第273話 ティエーエム商会1
「ここがティエーエム商会だ。」
「へぇ……。入口に誰も居ないんですね?俺、セダンガの所みたいに、クソムカツク警備を立てたりしてると思ってましたよ。」
何だか至って普通の店の入口に、肩透かしを食らった気分だぞ。
「…………それはきっと、俺達がダンジョンで始末した中に居たと思う。」
「あ〜あれ、やっぱり冒険者だけじゃなかったんですか。」
「元冒険者で、今はティエーエム商会に雇われている者も混ざっていたはずだ。腕に覚えがある者を雇っていただろうに、それが誰一人帰って来ないんだ。ヤツ等も焦ったはずだし、それが達成報酬を激増させた原因の1つなんじゃないか?」
その店内では、それなりに買い物をしている人が居たが………ポタンリーナ商会の方が盛況だったな。
しかもクソ高い。香辛料も取り扱ってる様だが、ポタンリーナさんの所で嗅いだ様な香りが全然しない。
既に古くて、香りの飛んだ粗悪品しか置いて無いのかね(笑)
「……ニャニャッン(もういい?)」
「ああ、悟郎さん。もういいよ…さっきはごめんね。悟郎さんに見て欲しくなかったんだ。」
「ニャッ(わかった)…。」
「これが終わったら、依頼を受けて砂漠に出るから。そこで埋めてあげような。」
「ニャ(うん)。」
あのクズがした事はもちろん許し難い。だが諸悪の根源って話になったら、このティエーエム商会だろう。ネチネチとしつこく絡んで来やがって。
でも、ここまで絡み続けられたのは、やっぱ俺の対応が甘かったからなのか……。
そうだとしても、まだ、俺はそのさじ加減が分かんねぇだよな。
「失礼ですが、何かお探しですか?……当店にはあなた達が購入出来る様な物は取り扱っていませんよ?」
「ああ、安心してくれ。こんな粗悪品タダでも要らねぇよ。それに、今日はここの番頭に用があって来たんだ。他の冒険者に依頼書を見せて貰ったんだが、人殺しとか嫌がらせをすると、報酬を支払うってここの番頭名義で依頼が出てたんでな。ティエーエム商会って随分と幅広く商会してんだな?他にもねぇかな?って思ってさ。」
「なっ?!何を言い掛かりを!!おい!!コイツをつまみ出せ!!」
声に反応して店の奥から出てきたヤツが2人。見覚えがある面してんな!
「あ〜〜!何だかユビツメ君か!!性懲りもなくまだこんな店に雇われてんのかよ?!」
「あ…え!!!」
俺を見て瞬時に青ざめるユビツメ君。まだ、足を洗ってないとは……指導が足りなかったか。
「それに、一緒にいるのは、あの時ユビツメ君を見捨てて、さっさとギルドを出たヤツだな。お前の顔も覚えてるよ!ここの雇われ護衛だったのか?」
「っ!!」
固まる2人を見て、指示を出しだ店員が再度声を上げる。
「何をグスグスしている!さっさとつまみ出せ!!」
「あはは!つ〜ま〜み〜だ〜し〜て〜ご〜ら〜ん♪あんな事〜とか、こんな事〜とか、になると思うけど?」
「「!!」」
バカは死んでも治らない?かね??
2人をじっと見ていると、ユビツメ君は後退りし、そのまま逃げ出して行った。よしよし。生存本能はまだ機能してたな。
残されたもう1人のヤツは逃げられる立場では無いのか、ヤケクソ気味に切って掛かって来る。それを見た店員が『店の中では止めろ!』って、逆に焦って止める始末だ。
「店では止めて欲しいってよ?」
そうは言われても、もう止まらないのか止める気が無いのか、そのまま剣を振り下ろして来たんで、小脇差で受け止める。
キンッ!と刃が合さる音が響き渡った…。
…いい!良いよ!俺の小脇差!クロスガードしか無くて、
いつでも使える様に、ちゃんとホルダーに差しておいて良かった!
「うわぁ〜!怖い店だな〜!いきなり護衛が切り掛かって来た〜〜!!」
「!!」
大袈裟に声を上げると、様子を見ていた客が慌てて店を出て行き、それに釣られて他の客も店外へと出て行った。
「ほら〜。お客様みんな出て行っちゃった。……それで、お前はその腕が要らねぇんだな?」
「は…?」
間抜け面を晒した隙に、その腕を魔法で切り落とし、収納・血止めの回復まで。こんな店、汚れようと知ったことじゃねぇ。
「さっき、宿でもアホが2人絡んで来てさ〜。ソイツ等も同じ様にしたんだけど……。これだけ騒いでも、他の護衛は出て来ないんだな?……あ、もうこの前ので全員出したのか?」
「あ………まさか…お前………。」
「お前達がせっせと絡んで来た冒険者だよ〜?で?番頭さんはどこ〜?」
そう聞くと、店員の目が泳いで、視線が少し奥へ向いた。そこにはコソコソと動く影が見える。
「ば・ん・と・う・さーーーーーん!!」
「ギャーーーー!!」
跳躍で一気に側に行ったら、物凄い叫ばれた…。大袈裟な!
「お礼に来たよ!色々とやってくれたな?……因みにお前を討伐した場合は何ゼルだ?」
「あ………わ、私を…私に手を出したら、タダでは済まないぞ!!」
「だから…タダじゃないなら、何ゼル?…なあ何ゼルだよ?ここはそう言うのも取り扱ってる商会なんだろ?」
詰め寄ると、番頭さんは腰を抜かして蹲った。やっぱり使い捨ての使いっ走りはショボいな。
すると、奥へと続く扉が開き、そこから恰幅のいい男が出て来た。背も高く、筋肉質な感じは、とても商人には見え無い。
その後ろには、初老のおじいと、神経質そうな中年サラリーマンが1人立ってこちらを見ていた。
「商談中に何を騒いでいる?!」
「あ!商会長!」
神経質そうな中年サラリーマンの声に、番頭さんが直ぐ様そう反応を返した。あれがティエーエムか…。
予想と違って、中間管理職臭がする出で立ち。でも、目は鋭く爬虫類みたいな雰囲気があった。…うん、しつこそうだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
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