第263話 タケ・フリークス

「お!今日は、オオトゲアゴンかよ?確かに5匹受け取った。それにいいサイズだ……。」

「それと、タケも有りますけど…「売ってくれ!」…分かりました。どこに出しますか?」

「……お前だから聞くが、トムテダケもあるのか?」

「ありますよ?」

「なら………ここに出してくれ!トムテダケは2本貰いたい。他は出せる分を頼むよ!」


 みんなデカイキノコだから10個でいいか…。


コウタケ舞茸メジタケしめじイマウダケ椎茸ママルマダケマッシュルームを出して渡すと、買い取り担当のおっちゃんが歓喜していた。


 どうやら、おっちゃんもイマウダケ椎茸好きの様で、それを聞いたロレンドさんは店の情報交換を始めてしまった。


 今度、椎茸の炊き込みご飯をご馳走しよう。


「ありがとうよ!!あそこのダンジョンは、中々潜ってくれる冒険者が少なくてよ。魔物の数も多いし……なあ、持っていたらスロネルナメクジの粘液とコエイゲヤモリの姿干しも卸してくれねぇか?今、薬師組合でも在庫不足なんだよ。」

「そうですね……これだけなら大丈夫です。あとは辺境で世話になってる薬師組合にも持ち帰りたいんで。」

「助かるよ!お前なら辺境に持って帰っても、変質させずに薬師に渡せるだろうしな。」

「それ、変質するんですか?」

「ああ。スロネルナメクジの粘液は、高温過ぎると粘度が落ちて使えなくなる。コエイゲヤモリの姿干しは、長時間外気に晒されると成分が変わって廃棄するしかないんだ。」


 ふ〜〜ん…サバドの材料も意外に繊細なんだな。


 それにオピン毒サソリのハサミと毒針も追加で卸した。


 毒針なんて渡さない方がいいんじゃねぇの?って思ったら、解毒薬を作るには必要らしく、大砂漠を渡る際には携帯必須のアイテムなんだと。

 

 ただあの針だと、うっかり近寄って刺されたら、毒以上に外傷が酷い気がするんだが…。


「じゃあ、また明日精算金を受け取ってくれ!たくさんありがとうよ!」

「こっちこそ、いい情報をありがとう!また頼む!」


 ランティエンスの街はすっかり夕暮れだ。遅くなったのは、みんなで昼寝をしたせいだけど。


「なあ、さっきギルドで聞いた店に行っていいか?」

「…………イマウダケ椎茸の店だな?なら、俺は武器の手入れをしに行って来る。シローはどうする?」

「ロレンドさんの邪魔じゃなければ一緒に行っても良いですか?」

「おお、来い来い!加工品ばかりだろうけど、土産にもなるし良いと思うぞ?」

「そうか…お土産……。」


 お土産って買った事がねぇんだが……。食いもんで良いのか?その土地の銘菓を渡すって、聞いた事もあるしな。ランティエンスだと、香辛料とお茶っ葉意外に何があるんだろう…?


 実用的な物で渡そうと考えていた品物やログレスのダンジョンで採取した果物はあっても、それは土産とは違う……のか?


「ここだ!匂いがするな!」

「…………………。」


 看板に手描きでキノコのイラスト?が描かれているが、あまり絵心の無い人が描いたようで、キノコと言うよりはただの三角形に棒を一本書き添えてあるだけ。


 それが大量に描いてある所を見ると、キノコ好きには違い無い……はず。


 匂いに釣られたロレンドさんは既に入店済。


「……匂いって…乾物の匂いだな。」


 種別ごとに容器に入れられた乾燥キノコだらけ。そして、見付けてしまった!えのき茸!!ダンジョンでは会えなかったのに……。どこに居たんだよお前?!


 乾燥えのき茸の前で、思い出を馳せ佇んでいると、ふと、静かに声を掛けられた。


「……そのタケがお好きですか?」

「…好き、と言うよりは戦友ですね…。」

「ほう……詳しくお聞きしても?」


 どこの誰とも知らない相手に、えのき茸に如何に助けられたか、柔らかく煮込んだうどんに入れても、キノコとしての主張を無くさないあの歯応え。それにどれだけ歯げま……励まされたか!そしてほぼ変わらぬ値段!何度胃袋の窮地を救われたか!


 えのき茸は、香りが無くても七変化出来る優れ物であると熱く語った。……て、言うかコイツ誰だ?


「失礼しました。私は、ここの店主をしております、クリフと申します。お見知りおきを。」

「店主の方でしたか……。冒険者のシローと言います。先程は詮無い話を聞かせてしまい、こちらこそ大変失礼しました。ランティエンスのダンジョンに潜ったんですが、コイツえのき茸とは会えなかったものでつい…。」

「ダンジョンに?!どこまで行かれたんですか?」

「ママルマダケの採取依頼を受けていたので、そこまでで帰還したんですよ…。」


 俺がそう言うと、店主のクリフさんは舞台俳優の様な大きなリアクションで、天を仰ぎ、その手で顔を覆った。


 暫くして持ち直すと、最初に掛けてきた静かな声でこう言った。


「あと一歩……その先に進んで頂ければ、出会えたのですよ…。貴方の戦友に……。」

「…っ!!!!」


 俺は頭を抱えた!!クソ!眼と鼻の先まで行ってたのか!悔しさに悶えていると、店主のクリフさんが、ソっと小さな皿を出して来た。


「貴方の知ってる物と、このボウダケえのき茸は少し異なるかもしれません。しかし、その歯応えは決して変わりありません!どうぞ、お試し下さい。」


 これは、戻したえのき茸のソテーだな。胡椒を効かせているようだ…。うん…美味い。


 辺境でもほんの少し手に入れられたが、香りのあるキノコの方が人気だからか、それ以降、店に列ぶことは無かった。


「ご馳走様でした。俺の求めていたタケに間違いありません。…これは俺が作った物です。良かったらお試し下さい。」

「これは……イマウダケ椎茸ですね?!こんなに濃い味を付けられたと言うのに、香りが損なわれていない!!」

「このタケの香りを損なっては、作る意味も、それを食べる意味も薄れてしまいますからね!」

「ええ!まさに!!」


 店主のクリフさんと試食をしながら語り合っていると、買い物を終えたロレンドさんがやって来た。


「シ、シロー……だいぶ盛り上がってるな?買い物は済んだか?」

「あ!ロレンドさん!買い物は……出来て無いんですが、貴重なお話を聞かせて頂いてました!!」

「そうか……。」

「シローさん、良かったらこれをお役立て下さい。」


 そう言って、クリフさんは1枚の皮紙を俺に手渡して来た。何が書かれているんだ…?


 広げてみると、ランティエンスダンジョンの地図に、採取出来るタケと出てくる敵の情報がこれでもかと細かく書いてあった。


 一緒に見ていたロレンドさんも驚いていたから、もしかしてギルドの情報より詳しく書かれていたのかもしれない。


「……いいんですか?こんな貴重な物を…。」

「貴方にならいいと思ったんで渡しました。好きに使って下さい。私は怪我をしてしまい、自分ではもう採取に行かれません。無理も迷いも禁物ですが、目標は必要です。もし、採取したい物があるなら、その地図を目安にして下さい。」

「…ありがとうございます!(あの、今日、ギルドに生のタケをたくさん卸しました。トムテダケエリンギも含めて…。)」

「!!!!!(ありがとう!)スエメテーラ!店番を頼みます!急用が出来ました!!」


 クリフさんは声を掛けた相手の返事も待たずに、外へ走り出してしまった。


「え?!店長!!……嘘だろ…またかよ〜〜!!」

「「…………。」」


 買い物もお土産も、手に入らなかったけど、キノコダンジョンの地図をゲットした。


 もう一度行けと?


「……クリフ……確かその名は、ランティエンスで『タケハンター』と呼ばれていた冒険者の人だ。」

「タケハンター?」

「そうだ。タケ好きが高じて冒険者となり、ひたすらにランティエンスのダンジョンに潜っては、採取をしていた人だ。あの人が現役を退いてからはタケの供給が激減したと言われている。」


 うっかり伝説のタケハンターと語り合っていたのか…。


 依頼があったら、もう一回潜るか?

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