとその子供を街まで連れ帰ってくれて、本当にありがとう。砂漠では遺体も残らないから、たまに、残された遺族が諦めきれずに探しに出て、更に不幸な結果になる事があるんだ。その子の両親には俺も会ったが、あの母親はきっと、子供を探して彷徨い歩きそうだったからさ。」
「そんな感じ、ありましたね……。なので、ロシェルが落ち着いたら、直ぐにでも帰りたいと、強く言ってました。」
こっちの予定と希望を伝え、そのもう一人に記録を見てもらいに移動をする。
衛兵隊の隊舎を出て2人の後ろを歩いて行くと、何だか立派な石造りの建物が……。あれぇ…?辺境でも見た事がある……判決所だよな?すると、判決員の人に見て貰うんだよな?な?
………その判決所をスルーして、その先の更にデカい建物にどんどん近付いて行く。嫌な予感がする!!
「あの〜〜〜、カーク隊長。まさか領主…さ…まに見て貰うとかじゃ無いですよね?」
「いや、ご領主様に見て頂く。さっきも言った通り、混ざりモンのせいで迂闊な事が出来ないんだよ。ランティエンスから速やかにお前達を出す為にも、ご領主様の理解と協力が必要だ。」
マジかよ!!辺境でも回避で済ませたのに、ランティエンスに来て捕まるなんて……!
「何だよシロー……ビビってるのか?ウチの領主様は良い方だから安心しろよ!最近、ちょっとお疲れ気味だから、お前が渡しても大丈夫な果物とか、差し入れてくれると嬉しいなー!ついでに、ギルドにも卸してくれると、もっと嬉しいなー!!」
「……ギルド長、“嬉しいなー!”じゃないでしょ?!いい年したおっさんが、気持ち悪い言い方しないで下さいよ…。俺は悟郎さんのヒゲには
「そう言うなよ〜!辺境の果物でも嬉しいぞ!」
このオヤジは………。ん〜〜〜〜日数的にリンゴはここまで輸送可能……だよな。
「……なら、味見にコレをどうぞ。辺境で新たに採取されている果物です。寒くなり始めの時期に収獲出来るんで、ランティエンスへも流通するかもしれませんよ。」
「おう!そうか、ありがとう!!頂くよ!!」
「俺まで悪いな。ご馳走になる。」
歩きながらリンゴを齧るオヤジ達。悟郎さんもジャーキー食べる?え?
「しかし、お前の収納は、種類もそうだが容量はどんだけ入るんだよ?狙われねぇ様に気を付けろよ?」
「気を付けて……ますよ?それに、俺を殺して奪った所で、何一つ手には入らないんですけどね。既に俺専用で、しかも、俺が死んだら袋ごと中身も消滅するらしいから。」
「それでもだよ!そんな事が分かるのは、お前を殺しだ後だろ?!」
「……そうですね。でも、既に
「あ〜〜そうだな。確かに、アイツはダンジョン品に目が無いんだが『欲しい』って欲求より、見たい、調べたいって方が強そうなんだよ。……あと、果物美味かった!これだけ固くても、しっかり甘いし瑞々しい!ランティエンスまで運んでくれるといいな〜!」
「そうだな。こんな美味い果実は、ここでは実らないからな。」
まあ、これだけ砂漠に囲まれてればね。それに街の中は、お茶の木や香辛料の樹木が優先されているから、他には野菜類と水路に沿って置かれている、花壇の花しか見ないしな。
「……ギルド長、これは知ってますよね?」
「え?……ああ、知ってる。大砂漠にある実だろ?こいつは殻も硬いし中の実も食えなくは無いが、歯ざわりも悪いし、たいして美味くねぇぞ?」
「これ、その実で作りました。」
1つはピスタチオクリーム。もう1つはピスタチオを粉にして、小麦粉と合わせて振るってから焼いた卵無しのパンケーキ。最後に細かく刻んだエリンギとニンニク、玉ねぎを炒め、ペーストと粗みじん切りのピスタチオを加えて作った、モッタリとしたピスタチオソース。胡椒も利かせてあるし、パンや肉と一緒に食っても美味いやつだ。
昨夜は飯を食った後もちょっと落ち着けなかったから、宿にお願いをして、厨房の隅っこに場所を借り、少し料理を作っていた。
悟郎さんとピスタチオクリームを約束してたし。
ピスタチオって、俺的には色鮮やかなグリーンを前面に出して作る方が良いと思うんだよ。
「凄い色だな……。」
「あ…ああ、そうだな。」
「木の実の色ですよ?綺麗な色じゃないですか!」
「俺の印象では、食い物にはなかなか見られないと思うんだが?」
「あ…ああ、確かに。」
「野菜も同じ色!それに、いつも黄色くて鮮やかな、飯を食ってるじゃないですか?!」
…………コイツ等。
今度、紫芋が手に入ったら、紫色のパンケーキを作って食わせてやる。
それでもビグビクしながら、パンケーキwithピスタチオクリームを口にする。そんな小さな一欠片ぐらい一口で行けよ、ビビリオヤジ共!!
ん?悟郎さんも食う?はい、どうぞ〜!お代わりして良いからね?
ビビリオヤジ共は、一口食って美味いと分かってからは残りを即食いして、ソースを載せたパンに手を付けた。
「おお!これも美味い!胡椒が利いてるのに、木の実の円やかさも残ってるな!」
「……美味い。俺はこっちの方が好みだ。ご領主様は最初の方が好きだろうな。」
それでも歩きながら、一口試食会を終わらせ、香辛料と一緒にピスタチオも辺境へ流通希望をしておいた。
後は、戻って商業ギルドのギルド長にレシピと共に伝えれば、取り寄せしてくれるだろう。
でも、その前にトラキオさんのオヤジさんが、美味い料理にしてくれるだろうから楽しみだな!
あ〜〜〜もう領主館に着く……………。行きたくねぇ。会いたくねぇ。でも、今回はクソジジイのせいで、何かと邪魔が入るから……使えるなら使うしかねぇのか……。
クソーーー!許すまじ!耄碌クソジジイめ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます