第225話 揉めた納品とモウがもう一頭

「ほ、ほ、本当に良いのか?ギルドに売却した後に、やっぱり返してくれって言っても出来無いからな?!分ってるのか?返せないんだぞ?!!」

「だ・か・ら!さっきから何度もそれで良いって言ってるじゃないですか?!カレントさん、いい加減クドイですよ!」


 このやり取りを何回したことか……。何でいつもの様に、素直に受け取らないんだよ?!

 俺はただ林檎の納品に来ただけなんだぞ?!どうして、ここまで揉めなきゃならねぇんだよ!!


「さっさと受け取らないと、商業組合の会員になってそっちに納品しますよ?」

「!!ま、待てよ!!シローがほんとーーに良いなら是非納品してくれ!さっき食わせて貰ったけど、とても美味かった!この寒くなり始めの時期にこんなに美味しい果物を出したら、瞬く間に売り切れるぞ!!それに今後ギルドへの採取依頼も絶対に来る!しかも実がある程度硬いから、辺境から他の地域に出せる品物の1つになるよ!」

「俺もそう思って納品したんですよ。そもそも、どうして今迄採取されていなかったんですか?」

「いやお前、この寒くなった時期に果物が生るなんて誰も思わないだろ?それに西の山のあんな所まで依頼も無いのに行く、酔狂な冒険者はいないぞ?」

「…………………………ここにおりますが?」


 カレントこの野郎!受け取りをグスグスした上に俺を酔狂呼ばわりとは……どう言う了見だよ?!


「お前の食い意地を基準に話すなよ〜。基本、果物は主食と違って贅沢品だ。辺境周辺は比較的果物が豊富に採れるから、みんな食べる習慣があるけどな。それと、この近くだとフルーツダンジョンのあるログレスぐらいだ。後は、運搬の困難さや日持ちの短さから、乾燥した物が流通するのみだぞ?ランティエンスに行けばより分かるが、あそこは周りが砂漠だらけで、生の物が本当に少ない!挙句の果てに、砂漠に生えてる刺だらけの植物まで食うんだから大変だぞ〜?」

「何言ってるんですか!とても理にかなった選択じゃないですか!!砂漠に生えていて手に入りやすく、水分も豊富なら食って当たり前です!俺も食いたい!」


 それってサボテンだろ。ならアロエもあるんじゃないか?で、クスクスが主食だな。

 

「お前……本当に何でも食うな……。」

「そんな事無いですよ?!どんなに腹ヘリでも虫だけは絶対に食いませんから!」

「いや、極端な例えすんなよ……。」


 甘い……甘いぞカレント!!地域によっては絶対に虫食してる場所があると俺は見ている!そんな危険地帯に足を踏み入れない為にも、情報収集めっちゃ大事!

 ただ、このギルドで調べた限り、ランティエンスまではそう言った危険性はない。しかし、あそこにはヤツラサンドワームが大量に砂に潜んでいやがるがな……。


「あ、あと今日はメリエナさん家にいますか?」

「ああ?!何でだよ?!」

「……おみやげにこれりんごを持って行こうと思ったんですけど。ここでカレントさんに渡すのは拙いでしょ?」

「む、そうだな……。だけど、メリエナは治療院で仕事を再開したから、今いないぞ?」


 お兄ちゃんウザい〜〜〜。すぐ過剰反応するから、マジ面倒くさい!最初からそう言えば済だろが!


「なら、ミスリアさんの所に先に届けに行きます。カレントさんの仕事終わりにでも、ハウスに取りに来てくれれば渡しますよ?」

「悪いな…じゃあ、仕事明けに行くよ。俺だけ食ったら、メリエナにどやされそうだしな。」


 そこでやっと、林檎がギルド長の判断を仰いでから改めて精算する事に決まった。あ、ついでにマウンテンモウの搾乳を他ではどうやるか聞くか…。


「カレントさん、マウンテンモウの搾乳ってどうやるんですか?」

「は?!マウンテンモウ??」

「はい。モウニュウコの原材料ですよね?」

「いや、違うぞ?モウニュウコはリーストモウの乳を使ってるんだぞ?」


 初めて聞くその名に、俺はフリーズした。リーストモウって……何だよ?!


「……リーストモウ…………………………?」

「……………まさか、マウンテンモウから乳を採ろうとしてたのか?お前……そりゃ無理だよ。群れのオスを倒してメスだけ孤立させても、魔物が言う事を聞くかよ。…………まさか……試してないよな?な?!」

「……………今日、マンツァナリンゴを取りに来た時、夕飯を用意するんで食ってって下さい。その時、詳しく話しますよ…………。」


 俺はこめかみを押さえてそう伝えた。カレントは頭を抱えている……。

 だって、モウって言ったらマウンテンモウじゃん!これさ、ビーと一緒だよ!!レイニアビーには遭遇するのにフォレストビーには未だに会っていない!どうしてなんだよ!!


 このままここにいてもしょうがないんで、カレントとはそこで別れた。もう事後だ!気にすんな俺!!




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