第60話 馬妄想とボスゴリラ

 俺の考えとしては、やっぱり馬屋に入れるってのはちょっと違うんだよな…。

 好きな時に運動出来て、草食って、必要なら馬屋で休んで、俺達の所にも行き来が自由。ハウス内ではこれが理想だな……。

 実物の馬を見たせいか、妄想モードが炸裂して来た。


「悟郎さん……。」

「ニッャ(なに)?」

「もし、新たな仲間として馬が来たら仲良くしてくれるか?」

「ニャゥニャア(わかんないよ)。」

「……そうだよな。来るかも分かんねーのに。変な事聞いてごめんね。」

「ニャ(うん)。」


 気を付けろ!!まだ俺の脳内にしか馬は居ないんだ!それをリアルで悟郎さんに聞いてどうする!

 キョトンとした顔をされたじゃないか!!その顔も可愛いが、違うぞ俺!!


 ダラダラ妄想していると、マッド売却担当さんが何やらこっち来いとハンドサインを出していた。


「……何ですか?俺、少し立て込んでいて…。」

「何にだよ!いいから来い!」


 あれ?早くも、俺の扱いが雑な件について。俺だって多感なティーンネイジャーだぞ!

 ガラス製の部分もあんだから扱い気をつけろや!


「そこに座ってちょっと待ってろよ。」

「あのー。俺達、早く屋台に……。」

「待・っ・て・ろ・よ!」


 ええ〜〜〜?凄えスタッカート入れられたんだが?何なん?俺、やっぱり神殺しとか言われちゃうのか?

悟郎さんごめんね。燻製食べて待ってて。


 不法な取り調べには、断固として応じないからな!弁護士呼べや!弁護士を!


 マッド売却担当がいなくなり、また暫らく待たされた。……茶ぐらいだせよ!気が利かねぇな!


 俺がブツクサ文句を言ってると、やっとマッド売却担当が戻って来た。もう一人、やたらガタイのいいゴリラを連れて。


「…………待たせたな。」


 ………おい!ゴルァ!そこのゴリラ!!今のは聞き捨てならねーぞ!!

 そのセリフを言っていいのは、テメェじゃねえ!!気安く使ってんじゃねーよ!!


「………カレント?こいつ何か怒ってねぇか?」

「……はぁ。知りませんよ。おい!屋台に行くのが遅くなるぞ!戻って来い!」


 クソぅ!マッド売却担当のくせに!


「……すみません。俺にとって伝説レジェンドクラスの方が使われた言葉が聞こえて来たもんで……。何かの聞き間違いかと、我が耳を疑ってました。」


 俺の素直な感想だ。俺だって畏れ多くてまだ言った事ないんだぞ!


「ちょっと変わったヤツなんですよ。すいません、ボス。」

「!!!!!」

「………カレント?また怒り出してんぞ?こいつ。」


 大丈夫だ……落ち着け……俺。まだ『ザ』も『ビッグ』も付いてない。ただのボスなら西部の警察署にもいたたろ?……そうだ!ボスゴリラだ!これならしっくり来るぞ!!


「……大丈夫です。ちょっとばかり、俺の倫理委員案件に抵触していたもんで……。もう平気です。」

「本当に大丈夫か?こいつ…。」

「……多分。」


 テメェ!このマッド売却担当が!失礼にも程があんだろが!そこは否定する所だぞ!!


「……まぁいい。サッサと始めるか。まず、フォレストジャイアントボアの討伐をお前がしたので間違いないな?」

「そうですが?」

「正直、1人で倒せ……「1人じゃありません!」……分かったよ。その従魔とお前だけで倒せる魔物じゃないんだ。俺達の認識では。…ただ、お前等の実力も知らずに疑って掛かることも出来ないし、するつもりも無い。そこで、手間を取らすが、お前等の腕を見せてはくれないか?」

「えぇー?!面倒くさ……「いいからやれ!」……分かりましたよ。何すればいいんですか?」


 この雑な扱いはなんだ?!このクソマッド売却担当め!お前と俺は、ついさっき会ったばかりのほぼ初対面だぞ!!何を勝手知ったる感じで、あしらってくれてんだよ!!


「……ギルドの訓練場にうちの腕利きを待たせてある。そこで手合わせしてみてくれ。」

「……分かりゃした。」


 俺はへそを曲げた!あれだけ証拠の品々を出してやったんだ!それを一々疑われちゃ、やってらんねーよ!


「おい。」

「………。」

「おい!拗ねるな!」

「……拗ねてませんが?」

「拗ねてんじゃねーか!!」


 クソマッド売却担当め…。面倒事にしやがって。これならヘソクリ金貨を使った方がマシだった!


「………はあ。お前が何処の誰かは知らねえが、フォレストジャイアントボアが出現した場合、ギルドに所属している全員と街の守備隊が一丸となって討伐する。ヤツはそんな魔物だ。それを1人と従魔一匹で倒したと言われても誰も信じない。だが、お前は肉以外の証拠を全て持っていた。でなければ嘘つき野郎とされて門前払いだ。この手合せ無くして、討伐報酬を出す事は出来ない。今回の手合せは今後の手続きを簡略化出来る為の試験だとでも思って受けて来い!!」


 えぇーーーー?まさか、こんな事が度々あるとかマジあり得ないんだけど?!簡略化?簡単にはするけど無くならないって、もうそれだけで俺の今後の動向に影響出まくりっす!

 ……デカいの倒すの止めようかな。でも肉は欲しいんだよな。………あぁ!提出しなきゃいいんだ!

 ギルドに出さなきゃ煩わしい事も無いよな?!よーし!それで行こー!


「………おい。何か良からぬ事を考えてねぇだろうな?ギルドの会員には、討伐した際の報告義務が課されているからな?!分かってるよな?!」

「………………。」

「黙るな!何とか言えよ!」

「…………………………ナントカ。」

「ふざけてる場合じゃねぇんだぞ!この野郎!」


 クソマッド売却担当と言い合ってたら、その訓練場とかに着いちまった。

そこには、腰に手をあてて木刀を肩叩き代わりにトントンしてるイケオジがいた。


 ……………なんだろう?突然、頭に『滅びろ!』とか『もげろ!』とか、不穏なワードか浮かんで来た。やだ、怖い!!!


「………おぅ!お前か?フォレストジャイアントボアを単独討伐したって言ってるヤツは?」


 黙れや!!野郎のイケボなんか耳が腐るわ!!


「……へい。そうでやんす。」

「………カレント。こいつ大丈夫か?」

「拗ねてるだけなんで始めて下さい。」


 ………此奴………。覚えておれよ!!


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