第20話 女王討伐!

 アリンコを倒すなら“節”を狙えと、蟻を捕食する蜘蛛から教えてもらった。ネイチャーな番組で、確かそうナレーションされているのを聞いた覚えがある。


 テレビを見る事は出来なかったが、狭い部屋だから音を聞く事は可能だった。動物で言う所の“首”が蟻のそれなんだろうな。


 潰した目の側に立ち、狙い澄ましてその節へと投擲を繰り返していく。渾身の一撃でなくとも、全然大丈夫。チクチク削ってでも倒せば俺の勝ちだ。


 勝敗は結果が全てだと、俺は思っている。その過程や方法に拘りや美学は一切ない。ハメ技上等!負け犬に語る口無しだ!


 女王様は、石が当たる度にギイギイ喚き、その巨体を庇う様に身体をくねらせ、羽でバタバタと俺を扇いだ。埃が舞い、視界を覆う。


 だが、4mある巨体を隠す筈もなく、目を瞑って投擲しても何処かしらには当てることが出来た。


「まだ、魔力残ってるよな…?よし。“一球入魂いっきゅうにゅうこん”!」


 舞い上がる埃の中、女王様の節を狙い、力一杯投擲を放つ。石が当たり、バキッと何かを砕いた様な鈍い音がし、それと共に女王様の耳障りな叫びが、空間に大きく響き渡った。


 再度、特技を唱え再び投擲。ピンと張っていた触覚が下を向いて項垂れ、前足が喘ぐように空を切る。


「そろそろ〜、逝って、下さい、ませんか、ねっっ!!」


 追い打ちを掛けて、力を込めた投擲を連発した。女王様は、断続的に断末魔の叫びを上げ、ビクビクと痙攣を繰り返し、そしてその動きを止めた。


 俺は、その巨体が完全に消えるまで近付かず、石を手に警戒を続けた。悪足掻きほど、質が悪いものは無いからな。暫らく待ち、ようやく女王蟻は黒い靄となって完全に消え去った。


「やっと消えたか…。はぁ、勝てて良かった。もう、あんなドデカ生物絶対に御免だわ。」


 女王様の居た跡には、その図体の割には小さな、俺の拳大の魔石とお馴染みの瓶がドロップされていた。


 更に、女王様の影で見えなかったが、その後ろにはバレーボールサイズの不穏な玉が大量に残されていた。俺は、慌ててその玉を確認した。


【ケイブアントの卵:女王蟻が産んだ、孵る寸前のケイブアントの卵。】


「まっ!巫山戯ふざけんな!こんな大量の要らん置き土産すんなっ!!」


 やっと終わったアリンコ共との戦闘をこれ以上繰り返すなんて真っ平御免だ!俺は大急ぎで卵に投擲し、孵る前にひたすら潰しまくった。


「あぁぁぁぁ〜。メッチャ疲れた!もう動きたくない!」


 目の前には、大量のドロップが床に散乱している…。目新しい物のみ確認してから、一括収納しよう。


【ケイブアント(女王種)の魔石:各巣穴に一匹しかいない女王蟻の魔石。様々な錬金に使用可能。売却価格3500〜4000ゼル】


【ケイブアント(女王種)の濃縮蜜:女王蟻が卵の産卵時に精製する濃縮された蟻蜜。非常に高い栄養素・滋養強壮効果がある。売却価格1000〜1500ゼル】


【ケイブアント(卵)の濃縮飴:孵る前の卵からのみ得られる、ケイブアントの飴。産卵時に女王蟻から与えられる濃縮蜜が原料。栄養素・滋養強壮がとても高い。売却価格500〜800ゼル】


「……飴。丁度良いから一粒食うか。」


疲れた身体に、ファイトを一発入れてくれそうだったのでドロップ品から一粒口に入れた。


「…………甘っ!!超甘いっ!!」


 蟻蜜を濃縮しただけある、強い甘み。より一層香る独特な木の香りが鼻を抜けていった。


 そして、ドロップ品を全て収納し終え、その場で仰向けに寝転んだ。眠る訳にはいかないので、少しだけ…。


「…………………ヤバい。無理……。これ寝るわ。」


 閉じていた重い瞼を無理矢理開ける。猛烈に眠い。

でも流石にここは駄目だろ。グズグズと中々起き上がらず、硬い床の上でゴロゴロゴロゴロしていた時、天井部分に歪な影があるのが目に入って来た。


 慌てて飛び起き、その場を離れる。とぐろを巻いた影は、じっと見ていても動く事はなかったが、天井全体を覆う様に這っていた。


「うぅぅっ〜!何だあれ!動かれたらヤバい!キモい!“博覧強記はくらんきょうき”!」


 討伐完了の安堵から、急転直下に。せっかくの穏やかな気持ちがまた削がれていく。


八俣楓やつまたかえでの根:樹液が甘い事から“甘木かんぼく”とも呼ばれている、カエデ科の落葉樹。地中深く根を張る事から、地震に強く、その土地を堅固に守る木とされていたが、根の方がより甘い樹液を採取出来た為、伐採によりその数を減らしている。ケイブアントの蜜の原料。】


「良かった!!ダブルで良かった!!!驚かすなよ〜!立派な木の根で安心したよ〜!しかも、アント君の蜜の原料なんですね!もう、俺、超安心した!!ありがとう!八俣楓やつまたかえで!」


 ただの木の根ではあったが、俺は存外の喜びを感じてしまい、右手を高々と挙げると、恥ずかしげもなく、不朽の名作ポーズをとるのであった。


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