第56話 入場待ちでの出会いと治療

 辺鄙な場所だからだと思うが、入場待ちの列に馬車が多く、並んでいたら後ろからも馬車が………。

 すると、背後の馬車から声を掛けられた。


「おーい。そこの従魔を肩に乗せてる人!徒歩だと危ないから御者台で良ければ乗ってけよ!」

「……あぁ。いいんですか?ありがとうございます。」


 せっかく声を掛けてもらったんで、初馬車を無料体験しますか!振り向いてそう返事を返した。

 改めて見たその馬車は、車体もボロボロで、引いていた馬も御者も少し傷を負ってる様に見えた。


「………あの、何かあったんですか?」

「……あぁ。途中でフォレストウルフの群れに襲われてな……。護衛を頼んでた冒険者がなんとか守ってくれたんだが………大分やられたよ。」

「その冒険者は?」

「……命はあるんだが怪我が酷くてな。今は、後ろに乗ってもらってる。街まであと少しだから保ってくれると良いんだが…。」

「……………………。」


 これは回復チャーンス!じゃね?実は、自分が余り怪我をしない為、使う機会が少なかったんだよ。どの程度効くか分かんねーが、やらしてもらおうほととぎす。


 まずは、ここまで頑張って馬車を引いた馬に回復を掛けてみる。


「回復の術」


 少し馬の首に触れ魔法を唱える。フワッと光り、馬の負っていた傷が癒えた。

 すると、馬がヒンッと鳴き、俺に顔をドンッと寄せて来た。うおっ!!テメェ………可愛いじゃないか!よーーしよしよし!


「っああ!!まさか回復の魔法が使えるんですか?!お願いします!!対価は払います!後ろに乗ってる冒険者にも掛けて頂けませんか?!!」

「…………分かった。」


 やった!練習させてもらえる上にお支払いまで頂けるんですか?これ、医療資格とかは要らんよな?ここだけの話ってことでお願いしますよ…。俺、無資格の闇医者なんで…………ぷぷっ。


 まずは、御者台に乗り御者に回復魔法を掛ける。傷が癒えた御者が驚き、目を見開いた。

 あーー…、荷台の方からスゲー血の匂いがすんな。まだ燻製をムシャッってる悟郎さんを御者台に下し、そこで待つ様に声を掛けてから荷台の方へ入っていく。


「……………。こりゃ酷えわ。」

「………誰だ……お前は……?」

「あーーー。御者さんに言われて来た、回復師?です?」

「!!!本当か?!頼む!そこのシズナエルからやってくれ!一番酷い傷を負ってるんだ!!」


 そう言われて、積荷の隙間に寝かされた人物を見た。わぁ……。確かに酷いね……特に腹。出ちゃいけないもんがはみ出してますが?

 ……これさ、俺の回復で直せるレベルなんか?


「……これだけ酷いと助けられるか難しいかもしれんが、それでもいいか?」

「分かってる!それでもいい!頼むやってくれ!!」


 しょーがねーか。傷の深さと多さからして一回では治んねーだろうな。あと、中身が出ちゃってるから浄化も併せて掛けるか……。


「清浄の術、回復の術。」


 魔法コンボを唱え、様子を見る。よし!はみ出し注意は治ったな。次は足か……。そこに見えた足は、ウルフの噛み跡が無数にあり一部は肉が抉れていた。これもう、ウルフに美味しく食われ掛けてんだろ?!


「清浄の術、回復の術。」


 同じ様に浄化もする。ヤツ等の唾液とか、どう考えても人体とは混ぜるな危険だろからな。最後に全体を回復っと。


 一番ヤバそうなヤツの呼吸が落ち着いて来たんで、次は意識なく座っている男の方へ行った。

 こいつも足が酷え……。剣を持っていたであろう側の腕はかろうじて無事だが、もう片方は深い傷からの出血で服を染めていた。


「清浄の術、回復の術。」


 術を同じ様に2度唱える。血塗れ過ぎてよくは見え無いが、これで良しとする。俺、造血は出来ねーし。血が足りると良いんだがな。


「……この二人には俺の出来る回復魔法を掛けた。出血が酷かったから、後は本人次第だと思うよ。街に着いたら再度治療師に見せてやってくれ。」

「ああっ!ありがとう!ありがとう!感謝する!!」


 涙ぐみながらそう言った唯一意識の残っていたヤツも中々の傷を負っていた。お前だけ回復しねーよ、とは行きませんよね?ソイツもちゃんと治しましたよ。


「俺の傷まで…。申し訳ない。本当にありがとう!」

「……さっき御者さんから、ウルフの群れに襲われたと聞いたが、そんな危ない道を通ったのか?」

「……いや。良く使ういつもの慣れた道だったんだ。今までこんな事は一度もなかった…。ヤツ等、急に山から集団で降りて来て、たまたま俺たちの馬車とカチ合ったようだった。そこを行き掛けの駄賃とばかりに襲って来やがったんだ!」

「そうか……。不運も重なったのかもしれないな。」

「ああ。そうとしか思えないよ…。……でも変なんだ。ヤツ等も山から降りて来た時、何かに追われている様に見えた。それによる恐慌状態と言ってもいいくらいに必死そうだった。」

「……そう、山から…追われて……。ヤツ等も何があったんだろうね…?」


 ………あれ?……これ、まさか俺のせいじゃ無いヨね?森でちょっとばかり暴れて……いましたけど?

 ウルフも追いかけましたけど……?でも、見つけたヤツ等は全部討伐したしな……。


 審議の程は分からないが、かな〜りグレーな状況だぞ。…………………でもどう考えても分かんねー!

 もし俺のせいだったら、お支払いを怪しまれない程度にお断りするからそれで許してくれ!

 まあ、そもそも俺のせいとも限らないけどな。


 俺はそのまま、悟郎さんが待ってる御者台へ戻った。悟郎さんは、御者さんの横で大人しく燻製を食っている。

 その御者さんが、燻製を羨ましそうに見ていた…。悟郎さんの燻製ホールドがさっきよりキツいのは、御者さんの視線のせいか?


 ……しょうがない。俺は御者さんに燻製を一つ渡しながら声を掛けた。


「……良かったらどうぞ。奥の冒険者達には、俺が出来る回復魔法は掛けたから。出血が酷かったから、あとは本人次第だと意識のあったヤツにも伝えておいたよ。」

「あ、重ね重ねありがとう!!信頼してずっと護衛を頼んでた人達だったから助けたかったんだ。」


 その御者さんは、俺から燻製を受け取ると早速口にしていた。……腹減ってたんか?


「悪いな……。皆でそろそろ飯にしようかと話してた時に襲われたもんでな。君が回復魔法使ってくれると分かって気が緩んだのか腹減っちまってさ。」

「いいよ。気にしてないから。それ俺の手作りだから口に合わないかもよ。」

「えぇ?!これ君の手づくりなの?!凄く美味しいよ!!」

「それは良かった。」

「これ売ってくれないか?!」

「……俺も旅用に必要な分しか作らない。売りもんにする気はないよ。」

「そうか……。残念だけどしょうがないね。あの子が夢中で食べる意味が良く分かったよ。美味しいね!」


 御者さんはそう言って、ムシャッってる悟郎さんを見た。俺の燻製が好評な件についてはともかく、もう門がすぐそこだ。

 悟郎さん!そろそろ俺の肩にライドオンして!!一緒に入場チェックを受けるからね!!


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