第251話 街を散策 〜 ポタンリーナ商会へ

「どうだ?凄いだろ?」

「……はい。」

「…………先に宿屋を確保しよう。街はそれから見て回ろうか。」

「そうだな。せっかく早く着いた意味がなくなるしな。」


 緑が…街の中は至る所に木が生えて、しかも絶えず水が流れる水路があった。砂漠の真ん中にどうしてだ?!

 

 気になる事だらけだけど、まずは宿確保だからな!お上りさん!


 そして、門兵さんの提案に従って、チビには事情を説明し、マントの中の服に潜んで貰った。


 最近は、俺の頭の上が気に入っていたから、始めは嫌がったが『ミミクリースネークみたいな人がいて危ないから、街中だけは隠れてろ!』と、言ったら即行で服に入って行った。


 まあ方便だけど、辺境にいた時でさえツリードロワは、珍しいと言われたんだ。


 俺が最初に訪れた街で遭遇した、クソ護衛の様な野郎が、物の様にチビを寄越せとか言って来たら、確実にブチギレ不可避だろう。今思い出しても腹が立つ!


「ここだ。この宿が取れれば助かるんだが。」

「………とりあえず、空き状況を聞こう。」


 結構デカい宿屋へ入って、そのまま受付カウンターへ2人は進んで行った。


「いらっしゃいませ!ご宿泊ですか?それともご予約ですか?」

「宿泊を頼む。一部屋3ベッドのトイレが付いてる部屋はまだ空いてるか?」

「はい!ございますよ!何泊お泊りでしょうか?」

「とりあえず10泊頼む。延長の場合は3日前の申告で変わりないか?」

「はい、変わりございません。では、3名様でよろしかったでしょうか?」

「従魔が2体いる。デザートキャツトとビズミネートだ。」

「承知しました。確認をさせて頂きますね。」


 フードの中で悟郎さんが丸まって寝てるのを見てもらい、襟元のチビには、鼻先だけを出す様に言っておいた。


「まあ!ふふふ可愛いですね!では、3名様と従魔2匹のご宿泊を10日ご用意致します!前払いで32万ゼルになります。」


 いい値段だ……そこのアンタ、俺に震えて眠れって言ってるだろ?


 一人一泊8,000ゼルで俺が8万。従魔は一体4,000ゼル✕2で同じく8万。合計16万ゼルが飛ぶんだ。ただ、ビュッフェ形式の朝飯付き。 


 ハウスにいればタダなのに!

 と、金額を聞いて俺は思ったよ。


 ロレンドさんから『ドドモラゴン一匹売れば余裕でお釣りが来るぞ?』って言われたけどさ…。


 あれは悟郎さんが食うから、売るなら肉以外になるんだよ!


 ゴミムシの魔石……幾らになるかな?でも、一遍に売ったら値崩れ起こすかもしれねぇし。

 あと、オアシスでナツメヤシの実を採ったけど…。


 俺はこの旅で、人付き合いって金が掛かるんだって改めて知った。でも、これが普通か……。

 あんなハウス見たことないって、ギルド長にも言われたしな。


 それと、チビは種族詐称中です。


 道中には遭遇しなかったが、ピョンピョン飛ぶ足の長いネズミが砂漠にはいて、サイズ的にそいつだと言えば誤魔化せるはずだと聞き、安全の為にもレア度の低い“ビズミネート”って事にした。


 そして、先に不足が無いか部屋の確認をしに上がって行った。


「はーーーっ!良かった!部屋も取れたし、安心して依頼を受けられるぞ!」

「………ここの宿がギルドにも近く、1番安いんだ。しかも朝食が美味い。」

「こ、こ、これで安いとか、他はいったい幾らなんですか?!」

「そうだな……一泊12000〜15000ゼルって所だろう。」

「!!!!」


 あやうく腸が捻り切れる所だった……。

 異世界にはト◯バゴねぇのかよ?!……無いよな…知ってたよ…。


「部屋も問題無いな。じゃあ、旅の道具を置いてシローお待ちかねの街散策に行くか!」

「………そうだな。ギルドへは明日行こう。」

「はい!」


 食いもんだ!食いもんを買おう!

 俺の乾いたこころ財布を癒やす為には潤いが必要だ!


 そこでまたゼルを使う事になっても、その出費なら一片の悔い無し!


 チビには事前に、何かを見付けたら1鳴きだけする様に伝え街へ繰り出した。


「まずは、シローがきっと1番疑問に思ってるはずの街中の緑化と水の豊富さだよな!」

「………これは本当に見れば分かる。」


 水路の流れに沿う様に街を歩く。

 すると、徐々に涼しさが増してエアコンでも効いてんじゃね?ってぐらいの体感気温にまで下がった。


「……さっきより涼しい。」

「だろ?その答えがもうすぐ見えてくるぞ!」


 ロレンドさんがそう言う通り、前方が開けて、砂漠にあるはずの無い物が見えてきた。


「!!!これは……?!湖?!」

「そう!正解は、ここの街は湖の周りに出来た街なんだよ!」

「………しかも全部で3つある。」

「3つも?!」

「そうなんだ。しかもこの湖は地下深くで繋がっているらしく、絶えず水が3ヶ所をゆっくりと循環している。その為か、1番深い所で水深が俺の身長の5倍は有るそうだ。」

「そんなに深いんですか?!」

「………大きいから目視では難しいかもしれないが、水の色を見る限り、決して浅くは無いだろうな。」


 ヤベェ………異世界不思◯発見!だよなこれは!


 湖の浅瀬は、湖底が見えるほど澄んで綺麗な水が静かに動いていた。


 ふわ〜〜〜…凄え…。泳いでみたいな…。

 遊泳可能なエリアとかねぇのかな?


「そして、もう一つ大事な事は、湖の水を汚したり、無闇に入ったりした場合、恐ろし額の賠償金が課される事になる。そして、とどめはランティエンスからの永久追放だ。」

「………そのくらい、この湖の水は街の大切な共有財産で、資源なんだ。この水が無ければ数ある香辛料の育成も出来なくなるしな。」


 くっ!この豊かな水源と香辛料達を守る為だ!

 今度、違う場所で泳ごう!


「じゃあ、次は香辛料の取り扱い商会に行こうか!」

「………そうだな。間違いないとは思うが、頼んでおいた品物の確認をしたい。」

「分かりました!」


 また来るのが大変だから、しっかり買いたいな。

 特に胡椒とローリエとターメリックか…。

 あと、着色としても使えるサフランも欲しい。


 幾らくらい何だろう…。貰いもんばっかりだから、販売価格を知らないんだよ。

 

 湖を離れ街中に戻って行き、様々な店が立ち並ぶ通りに出た。

 目移りする!お上りさんの視点が定まらないのは常だ。これはしょうが無い!でも、出来るだけ我慢だ。


 2人は慣れたもので、スイスイと進み、目的の商会へすぐ到着した。


「………ここだ。ポタンリーナ商会。女性の商会長だがやり手だ。」

「そうなんですか……辺境の商業ギルドのギルド長みたいですね。」

「…そうだな。」


 早速、店の中に入ると、色々なスパイスの香りが店内に充満していた。


 スゥーーーーッ!素晴らしい!飛んでいないフレッシュな香りでいっぱいだ!

 トラキオさんの商品確認が済んだら、買うのは後にしても、品物を見せて貰おう!小売もしてくれるって事だし……手が出る金額だと良いな。


「………こんにちは。スージェイルトラキオパパの名で商品の予約をしていた者だ。用意が出来ているなら、商品の確認をしたいんだが。」

「スージェイル様ですね?……はい!既にご用意が出来ております。確認は、この札を持って倉庫でお願い致します。」

「………ありがとう。」


 トラキオさんが札を受け取り、倉庫へと向かって行く。おうおう!こっちにもいい匂いがしてやがるな!


「………すまない。商品の確認に来た。」

「おうよ!札を預かるよ、ちょっと待ってな!」

「………分かった。」


 袋がたくさんだ!知ってるぞ!お宝が詰まってんだろ?キョロキョロ見ていると、なんかデジャヴが…。


「お待たせ!これが依頼の商品だ。確認してくれ!」

「………ありがとう。」


 トラキオさんは、袋の1つ1つを開けて確認し、頷くと振り返って俺を手招きした。


「………商品の確認が出来た。シロー、本当に頼んで良いのか?」

「もちろん!大丈夫ですよ!」

「………ありがとう。では、支払いを済ませて来るからここでロレンドと待っててくれ。」

「分かりました!」


 このくらいの収納では足りないほど、2人にはログレスで出会ってから色々と面倒を見てもらってる。

 それを当たり前にせず、出来るだけ持ちつ持たれつの関係で俺はいたい。


 トラキオさんが戻って来る前に、さっきのデジャヴを確認しよ。


「すみません、俺は収納を持ってるんですけど、袋を1つ出してみても良いですか?」

「ん?出すのは別にいいぞ?」


 倉庫番の人に了解をもらい、バトヴァルの報酬で貰った香辛料袋を1つ出した。


「…あ!やっぱり同じ袋だ!じゃあ、俺が貰ったのはここの香辛料だったのか!」

「お?ボウズ、その袋どうした?それは確かにこの商会の物だぞ。」

「以前、依頼の報酬で貰ったんです。良かった…それなら味も香りも確かですね!」

「あったり前だ!ポタンリーナ様の目利きは抜群だからな!ボウズも買うならここで買ってけよ!」

「はい!!」


 い、やったーー!!まかせて安心ポタンリーナ印の香辛料!ここの物なら買って損は無いな!


「シロー、お前報酬に香辛料貰ったのか?」

「はい!辺境では手に入らなかったけど、ずっと欲しかったんです!貰った時は凄い嬉しかった〜!」

「ふふ…。喜んで貰えて何よりだわ。こちらも揃えた甲斐があったわね。」


 トラキオさんかと思ったら、背後から急に女性の声が聞こえて来た。

 誰だよ?!ちょっとビビっただろが?!


 慌ててロレンドさんと一緒に振り返ると、デジャヴPart2な人が立っていた。


「……あれ?商業ギルドの……ギルド長??」

「あれは私の姉よ。私は妹のポタンリーナ。姉から色々聞いてるわよ。ヨロシクね、シロー君。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る