第271話 末路とお土産
「……あ、追い付いた。」
「先に逃げ出したヤツ等か?」
「はい…………多分。この先で魔物と戦闘してますね。」
索敵にも掛かってるが、逃げたヤツは、複数の魔物に囲まれてる感じだ…。戦闘音と人の怒声が聞こえて来てる。
「………あの人数で来たから、俺達の所まですんなりと抜けて来られたんだろう。逃げたヤツ等は、個別にバラけた状態で魔物の数が多いこのダンジョンを通れるのか?」
「…様子見するか?」
「………態々、助ける理由は無い。今回受けた依頼について、話をさせるなら別だがな。」
「…………………話は…無理ですね。戦闘が終わりました。」
エリンギエリアに入ると、俺が刈ったルートの途中で、ハサミムシが群れている場所が目に入った。
その先にも、武器や防具の残骸が、点々と落ちている。
「…もう、話が出来そうなヤツは……居ないでしょうね。」
「ゼルに目が眩んで、自ら選んだ結果だ。」
「…………シローは良かったのか?証言を押えておかなくて。」
「セダンガ達の時とは違いますから。あの時は、俺が偶々メリエナさんやミスリアさんと関わり、その結果、アイツ等に喋って貰わなきゃ、分らない事と償わせられない事があったから色々しましたけど。今は単純に俺が逆恨みで狙われてるだけです。それにランティエンスでは、香辛料を買って、ギルドの依頼を受ける以外の事をする気は無いです。」
だから、その都度潰して御仕舞。ただ、思ったより頻度が高くて、面倒くせぇとは感じてるけど。
「このままだと、一時的にランティエンスの冒険者がだいぶ減るな。まあ、悪くは無いか…。」
「…………そうだな。少なくとも殺しの依頼を受ける様な冒険者が居なくなるだけだ。それなら、今後の犯罪防止になるかもしれないぞ?」
「ただ、2人にも本来なら無かった面倒が掛かってしまって……すみません。」
俺と一緒に行動してるから、同じく襲われる羽目になってるし…。ログレスからこっち、ずっと面倒掛けて本当にすみません!
「…………気にするな。少なくとも俺達は気にしていない。寧ろ、シローと同行した恩恵は、俺達の方が多く受けているぞ?」
「本当にそうだよ!メシも美味いしな!」
そう言って貰えると助かる……。
良かった…図書館で色んなレシピ本を読んでたのが少しは役に立って。悟郎さんにも喜んで食って貰えるし。
ゆっくりとエリンギエリアを進み、もうすぐ終わるかという辺りに、上半身だけ通路にはみ出て残っている遺体があった。
「………シロー、少し待ってくれ。」
「……はい。」
知り合い……とかじゃねぇよな?
トラキオさんは残った上半身をひっくり返し、何やら懐を探っていた。
「………あった、依頼書だ。」
「どうだ?」
「………まあ、予想を裏切らず、ティエーエム商会の番頭の依頼となっている。商会長で無いあたり、今度何かの時は、この番頭が切られる番なんだろうな。」
「…………………あの、この金額って相場ですか?」
冒険者シロー討伐達成者には10万ゼルを支払う。
しかも討伐だと?!そう言うのは、セダンガのクソババアとかクソ大家に使うべき単語だ!
「俺達もさすがに人殺しの依頼金額なんか知らないよ。ただ、常識的に考えて破格だろうな。」
「………既に何度も失敗を繰り返してるし、シローは冒険者ギルドで絡んで来たヤツに、周りの印象に残る対応をしただろう?あれを見て、シローに手を出そうと思うヤツは余程のバカだぞ?だから人が集まらず、そこまで価格を上げて来たんだろうよ。」
アホくさ!!
そんな無駄な金を掛けてる余裕があるなら、真っ当に商売した方が余程儲けられるんじゃねぇのか?!
とりあえず、その依頼書は俺が預かる事にした。使うかどうかも怪しいけど…。
「まあ、予定通りこのまま帰ろう。クリフさんの依頼品を納めたいし、土産も渡したい。」
「………そうだな。もう待ち伏せとかは無いと思うが、帰りも気を付けて行こうか。」
「そうですね。もう面倒だから、帰ったらティエーエム商会に魔法で岩の塊でも落として店ごと潰したい。」
「………足が付く様な事はするなよ?それを盾に被害者ぶって来るのがオチだ。」
「分かってます。…けどやりたい。」
2人にこれ以上の迷惑を掛ける様な事はしないさ。
その後は待ち伏せも無く、ダンジョンを出て、途中休憩を挟んで街まで戻った。
街の外門には、以前挙動の怪しかった衛兵ヘリミエアさんがいたから、ワザとそこに並び入門チェックを受ける。
「こんにちは!ヘリミエアさん、その後はお加減いかがですか?」
「…あ、だ、大丈夫だ。」
「それは良かった!最近物騒ですから、健康にも気を付けないとね!それと、俺等以外はダンジョンからは戻りませんよ?誰も来なかったのでね……。」
「!!!っそ、そう…か……。」
「それにしても、あそこのダンジョンは虫の魔物が多いですね〜。きっと、良い物をたくさん食ってるんだと思いますよ?」
「…ぐっ!も…う審査は、大丈夫だ…。」
「そうですか…。いつもありがとうございます!では!」
また、具合の悪くなったヘリミエアさんを残し門をくぐる。街の中に入ると、相変わらずちょっと涼しくなり、過ごしやすい。
今日は、夕方の混み合う時間前に帰って来れたんで、先にギルドへ依頼の報告と納品をして、その後にクリフさんへお土産を持って行く事に。
「お!最近常連だな!今日は何の納品だ?」
「依頼を受けて
「そうか!ここ数日は、クリフが引退して以来の納品で助かるよ!また、他に卸して貰えると嬉しいんだが…どうだ?」
「そうですね……これは以前クリフさんも納品していましたか?」
ギルドで試しにトリュフを出してみる。買い取りのおっちゃんは、一見ただの土塊にしか見え無い塊に怪訝そうな顔をした。
「……これは何だ?鉱石か何かを含んでいるのか?」
「いえ、これ実はタケでした!」
「は?これがタケだって?!」
「そうです。このタケを調理した物がこちらです。細かく刻んで、香りのあまり無いボウダケとトテムダケと一緒に油で炒めて、塩味を付けただけの簡単な料理になります。」
おっちゃんは、先に匂いを嗅いで目を見開いた。えのき茸とエリンギを炒めたって、この匂いがして来る事はない。だからワザとバターも胡椒も入れずに作っておいた。
「これか!!初めて嗅ぐ匂いだ…。独特だな…だけど、悪くない…。」
「まあ、好き好きでしょうね。俺はボウダケ派ですから。」
「…………俺は
「俺は断然
みんな、好みはそれぞれ違ってんな。
あとは
「こんにちは!クリフさん!」
「!!シローさん、ようこそ!この前は貴重な情報をありがとう!お陰で、ギルドで久しぶりに新鮮なタケを押えられました!」
「こっちこそ、貴重な経験が書かれた情報を頂き、ありがとうございました!お陰で採取が進んだんで、お土産を渡したくて来ました!あ!もちろん、クリフさんの依頼も受けて品物の納品もしてありますよ!」
「本当ですか?!」
そしてクリフさんの店にある倉庫に場所を移し、そこでお土産をドンと渡す。
依頼でも納品したけど、ボウダケ。それ以外にも、なめこ、きくらげ、ひらたけ、トリュフ、ゴハリタケ(サンゴハリタケ)、マショーピオ(松茸)。
クリフさんにお土産です、と言って渡したら、リアルで飛び上がって喜んでくれた。
「凄い!こんなに良いんですか?!」
「はい、もちろんです。他にも欲しい物があれば、遠慮無く言って下さい。」
「本当ですか?!……実はこの前、シローさんがギルドに卸した中で、
「大丈夫ですよ。沢山採って来たんで……はい、これもお土産にどうぞ。」
ママルマダケを出すと、クリフさんは再度飛び上がりガッツポーズを決めた。そんなにか…!
「嬉しいです!ありがとうございます!今晩はタケ尽くしの夕飯にしますよ!」
「店の売物にはしないんですか?」
「そんな勿体ない事はしません!もし……もし余ったら、店に出しますけど………多分余りませんね!」
「………………そうですか。」
この人は商売っ気が無く、完全に趣味と実益を兼ねてんだな…。ま、俺も好きな食い物を売る事はねぇしな。
トリュフの説明をしたら、俺がえのき茸を取り損なった時の様に頭を抱えて叫んでたけど、主として食うタケでは無いと伝えたら落ち着いてくれた。
「…香りが……香りが………凄い!!全ての食材をこのタケの香りに染め上げられる!」
「乾燥させた物を刻んで、塩と一緒にしても良いらしいですよ?塩に香りが移るので。」
「塩!!日常的に使う調味料がこの香りに……!」
クリフさんがタケのお土産で、想像以上に喜んでくれて良かった。
参考までに、どう調理をして食うのかを聞いたら『焼いて食べます!』と、それだけ。他には……?『焼いて塩をして食べます!』…と。もう一声と、食い下がって聞いたら『炒めて食べます!』しか返って来なかった…。
もう一回聞いたら『炒めて塩をして食べます!』と、返されそうだったんで、聞くのを止めた。
正直、侮ってたよ……タケハンターのその情熱を。
「クリフさん、余計な事ですがタケ以外も召し上がって下さいね?」
「はい!治療院の人にも言われてるんで、今は食べる様にしてますよ?それにシローさんから、タケ塩の事を教えて貰ったんで、色々と試そうと思ってます!」
「………塩の使い過ぎにも注意をして下さいね?!」
「??分かりました!」
…………本当か?悟郎さんが適当に返事をする時の“分かった!”と同じ雰囲気がしたぞ?!
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