第114話 治療の依頼


「ねぇ!私の扱いが雑なんだけど?!何でよ!!」

「………そうですね…。実際にお会いしてから余り経過していませんが、お話しを何度か重ねた結果、それで良いかな?と思いまして。」

「だ・か・ら!何でそう思ったかを聞いてるの!」

「……雑で。」

「はぁ?!」

「人の気持ちに疎くて。」

「なんですって!!」

「自分本位な発言を重ねても、自覚なく、同じ事を繰り返す人なんだなぁと、思ったからです。俺もそれに合わせる事にしました。以上です。」

「………………。」


 ハラキリが、口をあんぐり開けて、間抜け面をしている。同じメンバーの二人はアチャ~的なポーズだ。


 何でほぼ初対面の俺がいちいちこんな説明をしなきゃならんのよ?

 ハラキリみたいなヤツは、フォローするよりサッサと改善させろよ。


「あ、あ、あ……。」

 ??ハラキリが壊れたか?


「アンタに言われたくは無いわよ!!」

「そうでしょうね。敢て貴方と同じ様にしてましたから。」

「……ロ、ロレンド?そんな事無いわよね?!」

「シズナエル。」

「な、なに?」

「俺達3人は、子供の頃からの付き合いで、冒険者になってからも一緒に苦楽を共にして今に至るよな。」

「そうよ。」

「そんな中で、自然と役回りの様なものが決まって行った。俺は交渉事や必要な物の調達と管理、トラキオは解体に食事の用意や宿屋の手配。」

「そうね!」

「お前は、俺達が動いている間いつも何をしている?」


 おう……。聞いてるとなんか切なくなって来たぞ。

 武器類のメンテはそれぞれだろうし、ギルドへは全員で行ってるだろ?ホントにコイツ何をしてんだ?


「か、買い物に行ってるわ!」

「自分で必要になった分の買い物だろ?」

「………!」

「実はな、お前のお袋さんに言われたんだ。『嫁にもらう気がないなら、これ以上甘やかしてくれるな!』ってな。」

「……そ、そんな事を…お母さんが?」

「そうだ。だからトラキオと話してな、これからはお互い、なあなあにせずキッチリと決めてやって行こうとな。」


 わちゃー。これは、暗に嫁にもらう気は無いとも言ってるが気付いてないんだろうな……。


 なんか聞いてると、紅一点で家でも外でも当たり前の様に甘やかされた結果、この今のハラキリが出来上がったのかな?


「もちろん、得手不得手があるのは十分承知してる。俺だって、解体や調理はトラキオに敵わない。だが、だからやらないと言う選択は無い。シズナエルにも、これからはその姿勢を持って欲しいと思ってる。」

「…………。」


 何か、3人で話し纏めてから改めて声を掛けてくれねぇかな…?


 ギルド長へ視線を向けると、だいぶシブい顔をしており俺と目が合うと肩を竦めた。

 知らなかったのね…。まあトラブルにならなきゃ、外野には知る由もないか。


「シローがとった態度もどうかと思うが、それをさせたのは、シズナエルの言葉があったからの事だ。食事の席でも、お前が言った言葉の後に、トラキオが言ってただろう?『シズナエル、そうじゃない』って。」

「………。」


 もう、ハラキリ茫然自失状態じゃないの。

 自覚なくてもショックは受けるのな?


「………俺、もう帰って良いですよね?」

「……はぁ…しょうがないな。ただ、さっき言った一般常識の件は、なにかしらの形で、ちゃんとやるからな!」

「分かりました!よろしくお願い致します!」


 やったー!!やっと帰れる!!

 悟郎さんは変わらずグッスリだし、早く帰ってベッドに寝てもらおう。

 そうしないと、俺の首に扼殺痕やくさつこんみたいな跡が出来ちまうぞ!!


 応接室を出て、アイツイカれクソマッド売却担当のところへ精算金を貰いに行く。


 俺、ちょっとした小金持ちになって来たのに、倹約センサーのせいであまり使い道がないんだよな…。

 いっその事、現物支給で米とか油とか何か食いもんで交換してくれないか、次は試しに聞いてみるか!


 カウンターに行くと、いつものヌボーより、更にボーっとしたアイツイカれクソマッド売却担当が座っていた。


「精算をお願いします。」


 俺がそう声を掛けると、ハッとして顔を上げた。


「お、おう。これがギルド長から預かった精算金だ。確認してくれ。」

「……?ありがとうございます。……………確かに。受け取りはこれでいいですか?」

「ああ…。」


 そうして俺が精算金の確認をしている間も、口を開き掛け何かを言い淀んでいる。


 なんだ?らしくねぇな…。


「どうかされましたか?」

「……さっき、もう断ってたのを聞いたから頼み難いんだが……。少しでいいからレイニアビーの蜜を分けて貰えないか?対価は言い値で構わない。」

「………何故かを聞いても?」

「……妹の好物なんだ。それなら…食えるかもと思ってな。」


 ん?食いたいじゃなくて、食えるかもってどう言う事?

 俺の疑問を感じたのか、アイツイカれクソマッド売却担当が説明をして来た。


「……病で寝込んでんだ。食うのも難しいが、好きだった物ならもしかしてと思ってな。」


 病…?………まさか、治療魔法では怪我しか治せないのか?!

 あの酷い怪我を治せたせいか、勝手に魔法万能説が俺の中に出来上がっていた。

 それが崩されて衝撃から言葉を失くしてしまった。


「……普通は、病も治療魔法で治せるぞ。」

「あ………そうですか。差し支えなければ治せないのはどう言う場合なのかを知りたいんですが。」


 俺がそう聞くと、アイツイカれクソマッド売却担当はまた顔を伏せて少し間を空けてからポツリと話した。


「………本人が治療を拒否してる時だ。」

「………え……?」


 なんで?!病気なんて苦しいだけだろ?!

 それの治療を拒否るとか意味分かんねぇんだけど!


「治療を拒否している理由は、聞いても本人が答えてくれず不明だ…。だから、ここにはアイツに治療魔法を掛けてくれる治療師がもういない……。」


 コイツイカれクソマッド売却担当も知らないのでは、これ以上は聞いても分からないよな…。

 治療の拒否って、もしメンタル系の問題なら確かに治らなそうではあるしな…。


「………こんな話しをしたのに難しいと思うが、厚かましいのは承知の上で頼みたい。妹に治療魔法を掛けてやってくれないか?勿論、きちんと報酬を支払うから。」

「……拒否してる相手に掛けも治療効果は望めるんですか?」

「………多少はな。それでも、何もせずに放って置く事は俺が出来ない。あいつが望んでない事を分かっていても治療を頼むのは俺の勝手だ。……だから無理なら断ってくれ。」

「……。別に良いですよ。俺は気にしませんから。」


 魔法の効果を本人が選べるなら、治療魔法を掛ける事は別に構わない。

 ただ、治せるものを拒否る意味は、俺には理解出来ないことだな。

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