第150話 薬師組合にて、バトヴァルが及ぼす影響
薬師組合が、こんなにも調薬・製薬において業が深い場所だと俺は知らなかった。
乾燥された
薬やポーションを買い求める客に対するディスプレイとして、これが適切なのかを先ずは問いたい。
そしてもし、此等が在庫品で在るならば、即刻人目に付かない然るべき場所へ収納する様に改善を求める。
更に、此等が原材料として適切であるのか、より良い代替品があるにも関わらず、安易な方法に逃げているだけではないのか?その説明を納得が行く形で開示をしてもらおう!
「おい!シロー!早く来いよ!!」
このゴリラは、俺をこんな
奥へ行けば行くほど、
様々な可能性の中で、俺の思い描く最悪の光景が、この先にある気がしてならない。
それは、どんなホラー・スプラッタな衝撃映像よりも俺に致命傷を与える威力を有しているだろう。
一歩進むごとに、破滅へカウントダウンをされている。
聴こえて来るのは俺を破壊する交響曲だ。
「待たせたな!」
以前も言ったが、ゴリラ如きがそのセリフを口にするな!!何度聞いても腹立たしい!!
「……………ボス。シローがどっか行ってますよ。」
黙れ!!
俺は未だに信じてないからな!お前とメリエナさんが兄妹だって!
どう見ても同じDNAが配されているとは思えない造形だろうが?!
それなのにヤケにしつこくシスコンムーブを繰り返し出しやがって!
「………やっと来たかい。そこに座りな。」
……………………あれ?…あれれ??うそだろ?!
おかしいな……。俺は薬師組合に来たはずだよな?
トンネルも通ってないし、橋も渡ってない。
油屋には紛れ込んでいないはずなのに!!
何でアンタがそこにいるんだ湯○婆!!
「………なんだい、そのガキは。座りなって言うのが聞こえないのかい?」
「すみませんランディエーヌさん。ほら、シロー早くそこに座れ!」
この圧!間違いない!!
思ったより顔は小さいが、やっぱり眼力とアイシャドウがパネェな!!
名前を取られたらどうしよう……。
俺は『
そんな?!一文字でしかも『し』?!
そんなことになって、万一語尾を伸ばされて呼ばれたりしたら、子供の小用みたいに聞こえるじゃないか!!!
あ!!そうだ!!『
よし!もし、名前を取られた時はそうしよう…。
しょうがないな……『
まあ、俺はジャパンから来てるし問題無いよな!
「なんだいそのガキは。さっきから黙って遠慮なく人の顔をじっとみて……。まあ、ババァが趣味ってんならしょうがないけどねぇ、ヒヒヒ匕ッ!」
ギャァー!!!何言ってんだこの湯○婆は?!俺はババ専じゃねえよ!
「……………シロー、そうだったのか?道理でギルドの受付嬢にも
「何言ってんですか?!本当に止めて下さいよ!!そんな事ある訳ないじゃないですか?!!」
ギルド長!!なんだその目は?!!
止めろよ!俺を慈愛に満ちた様な目で見るのは!!
「……そう言えば、トマ煮の店も常連だったな。」
フザケて話しを膨らませるなクソ野郎が!!
「……ニャオン(ばか)。」
「ええっ?!!悟郎さん待って!!バカッて何?!酷いよ!一体どう言う了簡よ?!!!」
「……まあ、話しが進まないから、つまらない冗談はこれ位にしようかね。じゃあ調査結果の報告と今後の対策について話し合おうか。」
おのれ!この湯○婆!!テメェがフザケた話しを振るからだろうが!!
俺に変な疑惑を付けておいて、あっさり流すんじゃねぇよクソが!!
「さて。そこのガキが南の山で討伐したダギアルバード。バトヴァルに冒されてると言う話しを受けて、こちらも個体の調査と毒物の検出をしてみたよ。」
行き成り、油屋から科捜研にステチェンしやがった…。
流石は湯○婆、力技もお手の物か……………。
「結果は残念ながらバトヴァルが出て来ちまったよ。ガキの戯言だったら良かったんだけどねぇ…。」
「……そうですか。」
「ただ、今回はまだ、アタシ等人族には症状が出てる者がいない。これは僥倖だ。これを偶然ではなく必然となる様に対策を立て、人に被害が及ばない様に尽くすのが、これからのアタシ等の勤めだね。死ぬ気で働く事になると思いな………とくにそこのガキは。」
ちょっと待てぇぃ!!何で俺だけ死ぬ気の強制労働が確定してるんだよ?!マジでフザケんな!!
「俺は協力はしますが、強制は受けませんよ。意味も分からないままの手伝いは一切しません。」
「おい!シロー!!」
「…………ヒ匕ヒッ!別にいいんだよ。アンタは最近ここに来たばかりの新参だって話しだから、こっちの事情は知らないだろうしねぇ…。」
事情もクソも知らねぇわ!
俺が知ってるのは、そのバトヴァルが神経毒だって事だけだ!
それだけで訳も分からず、強制労働ばりの手伝いが出来るかよ?!バカを言うなボケ老婆が!!
「………いいねぇ。最近、言う事聞くヤツばかりで、詰まらなかったんだよ。お前はちょっと楽しめそうだ…。ヒヒヒッ!」
………はぅ!昨日とはまた違う寒イボが全身に!!
俺で何を楽しもうって言うんだよ?!恐ろしい事を言うなクソ湯○婆!!
「……今からだと、4つも季節を戻した頃になるかねぇ…。その年は作物も果物も魔物の肉も全てが豊作で、寒い時期前の余りある収獲に、街の皆が沸いて喜んでいたんだ。」
え?やだぁ〜。年寄りの急な昔語りが始まった。
これ意味あんのか?悟郎さん、時間掛かってごめんね。お昼の時間は死守するから許してね!
「……ちゃんとお聞きよ。訳を知らないお前の為に説明してんだからね!!」
うわっ!!湯○婆の察知能力パネェな!!俺のグダ付きを瞬時に察知しやがった!!
「……その多くの収獲を喜んでいられたのも束の間だった。少しずつ、おかしな行動をする人が増えて来てね。最初は、食い物をやけに沢山食うヤツが増えた。そして今度は食うのが食べ物だけに収まらなくなった。」
認知症とかじゃないよな…?しかも1人だけでもなさそうだし……。
「子供も大人も年寄りも、男女を問わず同じ症状を発し、その人数もどんどん増えて行った。仕舞には、食ってはいけない物を食べて死ぬ者、腹が破裂するまで食って死ぬ者と、死人も増えて行った。また最悪な事に、その死んだ家族の肉まで食う者が出て来た。」
「……………。」
「アタシ等は必死にその原因を調べた。死んだ人の亡骸を埋葬もせず、原因を探る為に冒涜する様な真似もしたさ…。そしてやっと掴んだんだ。人に入った具体的な経路は不明なままだったが、狂わせた原因となったその毒物を。どこを調べても既存の情報では合致する物が無く、その時『バトヴァル』と名付けた。だからその毒物に対する治療薬も無かった。結局、その異常が終息したのは、毒物を摂取した者が全て死んでからさ。」
……怖いっっっ!!何それ!!
人がそんなになっちゃう毒なの?!
俺、超いっぱい持ってるんだけど!!!
「分かってるのは、食べ物からその毒が人に入ったこと。それだけさ。なんせ少しずつその症状が現れて来るもんで、食べた物まで遡れなかったんだよ。そこに、アンタがダギアルバードがバトヴァルに汚染されてるなんて、とんでもない情報を持ち込んで来たじゃないか。アタシ等がどんなに努力しても掴めなかった事をあっさり持って来やがって……このガキが。」
えぇ?!まさか怒ってないよね?
言い方に物凄い棘を感じるぞ?!
「……と言う訳だよ。分かったかい?だから、アンタは絶対逃さないよ。何をしても、あの悲劇は繰り返す訳には行かないからね。」
「協力はしますよ……協力はね。その協力をするに当たって、そちらも俺に対してちゃんと必要な協力を惜しまずしてくれるんだろうな?」
「勿論だよ。既に御領主様からも今回の調査については、アタシが全権委任を受けている。余程の事でない限りは、全てアタシが決裁するよ。無駄な時間は極力省き、原因の究明と解決に向けて出来得る事を全てやる。バトヴァルを根絶するのが最終目的だけど、欲を掻いて下手は打てないからね。先ずは、蔓延防止なんだが、それは既に冒険者ギルドで動いて貰ってる。南の山の立ち入り制限、ダギアルバードの販売禁止、狩猟組合への通知と狩猟した際の買取。最後に、街の住人への通知は、流石に御領主様からお振れを出してもらう。」
ギルド長は以前の被害を具体的に知っていて、その原因についても名前を聞かされていたんだな。
だが、
薬師組合の湯○婆の剣幕から察するに、俺も下手な事をしたらタダでは済まなそうだ…。
何をするにしても、名前を奪われて支配されない様に注意しないとな!
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