第276話 救命と追跡

 ロレンドさんとトラキオさんに呼ばれて行くと、2人は蛇が吐き出した獲物に寄って声を掛けていた。


「シロー早く!!まだ息があるんだ!!」

「え?!」


 ロレンドさんに言われ、慌てて駆け寄ると、そこには蛇の唾液と消化液にまみれた子供の姿があった。


 この服は…………!

 悟郎さんのファンの男の子じゃないか?!


「回復!清浄!解毒!」




名前 ロシェル

性別 男

種族 人族

レベル 1

属性 風

状態 全身熱傷・猛毒(瀕死)


体力 9(-7)

耐久 6(-5)

力  5

魔力 15

知力 13

瞬発力 3

運 10


魔法 風魔法



「クソ!どう言う事だよ?!……そうだ!ロシェル、これを飲んでくれ!」

「………シローそれは?」

「以前ダンジョンで手に入れた万能薬です。回復!解毒!…頼む!飲んでくれれば助けられる!」


 トラキオさんに薬を渡して、急いでハウスを出し、中に連れて行く。調べてられない!蛇の死体もいったん収納だ!


 ロシェルをソファに寝かせ、俺は魔法に専念させてもらい、トラキオさんには薬を少しずつ飲ませて貰った。


 身体の熱傷は消化液による物なのか……赤味は落ち着いて来たが、爛れた跡がとても酷い。


「ロレンドさん、キッチンで容れ物を取って来て貰って良いですか?トラキオさんの万能薬を皮膚の爛れている場所に塗って欲しいんです。回復、解毒!」

「分かった!」


 薬をもっと飲ませたいけど、万一誤嚥して戻したり、詰まらせたら大変だ。トラキオさんも少しずつロシェルの口に流しては様子を見て、飲ませてくれている。


 着ていた服もボロボロになっていたが、頭の方は身体よりまだマシだった。それに、溶け方に違和感が…あの蛇だったらほぼ丸呑みにされただろうに……何でだ?


 魔法を掛けつつ、ボロボロの服を取り去っていると、麻袋の溶け残りに気付いた。


 ……これは!あのクソ野郎どもか?!


 良く見ると、ロシェルの手足には爛れと違う跡が残っており、ロープで拘束された上で麻袋に入れられ、砂漠に置き去りにされたとしか思えなかった。


 ここまで態々連れて来たのは、俺にそれを見つけさせる為か?あわよくば、目の前で魔物の餌にしようと考えたんだろう…………。


 タオルを出してロレンドさんの手当の邪魔にならない様に身体を包み、魔法を繰り返す。


 万能薬を塗ると、爛れた皮膚が綺麗に戻り、身体に籠もった熱も徐々に引いて来た。


 頑張れ!もう少し!


「………シロー、だいぶ薬を飲んでくれたが…様子はどうだ?」

「見てみます。」



名前 ロシェル

性別 男

種族 人族

レベル 1

属性 風

状態 気絶


体力 9

耐久 6

力  5

魔力 15

知力 13

瞬発力 3

運 10


魔法 風魔法



「!!良かった!ツルセラ(毒蛇)の毒も熱傷も消えました!今は気絶しているだけです。」

「そうか…………。俺の方も薬は塗り終わった。後は目を覚ましてから確認する様にしよう。」

「なら、目を覚ますまで少し出て来ます。チビ、もしこの子が目覚めたら相手をしてやって。悟郎さん、一緒に来て。」

「キュ!」

「ニャァニャオ(たおす)!」

「………留守は預かる。無理はするなよ?」

「はい。」


 クソクズが………。生きたままゴミムシの餌にしてやる。


 悟郎さんにはフードに入って、俺にライド・オンしてもらい、跳躍で一気に街を目指す。

 どうせちんたら余裕こいて歩いてんだろ……。


 暫く跳躍をすると、索敵に反応があった。……見えた!でも人影が4人だ…。あとの二人は誰だ?

 

「……ああ、なるほどね。悟郎さん、俺はこのまま飛ぶから、射程に入ったらアイツ等の足を攻撃お願い。何でもいいからね?」

「ニャッ(わかった)!」


 後の二人……あの時の衛兵だ。腐れクズめ!


 そして、跳躍で距離をあっという間に詰めると、悟郎さんが途中で礫乱射と爪飛斬を放った。宿にいた冒険者っぽいヤツ等へは、より多くの礫が飛んでいた。


 ……そうだよな。俺が悟郎さんに見せたく無くて、フードに入って貰ったけど、悟郎さんだって怒ってたんだよ……。


 4人は悟郎さんの攻撃を受け、その場で足を押えてギャアギャア騒いでいた。


「……うるせぇな。黙れよクズ共。」

「!お前!!衛兵にこんなこ……ギャアァァ!!」

「俺は黙れって言ったんだよ?その耳は飾りか?」


 口を出して来た上司の衛兵の耳を切り飛ばし、ヤツ等の眼の前にさっき討伐した蛇の頭を無造作に置いた。


「…………男の子は助け出したよ?今は休んで貰ってる。それと……あの子の両親はどうした?答えなかったら、まだある足も含めて、順番に刻んでいくぞ?」

「!!こ、子供を…攫ったたけだ!親には何もしてない!」

「………本当に?嘘だったら、お前等の親兄弟親族全員、纏めて生きたままツルセラの餌にするからな?」

「嘘じゃない!!本当だ!!」

「そう……でも俺の忠告を無視して、こんな事をするヘリミエアさんの言う事じゃ信用ならないな……。」


 俺がそう言うと、必死になって『信じてくれ!』と、叫ぶヘリミエア。手を出されたくない相手がいるのかな?


「……ならとりあえずは信じよう。まあ、もし違っていたら、その時ヤれば済む話だしな。……ん?…悟郎さんどうした?………そうだね。1人残してくれれば良いよ……好きにしな。……悟郎さんがね、同族殺しを怒っててさ…。我慢出来ないみたい。」

「…ギャア!クソ猫がっ!……グッゥ!」


 悟郎さんが攻撃を向けたのは、俺に殴り掛かって来たヤツの方だった。……そっちからより強く、血の匂いがしたそうだ。野生の嗅覚には敵わねぇな。


 ソイツは、悟郎さんから物理・魔法の両方を使われて、喚き散らしている……ほぼ悲鳴だけど。


「あれでは……先に逝きそうだな。所で、今回あの子を攫って行動を起こしたのは、依頼書の件を継続して遂行しようとしたらから?それともティエーエムの新たな依頼か?……あとは、くたばり損ないのクソジジイのどれかだろ?」

「う…後ろに知らない爺さんはいたが、依頼はティエーエムからだ!!」

「……そうか。しかしテメェ等は、ゼルが貰えりゃ本当に何でもするんだな…衛兵も含めて。子供を攫う手伝いまでするとか、よく偉そうに衛兵なんて職に就いてるよ。」

「ど…どうせ、お前がデカい口が利けるのは今だけだ!あの方を敵に回してタダで済むと思うなよ!!」

「あの方ねぇ……って、死に損ないのクソジジイだよな?ジケイナって。自分の出した指示で、護衛が使い物にならなくなったんだから、自業自得なのによ。」

「ニャァニャオ(たおした)!」


 悟郎さんがもう戻って来た……ごめんなさい…って何で謝るのさ……。………ああ…言う事を聞かずに宿で見てたから?


 良いんだよ。あれは俺が悟郎さんに無理を言って、遺骸を隠そうとしただけだし。


「お友達の1人は、既にお亡くなりになりました。ヤツが手に掛けたデザートキャットと同じだけ刻まれたかな?」

「ぐぅっ…お、お前だって同じ様に魔物を殺してるじゃないか!自分を棚に上げてクソが!!」

「ああ、もちろん。ダンジョンだと特に遠慮無く討伐してるな。地上でも向かって来られたら討伐するし、食用として必要ならバラして余さず食うよ?……だがな、人を脅威として逃げる魔物や、隠れてやり過ごそうとしてる魔物を食いもしないのに甚振って刻む様な真似は1度もした事がねぇな…。それは楽しいのか?逆に知らねぇから、お前が教えてくれよ…。」

「…ク…クソ!黙れ偽善者め!!」

「はは!!ゼルの為に親元から子供を攫って、砂漠に捨てるヤツに言われてもなぁ?まあ、確かにお前と比べたらいい子ぶって見えるよな………俺も含めた大多数の人がさ。」


 血の匂いにゴミムシが集まって来た。それともう1つ、砂の上を這いずる音。


 意図せずツルセラも呼んだみたいだ。人だって魔物だって、砂漠の貴重な食料に変わりは無いからな。


「……お前らの事、あとはアイツ等に任せようと思う。ゴミムシかツルセラかは……運次第だな!」

「はぁ?!ふ!ふざけるな!!足をやられて動けないんだぞ?!」

「そうだな……。だけど、さっきお前等の攫った子供よりは動けるだろ?手足も縛って無いし、麻袋にも入れて無いんだから。いい大人なんだからさぁ、助かりたきゃ少しは頑張れば?………ほら、もう足元にゴミムシが来てるぞ?」


 ゴミムシは、砂漠の掃除屋だ。確か、骨も残さないって言ってたし。


 喚き散らす衛兵上司と冒険者をよそに、俯いたまま泣いている風のヘリミエア。この臆病で隠し事が下手なヤツがどうしてここまで…?


「……ヘリミエアさん。街に戻って証言をするなら、あなたは連れて帰っても良いですよ?」

「………………いやいい…このまま死なせてくれ。戻っても、犯罪者となった俺では……両親に顔向け出来ない。」

「なら、最初から手を染めなければ良かったのに。」

「…………………………どうしてもゼルが…欲しかった。それだけだ……。」


 その時、ゴミムシに邪魔をされて怒ったツルセラが、毒を撒き散らす。

 そこにいたゴミムシはすぐ仰向けになって死んだが、また新たな個体が湧いて寄って来る。


 ツルセラの毒を受けた3人は、揃って苦しみ出し、躰を震わせた。


「……ヘリミエアさん、助けはしません。ただ、ちょっと役立って貰います。」

「……………………。」


 俺の解毒では、まだツルセラの毒を除けない。2人が毒で死んだのを確認し、ヘリミエアに回復と解毒を死なない様に掛け、担いでハウスを目指した。


「……戻りました!」

「シロー!大丈夫か?………その衛兵は?」

「宿の通報時にいた衛兵が2人、あの冒険者と同行して来ていたんです。」

「…………シローが怪しんでいた外門の衛兵だったな。」

「訳ありっぽかったんで、証言をするなら助けようと思ったんですが『両親に迷惑は掛けられない』と、断って来たんで、最後に街へ戻る際に役立って貰います。」


 ロシェルはまだ目を覚ましていなかったんで、ギリギリまでハウスに居てもらい、そこから街を目指す事にした。


 ハウスを仕舞い、再び街を目指す。

 

 途中、さっきの場所を通ったが、既にゴミムシもツルセラも3人の遺体も何も無かったかの様に消え、風が新たな砂紋を刻んでいた。



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