第274話 ティエーエム商会2

 ティエーエムはともかく、最初に扉から出で来たヤツを見て、ロレンドさんとトラキオさんが身構えたんだよな…。


 あれは、後ろのおじいの護衛か?


 悟郎さん、念の為フードに入ってて。アイツはちょっと強そうだから。


「うわ………。俺の主観だけど、予想以上に陰湿で粘着質な雰囲気……マジキモ!」

「クソガキが……お前………誰だ!!」

「テメェこそ誰だよ?俺はそこの番頭さんに、人殺しと嫌がらせを成功させた時の支払額を確認してる途中なんだ。あ、あと番頭さんの討伐額だな。それに、この依頼書のせいで、引切り無しに弱くて使えないクソ共が虫みたいに集まって来るから、ついでに諸悪の根源を絶とうと思って来たんだよ。」

「…テメェが………。」

「あ?何だよ?俺はお前みたいな虫野郎に用はねぇぞ?さあ、番頭さんお話しましょうか?なあ、アンタの討伐額はいくらだ?」


 番頭さんの首根っこを押さえて引きずり、店の外へ向かって歩くと、声を掛けられた。


「おいクソガキ…。このままで済むと思うなよ?」

「…だから、なんでテメェが口を挟んで来るんだ?これはこの番頭さんの仕業なんだろ?そっちこそ、関係ねぇやつは引っ込んでろよ!(疑心暗鬼)……なぁ、番頭さん知ってるか?こう言うのは順番なんだよ。この前はセダンガ商会との不正取引で、違うヤツが捕まったろ?今度は、誰の番だと思う?……やっぱり依頼書に名前が載ってるヤツだよな…。いいか?一番上以外は全て挿げ替えが可能だ……だから、番頭だろうと店員だろうと護衛だろうと誰でも一緒。より乗せやすいヤツを使うだけ…。だよな?ティエーエムさん!」

「………………。」

「……あ〜あ〜ダンマリだよ。やっぱり使い捨てだったな…残念だったね番頭さん。まあ、ランティエンスから、殺しを引き受ける冒険者と破落戸ごろつきとこの店の護衛が居なくなっても大して問題じゃねぇし。それと、お前もな。」

「ソキニロ!そんなクソガキの詭弁を真に受けるんじゃ無いぞ!!」


 真に………受けたっぽい!番頭さんの疑いの眼差しがティエーエムに向けられる。2人で潰し合ってくれたら良いんだけど…。


「……ティエーエムさん。商談はまた日を改めた方が良さそうかのぉ?」

「!!すみません、ジケイナ様!大丈夫ですから、少しお待ち頂けますか?」


 ……何の商談をしているやら。とりあえず、番頭さんより商談が大事らしいよ?アイツにとっては、比べるまでも無く、当たり前だろうけどな。


「エスモーケン、少し手伝ってあげなさい。」

「……はい、承知しました。」


 え〜。おじいが水戸の御老公が言うセリフみたいなのを言いやがった。外野が手を出して来るなよな!


 それに、ティエーエムがおじいのセリフを聞いて、ほくそ笑んでるじゃねーか。


「小僧。その人を離して貰おう。お前もその年で死にたくは無いだろう?」

「……まあ、死にたくは無いから、態々ここに来てケリを付けてる最中なんだけど。ただ、今それに横やりを入れられているが…。あんたもさぁ…関係ねぇのに口を挟むんじゃねぇよ!」


 俺がそう言うや否や、その護衛が剣を抜き、中々のスピードで斬り掛かって来た。

 しかも生意気に二刀流!


 問答無用だし…。これがおじいの言う“少しのお手伝い”ってか?


「問答無用返し!…成敗!」


 先に到達しそうな剣を小脇差で受け止め、二刀目の腕を魔法で切った。


 それに驚いてる内に、小脇差を返し、もう一方の腕を斬り付ける。

 骨に当たった際の抵抗はあったが、力とスピードを乗せれば、ドワーフ謹製の刃物だ。その刃は、きっちり仕事を熟し、護衛の二の腕を落とした。


「あ、止血止血!下手に死なれても面倒臭いしよ。そうだ、この手はもう要らねぇよな?」


 護衛の腕を収納し、呆然とする護衛をおじいへ向けて蹴り飛ばした。


「おい。どこのクソジジイかは知らねぇが、お前関係あるのか?余計な口も手も出すんじゃねぇよ!」

「………お前は………何者だ。」

「……耄碌もうろくクソジジイ。俺の言った事が聞こえないなら、今すぐ墓場にでも入って永遠に寝てろ!迷惑だ!!」

「…………。」


 青ざめるティエーエムと耄碌もうろくクソジジイを残し、番頭さんを引き摺って離れて行く。


 番頭さんにはもう一仕事してもらおう。


「……あ。おい、ティエーエム。首を洗って待ってろよ?それと因みに、お前の討伐報酬はいくらだ?」

「ふ…ふざけるな!!!」

「俺、至って真面目。ん〜〜〜客も品物も碌に無い店の様子からして…100ゼルくらいが妥当か?用意しておけ。」

「…クっ、クソが…!」


 そこでやっと店の外へ出て来られた。


 引き摺っていた番頭さんを立たせ、依頼書を1枚持たせる。


「……番頭さん、悪い事は言わない。ティエーエムは絶対にお前を切り捨てるぞ?その前にこれを持って、誰の指示でやった事か、それ以外もアイツの不利益になる事を衛兵に話して来い。その際は、賄賂を受け取って無いヤツに話せよ?」

「………………見逃してくれるのか?」

「これはお前の意思でやった事か?」

「いや、違う!断じて違う!!」

「なら、アイツが身動取れなくなる様に、今までの事も含めて、全部話して来い。それがもし、ティエーエムがどこかに送られる程の内容なら、判決所だって見過ごさないはずだ。………あと、お前がセダンガ商会との取引について知ってるのであれば、それも話した方がいい。既決囚としてディクライエントへ送られたヤツ等との繋がりを放置するなら……この街はそれまでだと、見切る目安にもなるしな。」

「……賄賂を受け取ったのは一部のヤツ等だけだ。そこまで……腐ってるとは……。」

「お前が知らないだけかもしれないぞ?最後にもう1つ。辺境からへ、子供が2人売られた形跡があった。知ってるならそれも話して欲しい。親を亡くした所を拐われた不憫な子供だ。どんな形であれ、せめて、辺境に戻る時に連れて帰ってやりたい。」


 最後の話をした時、番頭さんの顔が一気に歪んだ。何を知ってる?


「…………子供は……もう……無理だ。」

「そうか…。俺の村の風習でな、その一部でも故郷へ返して弔ってやる事があるんだ。……何か無いか?」

「…………………ほとんどは、既に砂漠に捨てられてる。…ただ………気に入った顔をアイツはダンジョン品に入れて、保管してるはずだ。確か、辺境の子供の物も…あった。」


 だと?!どう言う事だよ!!

 ロレンドさんとトラキオさんも眉をひそめ、険しい表情だ。


「もし、見つかったら、衛兵に伝えて欲しい。俺達はを持っている。それを使って連れて帰ってやれると。」

「……ああ。分かった。」


 番頭さんとはそこで別れた。

 アイツがどう動くかは、しょうじき分からん。


 だが、子供達の事を話した時の表情を見る限り、罪悪感を感じている風だった。


 そして、番頭さんが話した事が本当なら、ティエーエムは虫以下のサイコクズが確定だ。


 例えランティエンスであろうと野放しには絶対にしないでもらいたい。2人にも聞いて、そこまでの協力ならしよう。


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