第152話 薬師組合の実験室

「……………ギルド長、コイツ大丈夫っすか?」

「知らん!薬師組合で別れるまでは大丈夫だったんだ!その後、原因の毒を確認しに行くって話しをランディエーヌさんとして、カレントが連れ帰って来たと思ったらこうなってたんだ!」


 ギルドの会議室には、室内にも係わらずマントのフードをしっかり被って、従魔のデザートキャットを胸に掻き抱き、その背に顔を埋めて押し黙っている者が一人居た。


「……カレント、シローがどうしてこうなったか何か聞いてるか?」

「あ〜……どうもコイツ、極度の虫嫌いらしくてですね、薬師組合のランディエーヌさんと確認の為に行った先で、毒の実験中だった色々な虫や小動物、その異常行動や解体作業を見てたらこうなったらしいです。」


「何だそれだけか…。シロー、余計な心配をさせるんじゃないぞ?!」

「……〜……、………!!」

「……ずっとこんな調子なんですよ。辛うじて言ったのが『ふろ』だったんで、一度、家に帰して良いですか?用が済んだら、また引き摺って来ますんで。」

「…はぁ。しょうがないな…。すまないな皆。もう少し待ってやってくれ。」

「なら、飯食って来てもいいっすか?」

「ああ。また、食い終わったらここに集合してくれ!頼むな!」


 

◇◇◇◇◇


 

「あら?兄さんお帰りなさい!………ねえ、一緒にいるのはシローさん?いったいどうしたの?大丈夫?」

「ああ。平気だ。コイツがフロに入ったらまたすぐに出るから。」


「あ!さっきミスリアさん達とお昼ごはんを一緒に作ったのよ。シローさんは召し上がらないかしら?」

「……シローは、今日は食欲が無いと思うぞ?」

「!……、……、……!!」


「…そう。残念だけど、無理は良くないわね。ご飯はまた作れば良いもの。兄さんはどうする?」

「俺は待ってる間に食っていくよ。ほら、シローは早くフロに入って来い!従魔はここに置いて行けよ!」


「それじゃあ、ゴローさんとチビちゃんも一緒にご飯食べましょうか!」

「ニャ(うん)!」

「キュキュ!」

「………………。」



◇◇◇◇◇



 地獄は本当にあるんだよ………。


 誰が言った言葉だったか?


 アイツ等ワームが湧き出てきた洞窟が、まさに地獄だとその時は思った。


 電柱みたいなサイズのアイツ等ワームが出てくりゃ、お宝が眠っていそうなイ○ディな洞窟ってよりは、地獄の1丁目と例えて言った方が、アイツ等ワームが大嫌いな俺には余程しっくり来たからな。


 俺はこれでも、異世界ピッカピカの一年生で、2020年代の日本からやって来た転校生だ。


 雨上がりのアスファルト上でのたうち回るアイツ等ミミズでさえ、飛び上がるレベルで嫌いだった。


 それは益虫だよとか、何だそれだけかよとか、いちいち大袈裟なとか、外野のクッソどうでもいい感想なんか要らねぇんだよ。


 俺個人の好き嫌いに他人が口を挟むな!


 分かったか!クソゴリラ!


 そしたらどうよ?薬師組合のあの部屋は?


 人の管理可能なサイズまでの、大小様々な投薬実験用の小動物から毒物確認用の虫類まで、ウヨウヨいやがった。


 しかも毒物確認用のヤツ等は、その毒物のせいで既にさっきランディエーヌイカれクソマッド湯○婆に聞いた異常な行動をしており、膨れ上がった腹が弾けたところで、何とか保っていた俺の我慢もぶっ飛んだ。


 騒ぎ出した俺を尻目に、中のヤツ等はそのまま作業を繰り返し、馬耳東風の様子で実験に没頭する。


 人は慣れる生き物だろうが、俺はコレには絶対に慣れねぇし、慣れるつもりもなかったんでニヤニヤして楽しそうなランディエーヌイカれクソマッド湯○婆にサッサとバトヴァルを持って来る様に言い、更に毒に冒されてた独楽鼠の様な小動物を一匹、俺の自由にさせてもらった。


 先に毒を確認し、そして独楽鼠に解毒の術を使ってみた。


 結果は、解毒出来るには出来た。ただ、あのサイズを解毒するのに7回も魔法を使い、更に回復を掛けないとないとダメだった。

 しかも、傷ついた神経の完全な回復には至らなかった。


 それには、俺の解毒の術が全く育っていない事とバトヴァルの毒性が強い事の両方が起因しているとは思う。


 回復についても同じだ。俺が主に治してたのが外傷ばかりで、メリエナさんの場合は詛呪が原因だった。


 剣兄さん達を治せたのは、ギリギリ応急レベルだったんじゃないかと思う。しかもその後すぐに治療院で更に適切な治療をしてもらったお陰で、その後問題ない復帰が出来たんだろう。


 魔法も万能な様で、実は地道な努力で育てないと使い物にならない。


 攻撃系の様に、対象が例え物でも有効判定さえすれば、育って行ってくれる魔法なら話しは簡単だった。


 だが、自分を対象に回復の術で試したが、結果は駄目だった。


 この辺もフワッとさせてくれたら良かったのに!


 たぶん同じ理由で、バトヴァルを分解出来なかった。

 こうなると、いつ来るかも分からない、いざと言う時に全く役に立たない。


 保険だったらすぐにでも、見直しが必要だろう。


 ランディエーヌイカれクソマッド湯○婆には、俺がその場でやっていた事を見せていた。


 ヤツ等だって同じ様に既に試したはずだ。


 それを見て、嗤うのを止めた時のアイツはちょっと怖かった。


 このまま解毒と回復を続けたらいつかは、きっちり治せる様になったかもしれない。


 ただ、既にバトヴァルが確認されている中で、俺の『かもしれない』に時間を掛ける事をきっとランディエーヌイカれクソマッド湯○婆は良しとはしないだろう。


 ならばもう、ここに居る理由はねぇ。予定通りギルドへ行く事を告げて直ぐ様、部屋を出て行こうと思ったら、去り際ランディエーヌイカれクソマッド湯○婆がまた俺の虫嫌いを誂ってきた。


 そうしたら、中にハラキリみたいなヤツが居て『えぇ〜?可愛いのに!』って言いやがった。…アイツも俺の敵だ。


 テメェの意味分からん可愛いで、俺の嫌いを否定するんじゃねぇ!!


 もう、それからは速攻で浄化して、悟郎さんの所へ一直線に行き、悟郎吸いをした。


 そこにカレントクソマリ子さんが来て、ギルドに引き摺って行かれた。


 コイツに繊細な労りを求めても無駄だろうが、もう少し何かあるんじゃねぇのか?クソがっ!


 しかもギルド長に至っては『何だそれだけか…』だと?!


 今度、テメェの嫌いな物を探ってたっぷりプレゼントしてやるからな!!


「……おう。どうだ?もう大丈夫か?」

「…………………何とか。」

「そんな様子じゃあ、ギルドの解体場にも入れないな。」

「そもそも、どっちも用が無ければ絶対に入りませんよ……。」


 レイニアビーの解体してたのを知ってるんだから、入る訳が無いじゃないか!


 あ!!悟郎さん!さっきは背中吸いしてごめんね!!もう落ち着いたから大丈夫!ご飯貰って食べた?


 ………そう。美味しかったの……。良かったね……。ん?俺?…俺も食いたいけどさ、今は止めておこうかな…。何となく、残念な結果を起こしそうな気がするからさ…。


「あ!シローさん!大丈夫ですか?」

「はい…。お騒がせしました。大丈夫です。」

「ミスリアさんとジェインちゃんにも手伝ってもらって、お昼ごはんを作ったんですが、食べられそうならいかがですか?」

「……あ、今日は申し訳ないけど、遠慮しておきます。また今度お願いします…。それと、悟郎さん達のご飯を用意してもらってありがとうございます。美味しかったそうです。」


 クソっ!俺もマジで食いたかった!


 それにしても、狩人さんの奥さんは、料理出来るくらいは落ち着いたって事かな?


 まあメリエナさんが一緒だからかもしれないけど。


「ミスリアさんは食べれてますか?」

「ええ、少しだけど召し上がってるわ。」

「そうですか。じゃあ、これを預けておきますので、一日一粒召し上がって貰って下さい。」

「……これ、私も療養中に頂きました。シローさんの物だったんですね…。」

「あ、あ〜はい。カレントさんにお渡ししたので、多分そうですね。」


 ヤベッ!貴重だから、おいそれと出すなって言われてたな…。


 カレントクソマリ子さんが睨んでる…。


 別に良いじゃないか!俺の持ち物をどうしようと!


「…ちょっとハウスを空ける事になりそうなんで、フェルドにこの中で仕事を頼みます。その報酬の前払いみたいなもんです。」

「そうなんですか…。」

「シロー、じゃあ行くぞ!既に相手を待たせてるんどからな!」

「はいはいはい…。行きますよ。悟郎さんはどうする?話し合いに行くだけだけど。」

「ニャフゥ(行くよ)!」


 じゃあ、ギルド行ってに山男と御対面しますか。


 薬草しか無い山っぽいから、登る事も無いとおもったんだけどな…。


 あーーーテンション上がらん!

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