Comb honey〜マルハナバチはミントの花を好む〜

桑鶴七緒

Comb honey

親の望み通りに僕は今の高校に入学した。


1年生の3学期に隣のクラスにいるある女子に声をかけられて告白をされた。

友達でいたいと伝えたが、一緒にいるうちに僕も彼女に惹かれていき、いつの間にか相思相愛の仲になっていった。


周りからは平均的よりは僕たちは顔立ちの整った清楚なイメージがあるらしく、そう言われてもあまり気にはしていないが、それなりに理想のカップルだとも言われる事もある。


そして事の重大さに気づく時が訪れた。

彼女は今どきに似合わず風変わりしているところがある。


学校から帰る途中に女友達と歩いていると、後ろから思いきり彼女から水風船を背中にめがけて投げつけられた。

僕の誕生日にはプレゼントとしてもらったギフトボックスを開けてみると、プラスチックのおもちゃでできたふやふやの大量のヤモリを入れてきた。

この間も家に遊びに来た時には、ベランダの花壇に水をあげてくれと言われたので、差し出してくれたジョーロを手渡されて、花に水を与えようとしたら、中には油絵の具のチューブの中身が混ざった液体が流れ出てきて、危うく花にかけるところだった。


ただの幼稚な子どもしか脳が回らないのかといつも頭を悩ませる。いたずらにも程があると叱っても表情は平然としているのだ。


何かがおかしいと思い、互いの両親には内緒でクリニックで診てもらいこれまでの経緯を話してみてが、多感な時期だから気長に見てくれと手のひらを翻された。


そんな事もある一方で、ある日の帰り道2人でバスを待っていると、僕の袖を引っ張ってきたのでどうしたのか尋ねると、彼女は自分の唇を人差し指で触り、キスがしたいという合図を送ってきた。


「周り、人いるだろ?できるかよ」

「このあと10分待てばまたバス来るじゃん。この列を先に見送ったら2人きりになるしさ」

「…分かった。今日だけな」


やがてバスが来てその通りに乗らずに過ぎ去り、人気の少ない隙を見て、僕らはキスをした。


それから何事もなかったかのようにいつも通りの表情で次に来るバスを待つ。

たまにこういう行為を繰り返してはいる。愛らしいところだってあるから、憎めないんだ。


そして今、彼女は僕の隣にハコフグのように小さく口を開けてイビキをかきながら眠っている。


僕の両親に付き合っている事を紹介したら、泊めてあげなさいといつになく嬉しそうに彼女を招いてくれた。


夕食を食べてからテレビゲームをして時間は過ぎて気がついたら真夜中になっていた。

途中僕は席を立ち寝室のベッドの隣に彼女用の布団を敷いて、再び部屋に戻りゲームを再開した。


どんな相手にも負けず嫌いな方だが結果的には僕が勝った。両手を上げて喜んでいると、彼女は首をカクカクと下げていたので、体を抱えて寝室の布団に横にさせた。


やがて僕も眠気が出てきたので、ベッドに入って眠りについた。


しかし、明け方3時。ふと目が覚めてるとまるで大きな犬がぬくぬくと潜り込んできたかのようにとても心地の良い温もりで毛布の中が溢れていたので、片脚を乗せようとして寝返りを打つと、隣に彼女がいつの間には入ってきていたので、僕は慌てて飛び起きた。


「お前っ!何入ってきているんだよ?」

「…んあぁ、何さ良いじゃん。布団寒くてさ、こっちの方が温かくて寝やすいんだもん」

「…何もしてくるなよ」

「誰がするかって…」


そう呟きながら再び眠りについた。


ちなみに言っておくが、付き合って今日が初めて一緒に寝ているんだ。

よく堂々としていられるものだ。僕は彼女の頭をなでて隣に並んで眠りについた。


その数時間後の起床時間まで僕らはぐっすり眠っていた。先に僕が目を覚ますと、彼女はスウェットの裾が捲れ上がって背中が見えていた。

思わず吹き出してしまった。


多少の色気もあるはずなのに、それどころかどう見ても幼い子どもに見える。僕はその背中を直してあげて、後ろから彼女を抱きしめた。


「何、抱きついてるのさ?」

「えっ?いや、少しくらいは…良いじゃん」「誰が良いって言った?」

「このくらいは許してよ」

「じゃあ1万」

「何が?」

「無断で抱きついてきたから、罰金として1万払って」

「そんなに悪いことしてないし…罰金はなしにしてさ、こっち向いて」


彼女はこちらに体を向けてきた。まだ寝ぼけたような表情でしばらく僕を見つめていた。


「可愛いよ」

「…あたりまえじゃん。学校イチの美女だよ?」

「あはは、自分でよく言えたものだな」

「そっちも寝起きのその顔…ふっ…」

「何?」

「…ぶっさいく。普段より不細工だし」

「お前な…!」


僕は彼女の体をくすぐり出して、足で蹴られながらもお互い戯じゃれあっていた。

誰にも見られたくないけど、こういう風にいつまでも長く一緒にいたいと思っていた。


僕たちだけの空間。僕たちだけの分かち合える時間。誰にも理解されなくてもいいんだ。

絡まった手と手が紡いで1つになれる、僕たちだけのカタチで築き上げていけばいいのさ。


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