第277話 事後の始末

「……ん?おい…あれは?!」

「あ!おい!どうしたんだ!!」


 俺達を見付けた大砂漠の外門にいた衛兵が、慌てて駈け寄って来た。


「…お前は、ヘリミエア!さっきトレッチスさんと冒険者と一緒に連れ立って出て行ったよな?!」

「……すみ…ません…、トレ…チスさんに……騙されま……した……。」

「は?!どう言う事だ!!」

「……子供を……さら…て……たんです。」


 ヘリミエアの言葉に、聞いていた衛兵達が驚きの表情を見せた。俺は、抱いていたロシェルの顔が見える様にタオルを少し寄せた。


「あ!!さっき子供が攫われたと、確かに届け出が出ていた!その子の事なのか?!」

「……すみ…ませんっ…すみませ…ん………。」


 ヘリミエアは意識が混濁して来たのか、うわ言の様に謝罪の言葉を繰り返している。


「すまん!俺達の持っていた回復と解毒薬も切れた。予備が衛兵詰所に無いか?」

「ああ!!あるぞ!!ヘリミエア、頑張れ!!今、薬を持ってくるからな!!」


 両脇からヘリミエア支えていた、ロレンドさんとトラキオさんが衛兵にそう声を掛けると、直ぐ様1人が駆け出し、残りの衛兵がヘリミエアを代わりに支えた。


「その衛兵さんは、子供が攫われたと気付き、助けようとしたみたいなんです。そこにツルセラと遭遇して毒を受けた所を俺達が発見しました。捕食中のツルセラの隙を付いて助け出せたのは、その人と子供だけです。」

「……捕食中。じゃあトレッチスさんと残りの冒険者は…。そうだ!子供は毒を受けていないのか?!」

「……はい。たぶんヘリミエアさんが庇ったんだと思います。気絶しているだけでした。」


 俺がそう話すと、話を聞いていた者が一様にヘリミエアを讃え、強く励まして来た。ヘリミエアにそれが届いているかは分らない。


 虚ろな視線が彷徨い、既に色を無くしている。


「おい!薬だ!早く飲ませてやってくれ!」

「ヘリミエア!薬だぞ、飲んでくれ!せっかく街まで戻ったんだ!頑張るんだ!!」

「…………あ………が…と……………」

「何だ?おい!ヘリミエア!!………ヘリミエア?」


 瞼が落ち、毒に喘いだ呼吸も消えた。


 お前はそんなにゼルが欲しかったのか?自分の命よりも?衛兵の仕事をしていれば、普通に生活出来ただろうがよ…。


「ロシェル!ロシェル!!」


 ヘリミエアの死に静まり返った外門に、誰かが知らせたのか、母親らしき女の声が聞こえて来た。

 泣き腫らした目をキョロキョロと動かし、懸命にロシェルを探している。


「こちらです!」

「ああ!!!ロシェル!!良かった…良かったロシェル。」

「ロシェル!ありがとうございます!あなたが息子を助けてくれたんですか?」

「いいえ、そこの……衛兵さんが、命を賭して助けてくれたんですよ。」


 俺がそう言うと、2人は目を見張り、既に事切れたヘリミエアの方へ視線を向けた。


「…なんて事だ………。息子を助ける為に…!」

「………そんな!」


 喜びもつかの間、聞かされた恩人の死に2人が嘆いた。そこに担架の様な物が運び込まれ、ヘリミエアが横たえられると、すすり泣きの声が聞こえて来る。


 最後に手伝いをしてもらう為、ヘリミエアに説明をしたが、その途中、何度も『家族は許してくれ』と言われ、そんなに大事な物があるなら何故…と、またこっちが聞き返したくなってしまった。


 あまりに何度も念を押すもんだから『俺の今の家族に誓って手は出さない』と、そう伝えるとやっと落ち着いたほどだ。


「……これを手向けてもいいか?」

「それは…ゴドルリーマデザートマリーゴールドか……。ありがとう…ヘリミエアも『勇気』の名を持つ花を貰えて……あの子を助ける事が出来て…衛兵として本望だと思うよ。」


 その話の真実は、もうヘリミエアが墓場に持って行った。だから、俺は何も言う事は無い。


「兄さん!!」


 そこに、外門に出来た人集りをかき分け、息を切らせた若い女が1人駆け付けて来た。


「……そんな…どうして!」


 担架に乗せられたヘリミエアを見て、フラフラと近寄ると、その手を握り何度も呼び掛ける。


「レクローラさん、身体に障るから……少し落ち着いて。」

「いや!!どうしてよ!!何で兄さんが!!」

「……ヘリミエアは、攫われた子供に気づいて、助ける為にツルセラの毒を受けてしまったんだ。」

「……子供…を?………父さんと一緒……そんな所まで……似ないで欲しかった………。」


 ………身体に障る?どこか悪いのか?



名前 レクローラ

性別 女

種族 人族

レベル 12

属性 風

状態 白血病


体力 23 (-5)

耐久 19 (-8)

力  13

魔力 20

知力 21

瞬発力 14

運 29


魔法 風魔法



 金が欲しかった理由……。妹の話から、父親が同じ衛兵の仕事で既に亡くなってるのが分かった。


 妹さんは、『耐久』が既に半分に落ちているし、色々な不調が表れていたのかもしれない。


 ふと、カレントがメリエナさんの治療や薬に色々と金を掛けていた事を思い出した。


 だけど白血病って、回復で治せるのか?どっちにしても、今なにかをするタイミングではない。


 ロシェルの両親が、レクローラさんに感謝と詫びを伝えている。気丈に対応しているが、レクローラさんの顔色が良く無い。


 それにロシェルの両親には、後で少しロシェルの様子と、今後の予定を確認したい。また、巻き込ま無いとも限らない状況だからな。


 ロレンドさん達に促され、衛兵の人に挨拶してから、その場を離れた。ギルドへの納品もまだ済んでいないしな。


「アイツに譲る形になったが、シローはあれで良かったのか?」

「さあ…。ただ、あの子と一緒に街へ連れて帰る、正当な理由が他に出て来なかったんですよ。それに、アイツをあのまま放置する気にはなれなかったんで。」

「………今回の事、シローの姿を見るだけで、ビク付く様な者がやることではなかった。明らかに対価で引っ張られて、抜けられなくなったんだろう。」

「そうですね……俺もそう思いました。」


 そして、相変わらずの引っ付き虫が後を付いて来る。ランティエンスでは、一利一害の繰り返しが激しいな。


 それを無視してギルドへ行き、依頼の花2種とベナドンサーバ(バーベナ)を合わせて納品する。

 今日は、さすがに倉庫まで行かずに受付で済ませられるからな。


「……はい!確かに依頼の花ですね!とても良い状態で助かります!しかもベナドンサーバまで…追加の料金はお出し出来ませんが、構わないんですか?」

「ああ。同じ場所に咲いていたから、採取に取られた時間も変らないしな。祝の花と一緒に渡してやってくれ。」

「ありがとうございます!ご依頼頂いたお客様にも喜んで貰えると思います!」


 報酬を受け取り、ギルドを後にしようとしたら、いつもの売却担当のおっちゃんが手招きして来た。


「どうかしましたか?今日は、花とゴミムシの魔石ぐらいしか売る物がありませんよ?」

「違う!!ちょっと来てくれ!!」

 

 売却担当のおっちゃんに促され、大物用の倉庫まで着いて行くと、前にクソ受付嬢の時に対応してくれた、副ギルド長のバルクナイさんと、もう1人見知らぬヒゲ親父が立っていた。


「連れて来ました!」

「おお!済まなかったな、依頼後の時に呼んじまって。」

「…………………………あれ?この声…デブの指を落とした時に、色々言って来たヤツの声だ。」

「ああ、それ俺だよ俺!」

「え?詐欺?あれ嘘だったとか?!」

「何でそうなるんだよ?!嘘じゃねえ!!」

「ギルド長、話が進みませんよ………。」

 

 は?!このヒゲ親父がギルド長なの?!

 ……ちょっと頼り無さげ……もしや、ランティエンスのギルドは副ギルド長が回してるのか?!


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