第242話 道具の購入と襲撃

 ログレスの街は、アーモンドの外形の様に、街門から左右に湾曲した大通りが伸びている。


 右側には冒険者ギルド、ダンジョンで採れた品物を売る商店、飯屋、宿屋が軒を連ねていた。土産物を取扱ってる観光スポットみたいだな。


 大通りに挟まれた真ん中の土地には、街門に近い半分くらいが商店や商業組合が占め、残りの上に半分がお役所系だって話だ。


左側には、言ってみれば普通の商店や日用品を扱う店、集合住宅、この街に住んでいる人達の生活の場になっていた。


 街門から見ると、反対側に領主館やらの偉そうな施設が立ち並んでいるそうだ。


「シローこっちだ!」

「あ、はい!!」


 しまった……キョロキョロと店を見てたら、2人と距離が空いてた……。


「………先に道具屋で野営の用意を揃えてから、他の店をゆっくり見よう。」

「はい…ありがとうございます。」


 ここに来て、俺の協調性の無さが更にバレバレしてきた。誰かと一緒に買い物とか初めてなんだよ…。


 小学校の頃はまだ放課後に遊ぶ友達もいたけど、中学上がると途端にそれが難しくなったからな。


 誘われてもコンビニへもマックへも行けないから、ひたすら部活やって真っ直ぐ帰ると見せかけて、山で野草採ったり、煮炊きして食ってたし。


 今思えば、流行る前にソロキャンポイのしてたな俺。


「シロー、ここだ。ログレスならこの道具屋が品揃えも品質も良いぞ。」

「分かりました。」

「………所で、シローは野営で使えそうな物は何か持ってるか?」


 ええ?必要な物がそもそも分かんねぇ。それに何がセーフだろうか?……とりあえずは最初の頃に使っていたグッズ類を上げてみるか…。


「料理に使うまな板、ナイフ、木製の食器、鍋、飲み水以外の水と火は魔法だし、あとは………。」

「よし、分かった!料理系以外はほぼ全部だな!」

「………まあ、あれを持ってたら必要ないしな。」


 本当に世話を掛けます!!!

 2人と一緒に野営道具を見て回り、普通の冒険者なら持っているセットを購入した。


 寝具にも使える大きいマント、魔石で光る灯りの魔道具、魔物避けの香、洗浄の魔道具、魔法が使えない人向けには火を起こす魔道具や水を出す魔道具もあった。


 テントは?って聞いたら、基本はそのまま野宿で、ペグみたいな金物で屋根代わりの生地を張ることはあっても、それ以上は作らないそうで俺ビックリ。


 その買い物の様子を見ていたらしい道具屋の店主が、会計の時に『坊っちゃん、2人の言う事を良く聞いて、気を付けて行って来るんですよ?』などと余計な事をほざきやがった……。


 2人は横で俯き、肩を震わせている。トラキオさんに至っては、ツボったのか怪しげな咳払いをして咽ているし…。


 分かってるよ?ここは怒る所じゃないって。俺を心配してくれたんだよな?余計だけど。

 デカイ2人に挟まれたら、そりゃあ子供に見えるよな?俺、17歳だけど。

 いいんだよ?“旅の無事を祈ってます”って、魔物避けをサービスしてくれたし。


「………シロー、すまない。あの店主があそこまで想像力が豊かだとは知らなかった。」

「まあ、シローは黙ってれば、良い所の坊っちゃんに見えなくもないしな。ゴロー達を連れてると余計に可愛く見えてしまうのは、どうしようも無いだろう。」

「悟郎さんが強可愛いのは、隠し切れないから諦めてます。でも、俺にまでその影響が波及するのは納得出来ません!」


 暫くプリプリしていたが、買い物してたら落ち着いた。あのクソ猿の手が8000ゼルで売れたんで、ここでお土産買って使い切って発散しよう。誰かは知らねぇが、もの好きが買うんだろう。ありがとうよ!


「じゃあ、昼飯食ったらランティエンスへ向かおう。俺等は宿を引き払って来るから、シローは待ってるあいだ買い物でもしててくれ。」

「分かりました!」

「………下層の果物は市場で買うと高いが、美味いと分かればやる気も上がる。試しに1個づつ買ってみたらどうだ?」

「因みにこれは何層にありますか?」


 釈迦頭しゃかとうを出して聞いてみた。

 市場で買えた中では、チビの一番のお気に入りだ。


「それは18階層だな。」

「………だいぶ潜る事になるが、20階層で折り返せる様になれば楽に行けるしな。」

「そうだな…。やっぱり5の付く階層が、どちらへも中間で人気がないな。」


 人気が無いなら、5階層、15階層はピヨ達を出す機会があるかもな。他層でも隙を見て少しずつレベル上げしてこ。


 野営か〜〜。地面で寝た事無いけど寝れるかな?

 後は夜番だよな。起きて番をしてる時に、ピヨ達の入れ物作ってもいいかな?


 後はどっかに、何かスポンジ的な軽くてフワッとした素材ねぇのかな?山用品みたいに、コンパクトに纏められて嵩張らなければ使えると思うんだよな。


 …………やる前から消極的になってるが、環境改善の努力は惜しまないぞ!


 市場を物色しながら、2人を待ってると変な気配が索敵に掛かった。悟郎さんも気付いたのか、肩に置いた手の爪が出て来ている。


「悟郎さん、とりあえず俺に任せてくれる?」

「……ニャッ(わかった)。」


 人の出来るだけ少ない所へ進み、スマホのインカメラで背後を確認する。


 知らねぇヤツだな……。俺の方は、目印に悟郎さんがいるから見付けやすいだろうし、これが2人の心配していた逆恨みならここで潰しておこう。


 ボーッと商品を眺めていると、駆け寄る音と共に、周りのざわめきが大きくなる。

 背後からドンと来る気みたいだし、目撃者も多数いるし丁度よいな。


 護身を掛け、製錬で抽出してあった鉄を圧縮して伸ばし、マントの下に忍ばせる。


 通りのざわめきに悲鳴が混じり出した。

 刃物が見える状態で突っ込んで来てるなら、素人さんですね。


「死ねっ!!クソガキ!!」


 おうっ!思った以上の衝撃が背中に!

 恨みって強い力を引き出すんだな。

 

「テメェがくたばれ!クソ野郎!!」


 操土の術で、地面からソイツの両足を貫く土槍を出してその場に固定し、手にした刃物を叩き落とした。


 しかも、止めていた悟郎さんも手を出してしまい、ソイツの顔に3本の横線が走ったかと思ったら、ツーッと血が流れて顔を染めた。


「悟郎さん……。俺は大丈夫だよ?」

「ニャァフ(だめ)!!」


 あ、そうか…。俺自身を囮にした事を怒ってるのか。


「そうだったね。トラキオさんにも言われてたのにごめんね。もうしないよ。」

「ニャォフ(当たり前)!!」


 悟郎さんのお説教を聞いていたら、誰かが呼んだのか、街の衛兵が数名駆け寄って来た。


「大丈夫か?刃物を持った男が子供を刺したと知らせがあったんだが……。」

「ああ、それなら俺が背後から刺されましたよ。ここを。」

 

 マントを指し示すも、このマント不壊なんだよ。

 だから、破けてもいないんです。


 ただ、内側に仕込んだ鉄板にはナイフの当たった凹みがあったんで、目撃証言と共に確認してもらう。


「このマントは………ダンジョン品か?」

「はい。そうとは知らずにソイツは刺して来ましたけどね。」


 その男は、足も顔も痛いだろうに、俺への恨みが強いのかずっと喚き散らしていた。


 そうだ。アレ使ってみよう。矛先を変えられるかもしれないし。


「(疑心暗鬼)…なあ、アンタ。セダンガと繋がって何をしてたの?不法品の密売?使用禁止薬物の使用や売買?それとも子供の人身売買かな?俺を勝手に恨むのは結構だけど、判決所でセダンガ達はベラベラと色々喋っていたぞ?悪いのは全部アイツだー!ってな。きっと、捕まった他の奴等も同じ様〜に保身の為に沢山お話してるだろうよ。……そう言えば、ジットーレがやった事だって言ってたのも聞いたな。」

「…嘘だ!!デタラメを言うな!!」

「嘘なら良かったな…。嘘ならアンタは追い詰められる事も無かったろうに…。」

「……!!」


 愕然とするジットーレ。少しは疑心の芽が生えたかな?

 後は衛兵さんに任せようと操土の魔法を解除し、ジットーレを拘束してもらう。回復した方が良いかを聞いたら、不要だと断られた。


 衛兵さん達の態度からして、コイツも色々やって手配されていたんだろうな。


「君は……数日前に来た冒険者か?」

「あ!!あの時は親切に教えて頂いてありがとうございました!お陰で従魔達にもたくさん食わせてやれました!」

「いや、いいんだよ。ところで本当に怪我は無いんだな?」

「はい、大丈夫です。」


 門で会った親切な衛兵さんにやっとお礼が言えた!

 ログレスを出る前に会えて良かったよ〜!


「さっきジットーレの足が貫かれているのを見たが、君は魔法に長けているんだな。」

「本当は武器も扱いたいんですけど、弓は壊滅的にダメで、剣を練習中なんです。なので、今は魔法に頼ってます。」

「あれだけの魔法が扱えるなら、剣よりも向いていると思うぞ?まあ、理想があるなら頑張れ。まだ若いんだから色々と試す時間もあるだろう。」

「はい。」


 俺の理想………馬に乗って槍を振るいたい。

 でも、場所が限られる上にまだ馬がいないんだ…。


「シロー!大丈夫か?!何かあったのか?!!」

「ん?知り合いか?」

「はい、辺境冒険者の先輩です。ダンジョンで色々教えて貰ってるんです。」


 ロレンドさん達が戻って来て、騒ぎに驚き駆け寄って来た。


「そうか…。同行者がいるなら少しは安心だな。……俺はログレス衛兵のシャンテイタークだ。先ほど、シローが襲われてな。犯人は既にシローの協力で確保している。シローにも怪我は無い。今は少し話をしていただけだ。同行者がいるなら同郷の者に任せるよ。」

「………シロー、本当に大丈夫なんだな?」

「大丈夫です!」


 2人にも心配を掛けちまったな…。


 今後も注意はするけど、今回みたいなヤツであれば何の問題もない。

 

 出来れば来ないで貰いたいけどな〜。マジで。

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