第236話 ログレスダンジョン 三層目① 〜 負けられぬ戦

「やった、湿度が下がった!気温は……少し高いけど概ね快適!悟郎さん、チビ!ここなら自由に動いても大丈夫だぞ!」

「ニャッニャゥ(やったー)!」

「キュキュキュ!」


 湿度が下がるだけで、こんなにも快適空間に変わるんだから凄いよな〜!

 エアコン魔法を切って、3層目のフロアを体感する。

 日差しは強いのにサラッとしてる。何となくリゾート気分ってこんな環境を言うのかも…と思った。


「この階層からは他の冒険者にも会うだろう。1〜2階層はあの暑さから、採取依頼を受けた冒険者がいるのみで、だいたい素通りするんだ。」

「………俺達もいつもは、食う分の木の実を採ったら3層に向う。」


 あ〜ー…やっぱり俺に合わせてくれてたのか。

  俺等だけでも、探索・採取と問題なく出来たと思うけど、掛かる時間は段違いだったろうから、本当にありがたい。


「分かりました。色々、教えてくれてありがとうございます!」

「なに、大した事ではないさ。前にも言ったけど、こっちも良くして貰ってるからな!」

「………そうだ。シローと料理を作るのは楽しい。今までは、ほぼ俺が一人で作ってたからな。」

「あ〜〜なるほど……。」

 

 ロレンドさんは焼くオンリーだし、シズナエルハラキリの料理は南の山で臭いを嗅いだが、めちゃクソヤバかったもんな……。


「悟郎さん、チビ!他の冒険者がいるから、余り離れ過ぎないでくれ!俺達以外の冒険者は、2人が俺の従魔だって知らずに攻撃してくる可能性もあるから!」

「ニャァニャオ(たおす)?」

「キュッキュ?」

「倒しちゃダメー!!その時は一度戻って来て!」


 危ねえ!!この段階では、他の冒険者に悟郎さん達が何かされるより、悟郎さんがやらかす方が余っ程可能性が高い!


「はは!ゴローに攻撃されたら、ここら辺の冒険者ではイチコロだぞ?頼むから加減してやってくれ!チビもな!」

「ニャッ(わかった)!」

「キュ!」


 悟郎さん達への注意を終えて三層を進んで行くと、ヤシの木や原色で色鮮やかな花がたくさん咲いている場所に出た。


 二層目迄がジャングルや密林なら、ここはやっぱり南国リゾートだ。これで海があれば完璧だったのに。


「キュキュキュキュキュキュキュキュ!!!」

「チビ?もう何か見つけたのか?」

「キュ!!!」


 気の所為か…?

 何だかチビセンサーの性能が上がった様な……。


 チビの示しているのは、ロレンドさん達が案内したい方向と合致している様なんで、そのままチビを先導させ、果物が生っている場所を目指した。


 すると、賑やかな声が聞こえて来た。

 前方に何やら若い冒険者の男女が集まって、騒いでいる。


 ヤツ等は、あんな所で何を………


「オレが取って来てやるから、パリェーアはそこで待ってろよ!」

「本当?ありがとう〜!クトーアロ気を付けてね!」


 ん?アオハル冒険者か?

 目障りだな…他所でやれよ、他所で。


「お!野郎臭えのばっかり来たぜ!」

「止めなよ〜〜!そんな事言って可哀想じゃん!」

「でもでも、ちょっとかっこいい人もいるよ?」


 ………………ああん?!ショ◯ベン臭え餓鬼共め!

 この頼れる冒険者パイセン達を前に、クソ舐めた口を聞きやがって!!


「悟郎さーん。前方にアホな障害物がたむろって邪魔をしてるけど、気にせずまかり通っちゃおっか!」

「ニャ(うん)!」

「よし!あそこのショボい木は無視して、チビの見つけた木の実がある所まで皆で競争だぞぉ!一番早く到着した人には〜〜〜!明日1日好きなご飯を好きなだけプレゼント!!しかもお代わりオッケーだ!」

「ニャッニャゥ(やったー)!!!」

「キュキュキュキュキュキュキュキュゥ〜!!」

「じゃあ合図の後に行くぞ!位置についてー!よーーーい!ドン!!」

「ニャフ(行く)!!」

「ギュッ!!」


 これが!負けられないいくさ!!

 俺も行くぜ!!


「シ、シロー?!ゴローも!!…あ!チビまで!!」

「……………ロレンド、やらせておこう。シローの今迄の行動からして、売られた喧嘩は必ず買っている。それに、これ位で済むなら可愛いもんだ。だが、もしシローの口撃が始まったら……その時は止めよう。」

「…口撃………。」


 2人にそんな打ち合わせをされているとは露程も知らない士郎は、前方にいた冒険者達の間をわざとらしく突切り、チビの見付けた果物に向け、健脚の魔法を使ってひた走った。


 どうやら、チビの見つけた木の実は、高い木の天辺にある様で、地上からはそれが何の実かさえ分からなかった。


「…………跳躍!」


 木の根元に近付いたのと同時に、追加の魔法を唱え、10m程の木の天辺まで一息に飛び、一番乗りと思った瞬間……士郎を足掛かりに悟郎が飛び、更に“脱兎”と“木渡”を併用したチビが士郎を抜いて果物へと到着した。


「あああっ!!」

「ニャッニャゥ(やったー)!」

「キュ〜〜〜!」


 小さなテーブル状になっているその木の天辺に下り立ち、士郎は膝から崩れ落ちた。


「………くっ!ラストの詰めで抜かれるとは!!不覚!!」

「ニャニャニャニャ〜♪」

「キュキュキュキュ〜♪」

「分かったよ!明日の朝から夜飯まで、材料の許す限り、2人の好きなご飯を好きなだけ出したげる!何が良いか決めておくんだな!!」

「ニャッ(わかった)!」

「キュ!」


 若干の負け惜しみを滲ませ、目的の果物を見ると、テーブル状の真ん中には米俵サイズのパイナップルが鎮座していた。


「わあ!君だったのか!パイナポー!!」


 その場で周りを見回すと、同じ様に頂にパイナップルを乗せた木が辺りに乱立している。


「これ1個でも十分な大きさだけど……パイナポーは黄色だしな……。あとちょっと採っておくか!他の冒険者が集って無い木なら良いだろ。」


 そのまま天辺を跳躍で渡り、サッと満足行く数を確保して、ロレンドさん達の所へと戻って行った。


「すみません!お待たせしました!」

「大丈夫だよ。採取は出来たか?」

「はい!」

「…………それで、誰が一等を取ったんだ?」

「「ニャ!キュ!」」

「……最後に抜かれました〜〜。」


 クゥッ!!何て自慢げに胸を張るんだ君達は?!

 そんな柔いモフ毛を張ったって、どうせ撫でられるのがオチだぞ?!分かってるのか?!


「見て見て可愛い〜〜!あの従魔めちゃ可愛いね!」

「ね〜!それに待ってたあの2人、大人だね〜カッコいい!」

「だからさっき言ったじゃん!」

「従魔と競争してた人は、私達(15歳)と同じかな?」

「そうじゃない?だって大人気なかったもん!」

「だよねー!」


「………………………。」

「シローは、もう少し気持に余裕を持とうな!」

「……………因みに俺等は全く怒ってないぞ?」


 Why?isekai people!!

 あれは今後の為にも指導案件だったぞ!因みに俺はまだちょっと怒ってるからな?!

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