友達は今日、結婚する。
澤崎海花(さわざきうみか)
友達
馴染みの喫茶店で友達を待つ。
友達は今日結婚するらしい。
結婚と言っても式を挙げるようなものではなく、入籍をするだけである。
入籍が終わったあと会いたいと言われたので、友達のことをメロンソーダでも飲みながら待っていた。
色々な準備があって忙しいだろう友達は、何故だか今日会いたいと言ってきた。
それがどうしてなのかは分からない。
でも、友達が会いたいと願うのならば、長い付き合いの友として会おうと思った。
それにしても遅いなと待ちながら、友達が結婚すると報告してきた日のことを思いだした。
幸せそうに結婚指輪を見せながら、結婚すると、大学時代から一緒だった彼氏と結婚するのだと言ってきた。
大学時代に居た友達の中で男は数人いるはずだ、その中の誰と結婚したのだろうか。
きっと友達のことを支えてくれて、優しい人なのだろうと思う。
私は好きな人もいないし、友達がどうして踏ん切りがついたのかは理解できない。
でも、やっと立ち直ってくれたのならば良かったとメロンソーダを啜る。
友達にとって何年も好きだった人がいなくなってから一年が経つ。
一年前は会う度に泣いていた友人だが、今はこんなにも明るく報告してくれて気持ちが楽になった。
幸せであるのならばいいと思うのだが、それだけでいいとは思えないのがこの世の中だ。
カランと音がなり入ってきた人物へと手を振る。
そこに居たのは友達だ。
手を振り返しながら待たせてごめんと謝ってくる友達に、気にしてないと返した。
そういえば、私、彼女の彼氏を一度も見たことがない。
せっかくだしと友達に頼むと、友達は快く写真を見せてくれた。
「え、これって」
「どうしたの?」
おもわずそう漏らしてしまうのも無理は無い。
写真には誰も写って居なかったからだ。
この写真写ってないと言おうとして口を開くが、友達はゆっくり微笑むと話を続ける。
「でも、
「え?」
「ほら、勇気くん。知ってるでしょ?」
嬉しそうに笑う友達に対して表情が凍りつく。
だって、その名前は。
「待って、
「そうそうそれそれ、知ってんじゃん」
友達は笑う。
「待ってよ……勇気くんは、一年前に……交通事故で亡くなったんだよ?」
あの日、友達は泣いていた。
よく覚えている。
雨の日にスリップした車に轢かれて、亡くなってしまった友達の恋人だ。
「何言ってるの? 勇気くんは、ほらそこにいるよ?」
そう言って友達は窓の外へと手を振る。
急いで窓の外を見るが、そこには誰もいない。
「今日は美優を連れていこうと思って来たの。美優なら分かってくれるでしょ?」
友達は笑う。
「勇気くんには、友達が必要なの。だからいいよね?」
友達は、笑う。
「結婚祝いにちょうだい?」
友達、は、笑う。
「子どもが産まれたらちゃんと、美優ってつけるからね」
私はその時はじめて、友達の背後で、友達と一緒に笑う勇気くんを見た。
ーー私は今日、友達を犠牲に結婚するーー
友達は今日、結婚する。 澤崎海花(さわざきうみか) @umika
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