第186話 ある意味純粋なゴリラ

 冒険者ギルドに行くと、まだロレンドさんとトラキオさんがギルド長と話をしていた様で、そっちに通されてしまった。


 今日は2人に報告を任せてるから、俺は用事が無いんだけど…。


 途中で獲ったディアを半分売ったら、帰ろうと思ったのにな。


 薬師組合も製薬で忙しくなるだろうから、ランディエーヌさんに奢ってもらうのは落ち着いてからだろうしさ。


「シロー!お疲れだったな!薬師組合にフォレストスクォを渡して来たのか?」

「はい。今回は、冒険者ギルドに卸せなくてすみません。」

「それで良いに決ってるだろうが!そりゃ、滅多に獲れないフォレストスクォの羽は惜しいが、優先順位は何よりバトヴァルの治療薬の完成だからな。今回のバトヴァルの伐採だって、万一を考えれば治療薬が有るのと無いのでは、お前達が曝される危険度が格段に変わるんだから。今後、作業に慣れて来た時に、うっかり毒を受けてしまうヤツだっているはずだしな。」


 そうなんだよな…。


 アムレントさんの見立てた通り、毎年フォレストスクォが飛来して、その何体かがバトヴァルの種を落として行く可能性は今後も無くならない。


 そうなると、あの山小屋に監視人が置かれたり、巡回員が定期的に回ったりするはずだ。


 今回の様にチームをまとめるリーダー的な存在がいれば、作業が御座なりになる事も無いだろう。


 でも、定期的な作業になって、その危険性への認識が緩んだら、ギルド長が言ってる通りうっかりするヤツが出るだろうし。


 そんな時にバトヴァルの治療薬があれば、その“万一”が起こってしまっても対処が出来る。


 後は、薬が発症後でも効く物だったら尚、安心出来るな。


 バトヴァルの毒が遅効性で、投薬まで猶予が有っても、山から戻って来る間に発症して、薬が間に合いませんでした、なんて超最悪だし。


「調べないと何とも分からないと思うが、ランディエーヌさんはどんな様子だったんだ?」

「フォレストスクォを渡してその説明をしたら、“良くやった!”って叫んでましたよ。それで、小さい助手?みたいな人を呼んで、直ぐに調べる様に言ってました。」

「小さい助手…?リュウレンさんの事か?」

「あ、その人です。外見だけだと年下に見えたんで、一瞬、ランディエーヌさんのお孫さんかと思いました。」


 俺がそう言うと、三人が一斉に俺を制する様に慌てだした。


 え?急にどうしたん?


「シ、シロー!それをランディエーヌさんに言ってないよな?!」

「え?何をですか?」

「孫って話をだよ!」

「はい。言ってませんけど…。」

「「「……良かった!!」」」


 あれ?もしかして地雷でしたか?


 知らないんで、今後の為にも是非教えてくれ!!


「…………シロー、ランディエーヌさんは未婚だからな。言葉は選ぶんたぞ?」

「あ、あ〜〜……。了解しました。……良かった…言わないで。」


 顔が似ていなかったから、その線は無いかと思って言わなかったけど、ギリギリセーフだったな。


 でも俺、飯奢ってなんて誘う様な事を言っちゃったな……まあ、大丈夫だろ。

 リンスラさんだったらアウトだろうけど。


「シロー、この辺の話は繊細な問題だから、迂闊な発言や誂う様な事は言うなよ。あの人をばあさん呼びして、怒られないのはヒュージェぐらいだからな?!」

「そう言えば、ヒュージェさんはそう言ってましたけど、本人を前にしてもその呼び名は変わらないんですか?」

「アイツは変わらん。代わりに悪意も一切無いけどな。」


 確かにあの人の呼び方に悪意は感じなかった。


 きっと、いつもそうなんだろうな。ヒュージェさんらしいや。


「そうだ、トラキオさん。ランディエーヌさんがこれが終わったら、ご飯を奢ってくれるって言ってたんです。トラキオの所にお邪魔して良いですか?」

「…………ああ。いつでもいいぞ。事前にいつか分かれば、うちの親に言ってくれ。」

「ありがとうございます!」


 よしよし!これで金の心配せずに美味しい飯を頂けるな!


 あとは、薬師組合がバトヴァルの毒に対する治療薬を製薬できたら、ゴールなんじゃね?


「シロー…。やっぱりお前は……………。」

「何がやっぱりなんですか?!ギルド長!!」


 このゴリラは!!何を思い出した様に“やっぱり”だよ!


 同じネタばっかり、しつこいんだよクソが!!


「……ギルド長、なんで、俺が何度も否定してるのに同じ事を繰り返されるんですか?正直、面倒臭いです。」

「え?それは、お前が素直になれないだけじゃないかと思ってだな…。」

「俺は素直に言ってますが?……ランディエーヌさんの誂った言葉をこれ無駄に引き摺るなら、もう冒険者辞めます。それで狩人組合にでも入ります。」

「な!ま、待ってくれ!シロー!」


 狩人組合ってのがどんな組合なのかは調べないと分らないけど、冒険者を辞めても単発で売却も出来るから困ることは無いからな。


「シロー。ディアの買い取り査定出た…ぞ?……どうしたんだ?ボスも何かあったんですか?」

「カレント!シローが!冒険者辞めて狩人組合に入るって言い出したんだ!」

「は?ここまで実績上げてるのに、何で今更狩人組合なんだよ?」

「ギルド長が面倒臭いからです。」


 後から来たカレントにもさっきの話を説明する。

 すると、マジかこの人はって顔でギルド長を見た。


「……ギルド長。あれは完全にランディエーヌさんがシローを誂って遊んでましたよね?」

「え?だ、だってお前だって、トマ煮のセイライさんの事を言ってたじゃないか?!だから、俺はてっきり言い難い思いを抱えてんだと……。」


 ええ〜〜??!!マジで言ってたの?!


 うわ〜…。これは、ゴリラの認識を誤っていたわ。

 かなり純粋?バカ?なのかね?


「ギルド長。俺は、そんな言い難い思いは、マジで抱えてません。普通に同じ位の若いねーちゃんが良いです。」

「本当か?!」

「嘘偽り無く本当です。」

「何だ…そうなのかよ。俺はてっきり……。あ、受付に落ち着いた年齢の人を雇ったばかりなのに!」


 うわ!マジだった!前に言ってた通り、雇っちゃったのかよ?!


 これは、思考と行動が明後日の方向だとしても、本当に俺を考えてやってたのか…。


 ゴリラマジヤベぇな!


「その落ち着いた年齢の受付の方には、普通に仕事してもらえば良いじゃないですか?寧ろ、頭の悪い使えない受付の教育係になってもらうのはどうですか?」

「…お前がそうやって、若いヤツ等に対して当たりが強いから余計に勘違いしたんだぞ?!」

「それは俺のせいじゃ無いでしょ?ガキだろとうと、ババアだろうと、クソに払う誠意も感謝も無いです。それくらい、ここの受付は使えないですよ?いっその事、総入れ替えしたらどうです?」


 これはマジだからな!ここの受付、一番最初の口数少ない人がギリセーフで、他は俺的にアウト!


 特にこの前、ベラベラと俺の情報をチンピラ冒険者に喋ったヤツはクビでお願いしますよ。

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