第272話 嫌がらせの犠牲
「おはようございます。」
「おう!おはよう!」
「ニャッフゥ(お腹すいた)!」
「…………おはよう。ゴローのその声は覚えたぞ?『腹減った』だろ?」
「トラキオさん……当たりです。」
くっ!悟郎さんが良く言うから、トラキオさんに覚えられた…。飢える様な事にはさせて無いのに……これは悟郎さんだけ1日4〜5食に増やした方が良いのか?!間食だって中々の頻度で渡してるんだぞ?!
「はは!ゴローは朝から元気だな。健康な証拠だ!」
「…………そうだな。その分動いてるし。だが、いつもどこに食った飯が行くのか……不思議ではある。」
「それは俺も思ってます……。異次元レベルに感じる時が多々ありますから。」
悟郎さんの七不思議の一つに数えられる現象だ。
その異次元的胃袋を満たすべく、朝食ビュッフェへ行く。チビは食える物がビュッフェには無いから、いつも通りだけどな。
今日は、大砂漠に咲いてるって言うリカロスエペロとプローズリムの採取依頼を受けないか?と言われてる。
咲いてるってだけあって、花だろうと検討は付けている、それにランティエンスの結婚式では必ず使われるって話だからな。
……なるほど。結婚式で花が使われるのは
悟郎さんの胃袋を満たし、今日もギルドで依頼を受けようと宿の出口を目指していたら、何やらザワ付いており、人集りも出来ていた。
そこに集まった人達が口々に話す内容が、漏れ聞こえて来る。
“ひどい……誰があんなことを?”
“臆病で大人しい魔物なのに…”
“最近良く見る、あの子の従魔じゃないわよね?”
……何だ?血の匂いもする…。
人集りを避けて進んで行くと、血がついた茶色の毛皮が視界に入った。
は?何だアレは…?!
原型を留めていないソレは、良く見ないと何かが分らない程バラけており、1つは足の長さからビズミネートだろうと思われた。もう1つの茶色の毛皮は……どう見てもデザートキャットだった。
「…………悟郎さん、フードに入ってて。」
「ニャウ(無理)!」
「入ってろ!!」
「!!!………ニャ(うん)…。」
宿の従業員もオタオタとして、動く気配が無い。周りをグルっと見回すと、隅の方でニヤついた顔があった。
「聞いてもいいか?これはどうしたんだ?」
「あ!すみませんお客様!さっきまでは無かったんですが、気付いたらこの状態で置かれていて……。あの……その、お客様の従魔では…無いですよね?」
「俺の従魔はちゃんといるよ。それに、弱い者を甚振るぐらいしか出来無い、能無しのクソヘタレなヤツに殺られるほど、俺の従魔は柔じゃねぇよ。」
ニヤ付いてたヤツ等にも聞こえる様に声をデカくして言うと、あからさまに怒りを滲ませる表情に変わる。
「本当、弱いヤツに限って自分を過信してるからヤダヤダ〜。本人の器も、度量も底が知れてるのにね!こんな事をするヤツは、きっと何処も彼処も小さ過ぎてカスだろうから、良く見ねぇと目にも入らねぇだろうがよ!」
はは!仲良くご立腹。暫定で犯人。
後は、本人に直接聞きたいけど、ここだと人が多いんだよな。
「シロー。ここでは殺るなよ?」
「どっか一本くらいは良いですかね?」
「…………手にしろ。足は連れて行く時に無いと面倒だ。」
「了解でーす。」
ロレンドさん達と話をしていると、同じく宿泊している家族連れの男の子が、泣きながらこっちを見ていた。…え?俺のちょいキレ、そんな怖かった?
その子の両親が子供の異変に気付き、膝を折って話を聞いている。すると、父親の方がこっちに近付いて来た。
「…あの、すみません。少しお聞きしても良いですか?」
「ええ…。何でしょう?」
「息子が、いつもあなたと従魔が食事をしているのを見ていて、その可愛い姿にとても惹かれていたんです。その……アレは違うんですよね?」
「そうでしたか……。はい、違いますよ。少し息子さんと話しても?」
「ええ、大丈夫です。良かった……。」
母親に縋ってグスグスと泣いている男の子は、ジェインと同じか…もうちょっと下だな。
「おはよう。いつまで泣いてんだ?悟郎さん、ちょっと顔を出して見せてあげて。」
「ニャニャゥ(いいよ)!」
フードから顔を出して、サービスの一鳴きをすると、その男の子が『ゴローさん!』と呼びながら寄って来た。
「悟郎さんは、可愛いけど強いから大丈夫だよ。心配してくれてありがとうな。」
「……よかったぁ!ぼく、今日の朝ごはんでゴローさん…見れなくて、そしたら…あのおじさんが……ゴローさんみたいなのをポイッて……したから…ぼく……ゴローさんがしんじゃったって…!」
「………そう。あのおじさんだね……。悪いおじさんは、悟郎さんと一緒にやっつけておくから。もう泣かなくて大丈夫だよ。」
「うん!あしたも朝ごはん来る?」
「もちろん行くよ。いつも悟郎さんが沢山食べてるの知ってるだろ?」
「……でも、アレはなに?あのおじさんが置いたんだよ?」
「悪いおじさんのいたずらだよ。ただの毛皮に赤い色を付けて、みんなを驚かせようとしたのかもな?」
「そうなの?なんだ〜良かった〜!」
男の子の両親に、この場を離れた方が良いと促し、3人の姿が見えなくなったのを確認して、例のヤツ等に改めて向き直った。
そして『あのおじさん』は、男の子に指差しで示されたせいで、周囲の視線を集め、途端に慌て出していた。
「あれは宿泊客?」
「いえ……違いますね。ただ朝だけは、有料の朝食を召し上がりに来るお客様もおりますので…。」
「もう衛兵は呼んだ?」
「はい、先程。暫くで来るかと思います。お客様にもご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません。」
じゃあ、衛兵が来る前に締めるか。
跳躍で一気に距離を詰め、首を掴んで力任せに引き倒した。
「ぐがっ!」
「さあ、おじさん。衛兵が来る前にが少しお話をしようか。」
「は、放…せっ!」
一緒にいたヤツが殴りかかって来たんで、魔法で肘から切って、要らねぇ腕は収納・血止めの回復。…宿の迷惑にならねぇ様に、清浄も掛けておこう。
「えっ?あ……?」
「おい、間抜け。テメェも膝を折ってそこに座っとけ。」
ソイツの首も掴み、同じく引き倒す。
「待たせたなぁ、おじさん。」
「あ、あ……嘘だ…ろ…。」
「何がだ?全て今、目の前で起こった現実だろが。テメェ等のした事も含めてな。だから、クソ汚ねぇ腕はもう失くなったよ?」
「う………ま、待ってく…れよ。俺達は、頼まれて…やっただけ……なんだ。」
おお、そうか…。頼まれたら、あんな事やこんな事をお前等は平気でするんだな……。
「……依頼書を出せ。」
「…そ、ソイツが持ってる。」
その言葉を聞いて、ロレンドさんが手を失くして呆然としている男の懐を探り、皮紙を1枚出してくれた。
「……依頼内容の追加が記載されてるな。『殺せなくとも、妨害・嫌がらせその他、内容を問わず、損害、損傷や被害を与えた場合、1000ゼルを各自に支払う。』……だ、そうだ。」
「ふ〜〜ん…。そこでテメェ等が思いついた事が、ビズミネートとデザートキャットを捕まえて、バラして宿に遺棄する事か…。くだらねぇなあ……。おい、ここまで持って来た袋を出せ。」
「あ……わ、悪かっ…た。許してくれ!」
「テメェの詫びなんか聞いてねぇだろ?!さっさと出せ!」
するとおじさんは、懐に手を入れ、刃物を握って振るって来た。………懲りないな。コイツも腕は要らねぇ様だな。
さっきと同じく魔法で切って、切った腕と刃物を収納し、収納止血用回復と清浄をする。
「……ほら。腕はもう一本あるだろ?そっちを使って出せよ。それとも、使えねぇそっちの腕も要らねぇのか?!」
「ヒッ!だ…出す…出します!」
クソおじさんが血濡れの袋を出しだ所で、衛兵達が来たのかそこで声を掛けられた。
「おい!何をしている?!」
「ああ、衛兵さんでしたか…。宿に迷惑行為をしたヤツ等を捕まえたんでね…今から片付けさせる所ですよ。……ほら、袋に入れて元に戻せ!」
2人を現場に放り投げ、遺棄した死体を袋に入れさせて、袋ごと受け取った。………ごめんな、もう少し待ってくれ。
「……それでは、後は衛兵隊で引き受けする!」
「…………終わってませんよ。だからまだ、引き渡せません。………ん?あれ、ヘリミエアさんじゃないですか!今日は外門の方じゃないんですね?すると…この方は、貴方の上司の衛兵様でしょうか?」
「お、お前には、か、関係ないだろ!!」
「……そうですか。これはより濃厚な癒着の香りがして来ましたね…。腐敗レベルでしょうか?」
まだ状況が飲み込めていないのか、上司の衛兵はヘリミエアを見て、説明を求める様な視線を送っていた。
「では、ティエーエム商会に行こうか。」
「!おい、お前、勝手をするな!!」
「………勝手?貴方に俺を止める何の権限があると?それをここで詳しくご説明頂けますか?俺はただ、商会に買い物と確認をしに行くだけですよ?買い物に一々貴方の許可が必要でしょうか?」
「っ………!」
「…………何なら付いて来ても別に構いませんが…。ただ、買い物に付き添うのが衛兵隊の仕事でしょうかねぇ…?どうですかねえ?皆さん!!」
多くいるギャラリーに態とらしく尋ねる。ヘリミエアとその上司以外の衛兵は、意味が分からず帰りたそうな顔だ。
「………では、失礼しますね。ああ、その2人はやっぱりお任せしますよ。連れて行った所で、どうせ使い捨てされて役には立た無さそうなんで。宿への迷惑行為については、証人が多くいますから、そこまで衛兵様の手を煩わせずに済むでしょう。」
そこまで言い捨て、宿を後にしティエーエム商会へと向かっ…………。
「ロレンドさん、ティエーエム商会の場所、知ってますか?」
「ああ、大丈夫だ。そのまま真っすぐだ。」
…………向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます