第253話 惨劇開け ランティエンスのダンジョンへ
「………………………おはようございます…。」
「お、おはよう。大丈夫か?シロー…。」
「……………悪かったな。俺達もつい楽しくて時間を忘れてしまった。」
「全然大丈夫ですよ!!傷んだのは俺のフトコロだけですから!!いや〜〜、さすが商会長のご紹介でオススメされた店だけありました!料理もとても美味しかったし、悟郎さんも満足行くまでお代わりを繰り返して、今もまだグッスリです!あ!悟郎さんは夕べ食べ過ぎたんで、朝ごはんは気が向いたら食べるそうです!こんな事、初めてですよ!!」
昨日、悟郎さんを待たせ過ぎた結果、暴食の魔神を呼び覚ます事となり、カラーチェンジ大会を速攻で止めて店に行ったが、時すでに遅かった。
魔神を極限まで満たさない限り食事は終われず、店からは『今度お越し頂く時は是非とも事前のご予約をお待ち致しております。お待たせすること無く、ご満足頂ける様に出来るだけ、万全のご用意をしてお迎え致しますので、くれぐれもご予約頂きます様に重ねてお願い致します。』と、会計時にそう、店の偉そうな人に言われた。
分かってる……分かってるよ!アンタ等、本当に良くやってくれた!特にシェフには100万回の感謝を送りたい!顔が引き攣りながらも、給仕してくれたスタッフのみんな!本当にありがとう!
きっと、この苦難を乗り越えたアンタ等なら、この先どんな客が来ようと、軽々越えて行けるはずさ!
こうして、俺は宿の宿泊代金以上の食事代を一晩に支払った。
そうか………これは…これこそが、金を使う事を覚える手段だったんだな…。
今までのは全て準備運動の様なもの!言わば前哨戦だ!本番はこれから!キズンリーゾで買ったアレの防具支払いもその伏線!
おおっと!!俺としたことが昨夜の惨劇をリアルに思い出しちまった!
胃部の不快感が襲って来やがる!だがな!俺には副作用の無い、い〜〜い薬、回復の術があんだよ!
用法用量関係な無く、あ…ちょっとおかしいかも、って時に使える優れものがな!
正に医者要らずってやつだ!
俺は何故か、あまり夕飯が喉を通って行かなかったから、朝飯は宿のビュッフェをしっかり食うぜ?
なんと言っても、朝飯は宿代に含まれているからな!食わない選択は無い!
「……ビュッフェが……沁みる!!か、回復の術!」
「シロー、無理をするな!もっと腹に優しものを食え!」
「……………これだ!まずは労りをもって、少しずつにしろ!消化の負担となる様な物は避けるんだ!」
そして、この日は朝飯もあまり食うことが出来なかった。
「は〜〜〜〜〜っ。チャイが甘くて美味い……。何で俺は、これを忘れていたんだろう。ミルクでコーティング!回復も良いけど、この優しさバリア……大切だった!」
「甘くしても美味いな!」
「……………やっぱり俺も香辛料を買って、淹れてみたくなった。これなら店でも出せるしな。」
食事後のお茶を飲んだ後は、ギルドへ行き、先に依頼を見てからこれからの予定を決めたいと、ロレンドさんに言われた。
ここランティエンスにも、街から遠くない所にダンジョンがあるそうだが、ログレスの様な人気は無いダンジョンで冒険者も疎ららしい。
砂漠のダンジョンか……ちょっと嫌な記憶が蘇って来たのがまた顔に出てたみたいで、トラキオさんが補足の説明をしてくれた。
「…………不人気な砂漠のダンジョンなんだが、料理店からの採取依頼は多いんだ。そこまで言えばシローなら分かるだろ?」
「はい!!昨日の店でも料理で出た、アレの採取依頼ですね?!」
「そうだ。昨日たくさん食ったし、もしあの店からの採取依頼があったら、それを受けようと思ってな。」
「分かりました!それなら是非!ついでに俺も採取したいです!」
一部のダンジョンはマジで素晴らしいな!
ログレスもそうだけど、ランティエンスも俺の期待通りなら、きっとパラダイス!
そしてランティエンスのギルドは、ログレスのギルドよりさらに大きく、人でごった返していた。
ただ、そこに居るのは冒険者だけでなく護衛依頼に来た商人も含まれている。
確かに、足の速いクチ臭トカゲに会ったら、商人だけだと厳しいか。あ、王都への護衛依頼も出てる。って事は大砂漠方面か…。
「やっぱり。昨日世話になった店からの採取依頼が出てた。これを受けようと思うが良いか?」
「……………大丈夫だ。」
「寧ろお願いします!!!」
良かった!悟郎さんが食い尽くした、店の食材補填が出来るぞ!
それに、ロレンドさん達が討伐した分を売却すれば依頼達成となる、クチ臭トカゲの肉の納品も一緒に受けてしまおうと言う話になった。
「ロレンドさん、肉の納品は本体丸ごとで大丈夫なんですか?」
「いや、ギルドもあの巨体を一匹納品されたら、倉庫が一杯になってしまうから、足だけ納品しようと思ってる。通常は討伐証明の牙と爪を採って、後はその場で食える分の肉を取ったら、残りは燃やしてしまうんだ。通常はな。」
了解っす!小出しにですね?
クチ臭トカゲは街へ戻る途中で、討伐証明と一緒に切り分ける事にして、肉の納品はこれでコンプリート出来る。
残る食材の採取に向けて、ダンジョンを目指して砂漠を歩いていると、ピョンピョンと規則的に跳ねる物体が視界に入って来た。
「シロー…じゃなかった、ヒロ!あれがビズミネート。チピの詐称に使った魔物だ。」
「…………髪色に続いて違和感が凄いが、俺達も慣れないとな。」
「面倒掛けてすみません…。」
ポタンリーナさんから、見た目を変えられるなら、この街での呼び名も変えたら?と提案され、急遽呼び名を考えた。
俺は頭の『さ行』の『し』を『は行』に変え、伸ばさず発音して『ヒロ』。
異世界にもあるかは知らねぇけど、間違っても絶対に『た行』では無い。
悟郎さんは、濁音を取って『コロ』。間違っても“クッ”は付かない。
そして、チビは、濁点を半濁音に変えて『チピ』にした。コメントは特に無い。
俺は一瞬、発音上、みんなが名前の最期に付けている伸ばし棒を真ん中に移動させて『ヒーロ』発音にしてもらおうかな?と、思ったがなんとか思い留まった。
俺もそうだが、本来は『しろう』が正しい発音だ。
だが、こっちの人だと、そう発音を教えても「ー」の方が言いやすいんだろう。
それに俺も、厳密にうるさく言う気も無かった。
万一、『ひいろ』とかにしちゃったら、俺がいきなり『お前を殺す!』とか言い出したり、有りもしない自爆スイッチを押すマネをしないとも限らない。
これ以上、2人に迷惑は掛けたくないしな。
うん、やっちゃだめだ。
そしてランティエンスの街を出て、50分程の場所に件の不人気ダンジョンはあった。
確かに往復だけでも約2時間……。この暑い中、歩くのも大変だし、それに見合う報酬か?って言われれば、もっと割の良い依頼を選ぶ冒険者が多いだろう。
「…………足跡も周りには無いな。」
「まあ、俺達も普通は選ばない依頼だ。考える事はみんな一緒さ。」
「コロさん、ダンジョン入るよ!ゴミムシ殲滅はまた今度しよ!!」
「ニャッ(わかった)!」
悟郎さんも今回の一時的な呼び名変更に了解してくれた。ホッとしたよ〜。
じゃあ、ランティエンスのダンジョンに潜るぞ!
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