第149話 治療の相談

「ほら、これが今回の討伐報酬だ。」

「ありがとうございます。」


 フェルドが報酬の入った袋を見て、目を輝かせている。


 その純粋な目が眩しいよ……。


 これくらい、悟郎さんが剣兄さん所で食事をすれば、一回で溶かせる額なんだぜ!とは言わないでおこう。


「じゃあ、治療院に行ってみようか!!」

「うん!」

「ん?治療院に何で行くんだ?」


 面倒くさいが、何かいい案が出るかもしれない。

 とりあえず同じ様に説明する。


「……なら、一度メリエナに聞いてみるか?アイツは治療院で働いてたから、伝手があるかもしれないし。それに、治療のお礼を言いたいって、前から言われてたんだ。きっちり治ってからにしようって言ったのに…最近うるさくてさ…。」

「もう大丈夫なんですか?」

「ああ。あの詛呪が消えてから、どんどん治っていってる。驚きの回復の早さだよ。しかも、もう体力作りを勝手に始めてるし…。」

「無理がないなら、お願いします。」

「お願いします!!」


 フェルドも母ちゃんの為にそう俺に続いて言った。


 治りが早いのは良いことだ。まさか蟻蜜効果か?!


 流石は異世界のリポ○タンD!!肉体疲労時の栄養補給と滋養強壮に効いたんだな!!


 トラジェフ殿食いし○坊バンザイは、ギルド長と話をしていてそこで別れた。よしっ!!


 そしてギルド長に断って、早速カレントイカれクソマッドマリ子さんのメルヘンハウスへ向う。

 もし、俺のハウスがコレだったら、俺はかなり凹んだだろう外観は相変わらず健在だ。


 そして、以前治療で伺った同じ部屋のドアをカレントイカれクソマッドマリ子さんがノックする。


「はーい!起きてるわよ!!」


 前は聞けなかったとても元気な声が返って来た。

 ほんと治って良かったな……。


「メリエナ、今、治療をしてくれたシローと一緒なんだ。入っても平気か?」

「ええっ?!ウソ!ちょっと待って!お願い!まだ開けないで!!」

「…………行き成り来てしまったんで、下で待ってましょうか?」

「大丈夫じゃないか?本人もちょっと待ってって、言ってるし。」


 おい兄ちゃん。そう言うデリカシーない感じ、後で絶対に文句言われるぞ?

 まあ、俺は知らねぇけどな〜!


「………ごめんなさい。もう大丈夫よ。入って下さい!」


 カレントイカれクソマッドマリ子さんがドアを開けると、仄かに良い香りがして来た。


 ハっ?!!良く考えたら、俺、治療以外で女の人の部屋入るの初めてじゃん?!

 しかも、お見舞い兼お願いに来たのに、ウッカリ手ぶらで良かったのか??!!


 あ!!フルーツならある!野菜採取用の籠を浄化して、持ってるフルーツ乗せれば良いかな?!


 フェルドにパニクった俺の一部始終を見られたが、最初から心象を悪くするよりは出来る事はしよう。


 ツェーラ(なつめ)、リエータ(桃)、ケイラー(ワイルドベリー)、レイニア(さくらんぼ)、モンバレイノ(西洋梨)を速攻で籠に乗せ、色味が寂しかったんで、ハヤミレア(ラベンダー)を散らして入れた。


 よし!即席フルーツバスケット完成!


「……失礼します、急な訪問ですみません。冒険者のシローです。もうお加減は大丈夫ですか?これ、良かったらお見舞いで…す。」

「あなたが、私の治療をしてくれたんですね!ずっとお礼を言いたかったの!本当にありがとう!!お陰ですっかり元気になりました!」


 にこやかに出迎えてくれたのは、治療した時に見た風貌から、すっかり健康的に戻った少し青みがかった黒髪の綺麗な人だった。


「(シローさん、綺麗な人だね!)」

「(うるせえ!見れば分かるわ!!)」


 フェルドと二人でコショコショ話してると、カレントイカれクソマッドマリ子さんが椅子を持ってきた。


「シロー。この椅子使え。そっちのフェルドも。」

「「ありがとうございます。」」


 どうしよう…悟郎さん!何で今日はいないのさ!!


「兄さん、お見舞いの品を頂いたわ!ハヤミレアがとっても良い香り!それに、こんなに色々なフルーツもたくさん!お礼をしたかったのは私の方なのに!!」

「ん?お前いつの間にそんな物用意したんだよ?!」

「……まあ、色々持ってたので……。」

「全く……。変な気は使うなよ。それより、聞きたい事があったんだろ?」


 そうだ!フェルドの母ちゃんを診てくれる人を紹介してもらわなきゃだ!




◇◇◇◇◇




「…………そう。それは、ゆっくりと養生して治さなければね…。急がしてはだめだわ。」

「なので、少なくともその件が付くまで、泊まりで見て下さる方をご紹介頂けると助かります。」


 メリエナさんが真剣に考え込んで、暫らく黙った。


 おい!ごら!カレントイカれクソマッドマリ子さん!!メリエナさんに渡したフルーツをテメェが摘まみ食いすんじゃねぇよ!!


「出来れば、その方の様子を一度見せて欲しいけれど…。」

「おい、メリエナ!まだ出歩くなんて無茶だ!絶対にダメだからな!!」

「……兄さん。本当にいい加減、過保護過ぎるわ。この通り家の中でしっかり動き回ってるんだから、もう大丈夫よ!!」

「ダメだ!お前だってセダンガの連中からちょっかい出される可能性があるんだぞ!外を彷徨いて、標的にされたらどうすんだ!!」


 それは十分あり得る…。アイツ等さっさと裁かれれば良いのに、無駄に悪足掻きしそうだもんな!


「……ねえシローさん。孤児院で出したみたいに、ここの庭であの家を置けないかな?」

「え?ここの庭で?………ん〜〜。ギリギリぐらいだから、やってみないと分からないな…。」

「僕もお母さんの様子を見たいし、試してくれませんか?」


 フェルドにそう言われ、しばし悩む。


 その場合、カレントイカれクソマッドマリ子さんも含めて一緒に来てもらえば良いか?


「あの、ひとつ試したい事があるんで、庭先を借りてもいいですか?」

「庭?壊さなきゃ別にいいぞ。だが何をするんだ?」

「先にカレントイカれクソマッドマリ子さんさんだけ、一緒に来て下さい。これは見て貰わないと説明し辛いんで。」


 3人で一緒に庭へ出る。……あ、大丈夫だ。これなら出せるぞ!


 何とか広さが足りた様でハウスを出すことが出来た。

 すると、フェルドがすぐに入って行ってしまい、それを見て目を丸くするカレントイカれクソマッドマリ子さんに詳しく説明する事に。


「……おい。フェルドはどこへ行ったんだ?」

「ここに俺の家を出しました。これもダンジョン品です。許可無い者は一切通る事が出来ない様になっていて、フェルドの母ちゃんを保護した時にフェルドには出入の許可を先にしてたんです。」


 カレントイカれクソマッドマリ子さんが一通りグルグル回りを確認して、門を触り試している。


 傍から見ると、手品のタネが無いかを確認してるみたいだよな!


「……シローさん!見て来たけど、お母さんとジェインまだ寝てた!」

「そうか、良かったよ。ジェインなんか急に孤児院から場所が変わって驚くだろうからな。」

「………フェルド、お前中に入って来たのか?」

「うん!そうだよ!カレントさんも入って見た方がきっといいよ?シローさんの家、凄いんだから!」


 呆けた感じのカレントイカれクソマッドマリ子さんに出入の許可を出す。


カレントイカれクソマッドマリ子さんさんも入れる様にしましたよ。さあ、中へどうぞ。」

「……マジか!さっきはダメだったのに今度は通れる!」


 そのままハウスへ入って行く。


 悟郎さんも出て来て肩に乗ってくれた。

 うう。安心の重量感!やっぱり悟郎さんの不在が結構辛かった!


「……………何だよこれは。畑に砂漠まである…。」

「俺の家です。砂漠は悟郎さん専用です。」

「あの記録道具も凄かったが、これはそれ以上じゃないか?!見た事無い物が沢山ある!!」


 どうだ?逆異世界体験。なかなか出来ないぞ?


「……ここならメリエナを確認に越させてもいい。」

「ありがとうございます。じゃあ、お待ちになってると思うので行きましょうか?」


 フェルドにはそのままハウスで待機してもらって、二人でメリエナさんを向かえに行く。


「……兄さん!どうだった?出ても大丈夫そう?」

「ああ。あそこなら大丈夫だ。ただ、お前もきっと見たら驚くぞ?」

「本当?!早く行きましょう!患者さんの様子が気になるわ!」

「今は寝てるらしいから、詳しくは見れないと思うぞ?」

「大丈夫よ、それでもいいわ!」


 カレントイカれクソマッドマリ子さんのメルヘンハウスから2〜3歩先にハウスの入口があるんで、正にドア トゥ ドアの好立地!


 そしてメリエナさんの出入許可を出して、一緒にハウスの中へと進む。


「………兄さんの言う通りね。本当に凄いわ!」

「そうだろ?あ、そこのドアだ。」

「分かったわ。」


 メリエナさんが軽くドアをノックすると、中からフェルドが顔を出して来た。


「あ。良かった……。中に入って下さい。さっさジェインが起きたんだ。お母さんはまだ寝てます。」

「失礼しますね。……………良かったわ、ぐっすりと寝てますね。それにハヤミレアを飾ってあげているのね。………うん。落ち着いてらっしゃるわ。今はこのまま起きるまでお休みさせて上げて。さあ、部屋の外に出ましょう。」


 メリエナさんに狩人の奥さんを確認してもらい、みんなでリビングへ移動する。


 その間、ジェインとメリエナさんは終始辺りを珍しそうにキョロキョロと見て回っていた。


「お兄ちゃん!ここどこ?!見たことないのがいっぱいあるよ!!」

「凄いだろ?シローさんの家だよ!ジェインは寝てたから、そのまま連れて来て貰ったんだ!」

「うわぁーー!お外の砂で遊んでもいいのかなぁ?」

「ゴローさんの巣穴は近付いちゃダメだ!あと、水を撒くのもダメなんだ………出てすぐの場所は遊んでも平気?」

「ニャウニャ(平気)!」

「二人共、悟郎さんがそこなら遊んでも平気だって。」

「「やったー!!」」


 俺はこの時、めちゃくちゃ後悔した……。


 やっぱり、ちゃんとしたカップとお茶を買って置くんだった!!


 既にソファーに座ってる人に出すのに、今からダッシュで買いに出る訳もいかず、恥ずかしながらノビタケで作ったコップに俺特製のスエルサ(笹)茶を注いで出した。


 ううっ。俺の原始人!!


 ワイルドだろ〜?と聞いてもネタにならない相手なのに!


「ありがとう!……わぁ!スエルサの香りだわ!」

「おう、すまないな。……ふーん。スエルサってお茶に出来るんだな。お前、ゼル持ってるんだからちゃんとしたお茶を買えよ。」

「あら、兄さん知らないの?スエルサのお茶は、薬師組合でも身体に良いから作って販売してるのよ?香りを楽しむだけの物よりいいお茶よ?」

「そうなのか?お前、ホントに食える物は何でも見逃さないんだな……。」


 クソぉ!!!カレントイカれクソマッドマリ子さんめ!!!後で覚えてろよ!!!


「……それでね、あの方の事なんだけど、良かったら私が看病するわ!」

「はぁ?!お前何を言ってるんだ!まだ職場にも復帰してないのにそんなの許せるか!!」

「だからよ。家からすぐ出て看病出来るし、あの方の様子だと悪くなる前に原因からも離れられてる。お子さん達と一緒に見守って、ゆっくり様子を見るわ。だから兄さんがダメと言っても私はやります!よろしくね、シローさん!」

「……え?あ、はい。よろしく…お願いします。」


 その後も、カレントイカれクソマッドマリ子さんが何かギャーギャー言ってたけど、俺はあんまり聞こえなかった。


「ニャッニャゥ(やったー)!!」


 そして、何でか悟郎さんが喜んでいた。

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