第185話 薬師組合へのお届け
「討伐に同行出来るなんて、こんな機会ないぞ?」
「………そうだな。ヒュージェさん達は、ダンジョンにいる事が多いからな。」
前を歩く2人がしている話を聞くに、どうやらレア体験らしい。
それより俺は、自信満々の悟郎さんがナニをしでかすか、それが一番気に掛かる…。
任せろと言われても、俺の知ってる悟郎さんの既存の魔法では難しいはず……。
……え?まさ…か?
「ニャォゥ(いた)!!」
「待って、ちょっと待って!悟郎さん!!」
「ニャフゥ(行くよ)〜!!」
「だめ!行かない!ストップ!!!!!」
ああーー!!これは??!!
ぷち砂嵐?!
砂を内包した小振りな旋風が、上空を飛んでいたフォレストスクォを飲み込んだ。
フォレストスクォは、洗濯機に入れられたかの様にグルグルと回わされ、最初に見せていた抵抗も既に出来ず、されるがままの状態。
暫くして悟郎さんが魔法を止めると、フォレストスクォはそのまま地に落ちた。
この個体もバトヴァルの残留が無かったので、事切れたその身体を手に持ち良く見てみると、大きな外傷が無い代わりに、鼻や口に砂が入っており、死因は窒息か?と思われた。
「ニャッニャゥ(やったー)!ニャゥフ(獲った)!!」
「……悟郎さん、流石です。だけど、俺が待ってと言ったら少し待ちましょう。わかりましたか?」
「ニャッ(わかった)!」
「だいたい、いつ覚えたのさ!最近は、特に大物倒して……無いよな?レイニアビーとか、ラビのチリツモなのか?」
悟郎さんは、上手く仕留められて、ご機嫌にニャッニャッ言ってる。
しかし今日は、全員年上の同行者付きなんだぞ?!
他を差し置いて先陣切っちゃったよ〜。
「今のシローの魔法か?凄いな!」
「…ヒュージェさん…勝手にすみません。今のは悟郎さんの魔法です。」
「ゴローの魔法かよ?!デザートキャットって、こんな凄い魔法使えるのか?」
「さあ?俺が他の個体を知らないので何とも…。」
悟郎さんのチート疑惑が浮上。
俺がチマチマ魔法の段位を上げて、工夫して何とかやってるのに狡くね?
「や〜〜ん!ゴローちゃん、可愛い上に強いのね!いい子だわ〜!」
「ッッ!!ニャウ(無理)!!」
リンスラさんが悟郎さんを撫でに来た途端、俺の服に隠れるなよ!
しかも、無理ってストレートな拒絶。
でもこれ、俺も無理だわ。
「ええ?ゴローちゃんて、恥ずかしがり屋さんなの?撫でたかったのに〜!」
「すみません。悟郎さん…人見知りなんですよ…。」
出て来る気の無い悟郎さんのフォローをして、何とかリンスラアタックを避ける。
”や〜〜ん”じゃねぇよ!キモいわ!
それに、俺は最初にメルギスにしてた、あのキツい当たりを見てんだからな?
理由は知らねぇけど、俺はあっちが素だと思ってる。
「……リンスラ。まさかと思うが、シズナエルと同じ様な事はしてくれるなよ?」
「…ヒュージェ、何を言ってるの?する訳無いでしょ!大丈夫に決ってんじゃない!!」
おお〜怖い。キレるのも早いですね〜。
そろそろ加齢から、例の障害が来るご年齢でしょうか?
改めて、適切な距離が必要な人だと認定しました。
「さあ、この先はまだ調査もしてない場所なんだから、フォレストスクォの探索と一緒にバトヴァルの木が無いか、確認しながら行くよ!リンスラもしっかり頼んだよ!」
「分かってるわよ!それより、バトヴァルを見つけた時はどうするのよ?伐採するの?」
「…伐採は改めてしよう。場所を地図に書くから、見つけたら教えてくれ。」
悟郎さんのフライングもあったが、その後は各自で探索と討伐を続けた。
ロレンドさんとトラキオさんは、サブで弓と魔法も使えるらしく、トラキオさんが魔法でフォレストスクォの移動先を誘導して、ロレンドさんが弓で仕留めていた。
ヒュージェさん達は、三人共に足元の石を拾っては投げて仕留めている……。
この程度の魔物では、武器も魔法もいらないそうです。
俺も最初は投擲で行こうかとも思ったけど、傷なしの個体も欲しかったので、悟郎さんと一緒に魔法で討伐を続けた。
討伐出来た数は、全部で22体。
内、3体だけバトヴァルが残留している個体もいた。
今回の伐採で、バトヴァルの木自体が減ったせいで、フォレストスクォは実を食えなかったのかもしれないな。
「よし!まあまあ、数が集まったな。この辺で止めにするか。」
「そうだね。それにしても、正直、この時期に山へ来て、態々ダギアルバードの巣の先には来ないよ。俺達が見掛けたのは、低層地帯に下りて来た個体だけだったんだね。」
皆の討伐したフォレストスクォを預かり、収納しておく。
渡りの時期にしか見られないフォレストスクォをこれだけ討伐出来れば御の字だよな。
◇◇◇◇◇
「こんにちは〜!お届け物で〜す!」
「…………随分、朗らかに言って来てるけど、お前さんが届けてくれる物は不穏な物が多いよ。偶には気の利きた物でも持って来てみな。」
「う〜〜ん。考えておきます。先ずは念の為に採って来た薬草をお渡しします。ばあちゃん…セイライさんの旦那さんに使って下さい。あと、何種か見つけたんでついでに。」
ヒュージェさんに言われて、フォレストスクォを届けに来たけど、先に薬草を出した。
どうだ!不穏さの欠片も無いだろうが!!
「お前さんはまた……こんなにアレギスラを採って来たのかい?それに……他のも貴重な薬草ばかり…。」
「ばあちゃんの旦那さんの治療も、薬の服用一回で治る訳じゃないですよね?だったら前回俺が採った量じゃ足り無いかと思って。ついでだったし。」
治療って治るまで時間が掛かるイメージなんだよ。
金も掛かる……って、あれ?薬の値段っていくらなんだ?
その薬が高額で、使いたくても使えないなんて事になったりしないよな?!
「……ランディエーヌさん、薬っていくらするんですか?」
「物によって違うよ。貴重な薬草を使えば、その薬も高くなるはのは道理さね。……ただ、ガレンの薬を心配してるんだったら、いらん世話だよ。アイツだって伊達に薬師組合の長をしてたんじゃなんからね。しっかり高給取りだったから安心しな。」
「そうですか、なら良かったです。じゃあ、今はランディエーヌさんが高給取りですね。今度、ご飯奢って下さい。」
「何で急にアンタに飯を奢る話になるんだよ!そんなにババアと飯に行きたいんなら、素直にそう言いな!」
これは……ツンか?判断に困るなぁ〜。
悟郎さん、ランディエーヌさんとご飯行くの平気?
大丈夫?そう。じゃあ、トラキオさんの所で食べたいって言ってみるね?
「じゃあ、今度一緒に行きましょう!悟郎さんもいつも一緒に食べに行くんですが、同席しても大丈夫ですか?」
「何だい本気かい?………全く、お前さんはしょうがないね!ゴローが一緒でも構わないから、いつ行くか決めたら、早目に言いなよ!アタシだって忙しいんだから、気が変わる前にさっさとするんだよ!」
………これは、早く行きたいって事だな。
じゃあ、冒険者ギルドに行って、ヒュージェさんの報告書を持って行ってるトラキオさんに聞いてみよう。
「あ、それともう1つ、こっちが本命なんですけど、偶然フォレストスクォの死体を見つけたんです。アムレントさんに調べて貰ったら、フォレストスクォは、隣国のザダイオンからある時期だけ飛来してくる種だったんです。」
「ザダイオンかい…。」
「それで、俺も調べました。そうしたら、フォレストスクォがバトヴァルの実を主食の1つとしていて、しかも毒を分解出来るのが分かりました。」
「何だって?!それは本当かい?!」
「はい。その事が分かったんで、ヒュージェさん達とフォレストスクォの討伐をして、数をある程度集めて来ました。」
「でかした!!それを早く出しな!」
エンジンが掛かったランディエーヌにせっつかれて、フォレストスクォをとりあえず2体だけ出す。
「俺の鑑定ですが、右のフォレストスクォはバトヴァルの毒が残留してません。左の個体は分解前で、まだ毒が体内に残留しています。多分、木の伐採が進んでたんで、フォレストスクォは、南の山ではバトヴァルの実を食えなかったんじゃないかと思いました。なので、毒が残留している個体が3体、分解済の個体が19体を持って来ました。」
「良くやった!!薬の調合が終わったら、飯でも何でも奢ってやるよ!!早速、調べるから全部出しておくれ!誰か!済まないがリュウレンを呼んどくれ!」
ランディエーヌがそう叫ぶと、すぐに一人の女の子が入って来た。
……チミっ子だ。ランディエーヌの孫娘か?
「はい!呼ばれました!」
「リュウレン、このフォレストスクォをすぐに調べるよ!シローの鑑定で、コイツ等がバトヴァルの毒を分解する事が出来ると分かったんだ!」
「本当ですか!シローさんの鑑定なら、まず間違いないですね!!早速調べてみます!これで、あと一歩届かなかった製薬を進める事が出来るかもしれません!ありがとうございます、シローさん!!」
「あ、いえ。製薬、頑張って下さい。」
「はい!皆さんに負けないように、頑張ります!」
元気なチミっ子がそう言ってるけど、年齢的に労基に違反して無いか?
どう見ても、まだ中学生だぞ?
「……シロー、リュウレンはとうの昔に成人してるからね!身体が小さいからって侮るんじゃないよ!」
「ランディエーヌさん!そんな昔じゃありません!」
「はい。分かりましたしたよ。外見が俺より年下に見えたんで、ランディエーヌさんに強制労働でもさせられてるんじゃないかと勘違いしましたけど。」
「不穏な事を言うんじゃないよ!ここは真っ当な薬師組合だよ!!」
真っ当で、マッドな薬師組合ですね。
良く分かりました。
しかし、とうの昔に成人してても、見た目がまだ中学生か…。
いつまでも、身分証明書を出さないと酒類を販売してもらえなそうだ。
色々な苦労が有りそうだけど、頑張れ中学生!
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