第281話 苦しい言い逃れ

 さあ。速やかにギルド長、若しくは副ギルド長を呼びたい。


 受付は相変わらず混雑しているし、俺はそもそも受付嬢が嫌いだ。そこで、釣れるかどうか試してみよう。


「………あ!こんな所に珍しいダンジョン品が(あったらいいな〜)!」


 ザワつく受付の奥からお目当ての人が出て来た。オタクグッジョブ!裏切らねぇな!!


「何処ですか?!珍しいダンジョン品と言うのは!」

「あ、おはようございますバルクナイダンジョン品オタクさん。」

「え?ああ、シロー君か。それより珍しいダンジョン品と言う声が聞こえたんだよ!君、知らないかい?」

「今日はもうギルド長はいらっしゃいますか?ご案内頂けるなら、俺の持ってるダンジョン品を1つ見せますよ?」

「ギルド長ならいるよ!すぐ行こうか!」


 使えるオタクは良いオタク〜。

 そのままバルクナイダンジョン品オタクさんに案内され着いて行くと、扉をノックして返事も待たずに開けてしまった。


「ギルド長!」

「おい、バルクナイ!いつも言ってるが、俺が返事をしてから開けろ!」

「ですが、以前の様な事も考えられますから無理ですね。シロー君を連れて来ました!」


 以前、何があったかは知らねぇけど、早くて助かるよ!ギルド長に説明する前に………ペットボトルで良いか?

 バルクナイダンジョン品オタクさんに渡しておく。


「何だい?!これは初めて見るよ!」

「まあ、魔導具にもある水を飲む容れ物をです。魔力を流すと………こんな感じで中身がある限りは補充が可能です。」

「……それは…………まさか、中身が何でも良いのか?」

「はい。水だろうと、お茶だろうと、スープだろうと、入っている物が増やせます。」

「凄い!!!」

 

 蓋を開けて渡すと、バルクナイダンジョン品オタクさんが手にして色々な角度から見たりしている。飲んでも良いかと聞かれたんで、カップを渡して注いでから飲むように指示をした。


「ええ?!これ、中身が冷たいよ?!」

「温度も保持しますから。それよりギルド長、あの記録をさっさと見せに行きたい事態が起こったんで、忙しいとは思いますが同行をお願い出来ませんか?」

「……何があった?」

「今日来た衛兵曰く、ほぼ容疑が確定してそうな感じで捕縛すると言ってましてね。たぶん、途中で巻いて来たんで、暫くでその衛兵達はギルドに到着します。」

「巻くって……まあ、いい。それならこれから行こうか。お前等がこのままランティエンスを出てしまったら、他の面倒が確実に起こるし、ギルドもそれに巻き込まれるからな。」


 こっちも話が早くて助かるね!名残惜しそうにするバルクナイダンジョン品オタクさんにペットボトルを返してもらい、受付の方へ戻るとやっと衛兵達が到着したのか、さっきよりも騒がしくなっていた。


「あ!!お前…!」

「ああ!良かった〜!!後ろを見たら衛兵さんが居なくなってたから、焦りましたよ!先にギルド長とお話して、同行の許可を頂きました!」

「………そうか。とにかく、ヒッルリウギルド長、お忙しい所、ご同行頂き感謝します。」

「別に良いさ。ランティエンスの所属では無いが、有能なギルド員を無実の罪で拘束されては、こちらもたまったもんじゃないからな。」

「………アレを既にご覧になったので?」

「ああ……昨日の時点で確認しているが?それと、既に訴えが出ている案件だ。衛兵隊隊長及び当番の判決員にも全員同席してもらう。珍しいダンジョン品の記録だ。ご覧頂ける判決員の方々にも、その内容を含めて興味深く見てもらえるだろう。」

「わ、分りました……………。」


 あれ?ギルド長って、思ったより頼りになるか?後から出て来て仕切ってた衛兵(買収済)を黙らせたぞ。


 宿に来た時点で、押し寄せた衛兵は『博覧強記はくらんきょうき』で確認したあと、『看破』を使って見ている。……結果は見事に3名様が買収済と出た。


 さすが、王都の大商会ともなると、金の使い方が剛気で、俺にはとても真似出来ないね!


「なら、早速行きましょうか!」

「あ、ああ…。」


 鈍い返事を返して来たのは『このままではマズい!』と、思ったからか?


 俺は良く分らないんだけと、買収されて金を受け取っておいて失敗、若しくは相手が望んでいた結果を得られなかった場合って、何のリスクも無いのかねぇ?


 ……少なくともあのクソジジイで、それはねぇだろうな。ま、それならそれで、保身に走って買収された事を話してくれたら御の字か…。


 それにしても、この『看破』はもっと早く欲しかったぞ!


 そんな事を言ってもしょうがないから、全然関係の無い人を見てでも、速攻で育てようと思ったけど、家族で仲良くお出掛け中の父親に(不倫中)と見えてしまって萎えた…。


 無難そうな所で、バルクナイダンジョン品オタクさんなら平気だろって、『看破』を使ったら(ダンジョン品狂い)って出てしまい、やっぱり使った事を後悔した。


 それもそうか…。あの『ブラックダリア』の事を説明しても、引くどころか造形の美しさを褒めていたからな…。


 だから、これからはあの人は、バルクナイ(ダンジョン品狂い)さんに呼び名を変更する事に決めた。


 そして、“行きましょう!”と、自分で言った割には、例によって場所を知らない俺なんで、ギルド長の後に付いて行く。ランティエンスクラスの街なら観光案内所や観光マップでも用意して欲しいもんだぜ。


 ……あ、店の名前を『看破』で見たら“金物屋”と見えた。そうか!博覧強記はくらんきょうきでも分かるけど、俺が知らないと言う状態であれば、使うのは人である必要はないんだ!


「…………おい、シロー。キョロキョロして何かしてるのか?」

「あ、すみません。最近魔法が増えたんで、使って育ててます。」

「……はあ?!お、お前いくつ目だよ?!」

「ええ〜〜?いくらギルド長でも、それは言えません!でも、今回覚えたのは鑑定では解らなかった事が見える魔法ですね。………俺、辺境に居た時から色々とあって、ランティエンスでダンジョン潜った時にも、調べる対象が無いと使えない『鑑定』だけじゃ無く、隠された事も分かれば良いのにってずっと思ってたんですよ。その上、ここ最近で子供を攫う手伝いをした衛兵なんかもいたせいで、そう言う輩を見破る術は無いもんかな〜って、ずーーっと考えてたんです。そしたら、生えてきました!」

「タケじゃねぇんだぞ?!そんな簡単に魔法が生えてたまるか!!」


 『見破る』と俺が言った辺りから、あの3人の動向が怪しい。逃さない様に注意しておこう…。

 保身に走っても、逃走は絶対に許さねぇ。


 その後もギルド長に色々と聞かれたけど、ノラリクラリと躱して、逆に俺達がギルドに売却した物は、ティエーエム商会とジケイナ商会には決して売らないで下さいね~と、念押ししておく。


 そうは言っても、その先で商人同士の繋がりを使って、取引されたらそれまでだと言われたが、ギルドの卸値で購入させない程度の、細やかな抵抗はさせて欲しい。


「ん?ヒッルリウ。忙しいだろうに、隊舎まで来るなんて珍しいな……どうした?」

「おう、カーク。ちょっと聞きたいんだが、ウチのギルド員に捕縛命令を出したか?」

「……捕縛命令?お前の所には、照会と召還依頼はしたがそれだけだぞ?」

「だ、そうだ…。テメェ等、誰の指示で勝手な事をしたのか話してもらおうか。今回は、宿で騒ぎを起こした様だから、証人も証言もたくさん出るだろう。そこの所を良く考えてから話すんだな。」


 既に例の3人は真っ青。他の同行した衛兵は、寝耳に水と言った顔でポカンとしていた。


「……隊長、捕縛命令は出されていないんですか?」

「出して無い。それに通常、捕縛を命令する時は必ず命令書を渡しているだろう?お前達はそれを確認したのか?!」

「も、申し訳ありません!確認しておりません!」


 あ、このカークさんて人が隊長なのか。ギルド長とは懇意なのか、気やすい感じだったな。


 無買収の衛兵達は、揃って3人組の方を見ており、ヤツ等も何かを話さなくてはならなくなっていた。


「も…申し訳ありません!私達もその者に捕縛命令が出たからと、トレッチスさんに言われて動きました!」

「そうです!」

「確認不足で、申し訳ありません!」

「………………そうか。いつ、トレッチスからその指示があったんだ?」

「今朝の事です!」


 あれ?コイツらトレッチスって、ロシェルを攫ったクソ衛兵が死んだの知らねぇのか?

 あ〜あ〜!おバカさん共が墓穴掘って、なにかを言う手間が省けたぞ!


「調査の為にまだ公にしていないが、トレッチスなら、昨日死んだが?」

「「「ええっ?!」」」


 隊長の言葉に3人以外の衛兵も驚き、声を上げた。

 その中でも悪足掻きの出来るヤツが1人、更に苦しい言い訳を始めた。


「…す、すみません。言い間違いをしました。トレッチスさんから言付かって来たと、ヘリミエアに聞いて動いたんです!」

「おい…お前等いい加減にしろ!!ヘリミエアも昨日死んだ!!トレッチスに騙された事に気付き、攫われた子供を助ける為にな!!」

「!!!」


 隊長のその言葉で、更に深い墓穴を掘った事を知り、愕然とする。……さあ、どうするのかな?

 隊長も暫く様子を見ていたが、3人からその後、何かが語られる事は無かった。


「…お前等の事は改めて査問に掛ける事とする。それまで全員、一時行動制限の為に投獄させてもらう。」

「そんな!!」


 口々に不満や疑問が出たが、他にも衛兵が来て俺の元に来た衛兵達を取り囲んだ。


「あの、隊長さん。余計な事ですが査問の参考までに。買収されていたのは先程の3人だけでしたよ。」

「……なに?」

「あ!お前、さっき言ってた魔法ってまさか『看破』なのか?!」

「はい。とっても便利ですよね?使い熟せる様に、これからしっかり、がっつり使用して行きます!」


 買収を晒され、アホみたいに口を開ける3人組。


 巻き込んだ他の衛兵からの冷たい視線と詰問を受けて、投獄された場所で過ごすといいぞ。

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