第57話 マッドな売却担当

 俺と悟郎さんは、途中まで乗せて貰った馬車から降りて検問待ちの最中だ。

 御者さんと冒険者は元々この街の住人らしく、フォレストウルフの集団に襲われた事と、重傷を負っている事を説明すると直ぐに街の中へ消えて行った。

 ちゃんとした治療師や病院的なとこへ行けば、実は直ぐにケロッと治して貰えたりしてな!


 その辺の知識が無かったんで、可能なら実際どうなのかを知りたかった。俺だっていつ同じ目に合うかも知れないんだし。


「次の者!」


 あ、順番が来た。悟郎さん…。せめて検問の時くらいムシャッするの止めない?え?止められない?

 そうか…。止めないんじゃなくて、止められないならしょうがないね。かっぱえび○んと同じだもんね。


「身分証明をこれに乗せてくれ。知っていると思うが、従魔のした事については全て主人の責任となる。街に入っても………何を食わせているんだ?」

「俺の作った燻製です。良かったらお一つどうぞ。とてもいい子なんでこちらから諍いを起すことはありませんよ(向こうから来たらその限りではありませんけどね……俺が)。」

「お、悪いな頂くよ!それとドエル達を助けてくれたらしいな。俺からも礼を。この街の住人を助けてくれてありがとうな!」

「いえ。たまたま居合わせたから手を貸せただけなんで。ところで、街で治療出来る場所では失血した分を補えたりするんですか?」

「いや。流石に無理だな。……あいつらそんなに失血していたのか?」

「……はい、かなり。」

「……そうか。後で見舞いに行ってみるよ。さあ、審査は特に問題なしだ。改めてようこそ!辺境の街ラクシェルへ!」


 俺と悟郎さんの来た2つ目の街『辺境の街 ラクシェル』。


 やっぱり、深い森に囲まれているだけあるな!自分で辺境ですって、明言しちゃう潔さがいいと思います!しかし、街の中は打って変わってとても発展しているぞ。


 右も左も分からないので、とりあえずはギルドを目指す。売るものが溜まってるからな〜。

 ギルドに入ると、受付前には既に何人か並んでいて暫らく待ちそうだ。出来るだけ人の少くない列を選んで並ぶ。


「売却したい素材があるんですが。」

「……カードを。」


 受付カウンターで要件を伝えると、最低限の返答が来た。ギルドカードを提示する。シンプルでよろしい!俺もそれで行くぜ!


「売却希望で。毛皮を。」

「……3番カウンターへ。」

「りょ!」


 あ、短すぎたか?…まあいいや。3番カウンターには誰もおらず、カウンター上に呼び出しベルが置いてあった。


 売りたい物を出してベルを鳴らすと、暫らくして出て来たのは、血塗れエプロンを掛けた顔色の悪い痩せた男だった。

 継ぎ接ぎの生物でも造っていそうな、マッドな雰囲気が漂っている………。


「初めて見るな……。売りたい物はコレか?」

「そうです。」

「………………上手く剥いでるな。売るのは皮だけか?肉は無いのか?」

「肉は食ってるんで。」

「そうか……。久しぶりにベア肉を食いたかったんだが…。食った後か…。残念だ………。」


 覇気は全くないが、欠食か?それとも貧血か?

とりあえず、今の所高評価を頂いてる、俺謹製の燻製を一つ出す。


「ベア肉ならこの燻製で最後なんで。良かったらどうぞ。」

「……いいのか?俺の大好物なんだ…。ベア肉。」


 マッド売却担当は、受け取った熊肉燻製を口にしなからも毛化の検品を続けていた。


「いまゼルを持ってくる。…少し待ってろ。」

「はい。」


 個性的な職員のいるギルドだな。中々おもしろいぞ!そして、すぐ戻って来たマッド売却担当。仕事早いね!


「内訳は、ラビットが500ゼル✕12羽、ウルフが1000ゼル✕5匹、ベアが1800ゼル。合計12,800ゼルだ。」

「それで結構です。」

「なら、サインをここへ。」


 内容を見てサインをする。ベアの買い取り額が高かったな。ラビットは、前の街の方が100ゼル高かったぞ。○○〜って表記だったし、多少は前後するか。


「はい。ありがとうございました。」

「ああ…。それより、今度ベアを狩ったら肉も売ってくれ…。」

「分かりました。狩れたら売りに来ますよ。」

「……頼む。この燻製も美味いが、やはり生肉がいいんだ。」

「……生。」


 食って平気なのか?!俺は、絶対に火を通した方が好きなんで、食の好みは合わなそうだ。

 売れる物を売って、ここでの用事が済んだ。次は買い物だな。そして買い食いだ!!


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