第62話 パンって、つい買い過ぎちゃうよね?

「ごめんくださ〜い。」


 俺、超恐る恐る家の中に入る。不法侵入とかではないからな?!客だぞ!!


「はい!いらっしゃい!あら、始めてのお客さんね!可愛い子を連れて、一緒にパンを買いに来てくれたの?」


 俺の第一印象が爆上がりしました。おかみさん!流石!分かってらっしゃる!

 それに、お兄さんへ遺伝子を継承された方だと、一目で分かるお顔の造形です。激似だよ!


「はい!さっきサンドを食べた時に教えて頂きました。ご実家でパンを作られているので、良かったらと。」

「あらあら。あの子も少しは営業が出来る様になったって事かしら?パンはそこにあるから好きなのを選んで持って来てね。お会計はここよ!」

「はい!」


 ヤッター!種類も色々あるぞ!プレーンなバゲットから惣菜パン、甘そうなパンも!

 前の俺の主食はパンの耳だったけど、異世界は食パンが見当たらないし、あっても態々パンの耳を取る様な事はしないだろうなぁ。変な文化だったかもしれないけど、俺はお陰で助かったからなー。


「悟郎さん美味しそうだね!どれ食べたい?」

「ニャッゥニャォ(お肉全部)!」

「さっきもそう言ってたよ?じゃあ、お肉が乗ったやつ以外は俺が選んでいい?」

「ニャ(うん)!」


 好きなのを選べるって素晴らしい。俺、異世界では食い物の我慢はしない事にした。

 しかも自分で狩猟が出来る!肉も魚も野草の採取も!こうして、作って売られてる物を買う時に、メチャ買いしない様にだけは注意しよう。


 あぁ、でもこのバゲットはさっき鍋買いさせて貰ったおばあさんのトマ煮と絶対合うよね?!

 腐らないから、パンもいっぱい買いたいけど…。だってパンって自分で作るの大変だよな。この店で作られたのだって、機械とかねぇって事は、全部が手作業とかマジ重労働じゃね?


 辺境の街に暫らくいるとして、毎日少しづつ余分に買って予備を溜めていく!この方法で集めるか!

 何とか爆買いの衝動を抑え、まずは小ぶりなパンから〜!


 豆が入ったパン、お肉が乗ったパン、フルーツジャムみたいのが練り込んであるパン、それにバゲット!

 どれも出来立てで、スゲー美味そう!もう匂いが暴力的!これに抗うにのは無理!食うしか方法はないぞ!


「沢山買ってくれてありがとう!全部で2480ゼルよ!ところで……どうやって持って帰るの?」

「この籠に入れて、後は収納します!」

「あら〜、便利な物を持っていたのね!なら大丈夫だわね!」


 俺は、野草採取用に蔦で編んで作った籠にパンを入れて収納した。収納持ってる人が多かったんで、気兼ねなく使いまくってますよ!


 そして、パンを買い終え外に出る。………駄目た!我慢出来ない!1個だけでも今すぐ食うぞ!


「悟郎さん。パン食べたいから出していい?悟郎さんも肉が乗ったパン食べれるよね?」

「ニャ、ニャッム(うん、食べる)!」


 俺はジャムが練り込んであるパン、悟郎さんには肉とイモっぽいのを炒めてパンに乗せて焼かれた物を出して一緒に食べた。


 俺が食った方は、甘酸っぱいフルーツの旨味がしっかりあり、パン自体にも少し甘みを加えてある様で、生地にもしっとりとした甘さが感じられた。


 悟郎さんも美味いのか、先に具をみんな食っちゃってパンをあとから食べてる。……しょうがない。おばあさんのトマ煮の具を追加乗せしてあげるか。

 これがまた、煮汁の染みたパンの美味そうなこと…。俺もハウスに戻ったら絶対食う!


「悟郎さん、これ甘いパン。俺が食ったやつだけど試してみて。」

「ニャ(うん)!」


 ちぎって残しておいたジャムパンを悟郎さんに渡す。どうやらお気に召したらしく、もっと!と、俺の頭をポフポフしてくる。

 そう言えば、悟郎さん蟻蜜も好きだったな…。


「悟郎さん。甘いパンはハウスに帰ってから食べない?そうしたら、甘いパンに更に蟻蜜かけてあげられるよ。」

「ニャ、ニャゥニャッ(うん、かけてから食べる)!」


 よし!ではサンドのお兄さんにお礼を言ってから、また屋台巡るか!住宅街から屋台通りに戻って、サンド屋さんに行く。


「あ!さっきのお客さん!どう、辿り着けた?」

「はい!教えて貰えなかったら無理でしたが、なんとか行けました!買った後我慢出来なくて、早々に1つずつ食べちゃいましたよ。教えて頂きありがとうございました!」

「とんでもない!気に入ってくれたら、また買いに来てよ!」

「はい!行きます!(きっと、日参します!)」


 パン屋のお兄さんにお礼を伝え、また屋台通りを歩きだす。悟郎センサー、サーチ中!


「おい!待てよ!」


 何か聞こえた?幻聴?やだー、無視無視!俺達忙しいのよ。


「もう!待てって行ってるだろ!聞こえてんのに無視するな!」

「………何の御用でしょうか?こちらの用向きはもうございませんが?」

「……お前ぇ。拗ね継続中かよ!」


 この、イカれクソマッド売却担当め!街中にその血塗れエプロンのまま出て来るなんて正気の沙汰じゃねーぞ!異世界でもTPO守れやクソが!


「はぁ、いいからギルドに戻ってくれ。まだ精算してねぇだろ?」

「では、後ほど伺わせて頂きます。」

「………今来れるだろうが?」

「私、田舎から出て来たばかりで、やっとこの街に到着したんです。先ほどムカッ腹の立つ出来事があったせいか、酷く腹が減りまして……。せめて空腹を満たしてからでないと、とてもとても他の御用で何かをする気は起きません。ご希望に添えず、誠に申し訳ないのですが、今すぐのお呼び出しは御辞退させて頂きたく、お願い申し上げます。」

「………お前。丁寧に言い直してるだけじゃねえか!ああ!もう分かったよ!食ったら必ず来いよな!絶対だからな!!」


 去り際に人を指差すのはどうかと思うぞ?イカれクソマッド売却担当よ!


 さあ、憂いが去った!

 悟郎センサーにも、新たな反応があったのでれっつごーだ!


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