無題

かわら なお

 

さよならって言ったのは君なのにどうしてあの時あなたは泣いたの

「離れよう」

そう言ったのはあなただった

だから私は最後に物分かりのいいふりをして「わかった」って言ったんだ


何年も何十年もそばにいて見てきた

君のことを忘れられる日は来ない


「彼方」

君はいつも構って欲しそうに僕を見上げて名前を呼んだよね

その度に僕はやれやれって感じで「遥」君の名前を呼ぶんだ

そうすると君はまるで子犬の様に喜んでくれたよね


僕たちはよくある幼なじみでずっと一緒だった

何も考えずにただずっと一緒だって思ってた


「彼方はどこの高校行くの?」

「…公立かな」

僕は一人暮らしがしたかった

早く1人になりたかった

逃げたかった

「そっかぁ はるかも行こうかな 公立」

「…え?遥 私立に行くって言ってなかった?」

「気が変わったの!」

ほんとは知ってた

僕が私立に行けないの知ってて君は僕を選んでくれたんだよね

それがすごく僕には嬉しかった

だから「そっか」なんて言ったんだと思う


「はるか〜」

高校に入っても君はみんなの人気者で

僕なんか入る余地はなかった

それでも君は

「彼方」

僕の名前を呼んで笑ってくれたよね


いつしか君が僕の前からいなくなって

離れて行った時僕は気づいたんだ

僕のせいで君をどれほど犠牲にしたか

だから「離れよう」

僕はそう言った

もし君に「はい」と言われたら僕は泣いてしまうだろう

だから帰ってきて



「離れよう」

そう彼方に言われて私はしばらく動けなくなった

私何かした?

言葉は何も見つからなくて

どうせ最後なら聞き分けのいい遥でいたかった

だから私は「わかった」なんて言ったんだと思う


彼方のうちは母子家庭でいつも彼方は1人だった

だから私は彼方のうちによく入り浸っていた

一緒にゲームして遊んで

一緒にお風呂に入ってご飯食べて 寝て

なんてことない日常だったのに

私に彼氏ができて彼方は変わった

私と目を合わせてくれなくなった

前みたいに「彼方」って呼んでも笑ってくれなくなった

なんで

ずっと一緒にいたのに

壊れていくのはあっという間で

なんで

私はあなたに今別れを告げられているんだろう


彼方と離れて彼氏と別れた

私は1人になった

彼方は話しかけてくれない

「どうしたの?」って近づいてもくれない

何もかもどーでもよくなった



遥と離れて数日

遥が彼氏と別れたと噂が流れた

優しそうな人だった

遥も幸せそうだった

遥はそれからどんどん暗くなってクラスから孤立する様になった

誰も遥かに見向きもしなくなった

そんなに大事だったの

彼氏が

僕のことがどーでもよくなるくらい

好きだったの?



私が彼氏と別れたことが噂になっていたらしい

優しくていい人だったけど私には勿体なさすぎる人でいつも不安だった

いつからか彼といると 彼方と一緒にいたい 彼方のうちに帰りたい

そう思う様になっていた



「彼方‼︎」

うちに帰ると母さんが僕を探し回っていた

「心配したわ なかなか帰って来ないんだもの」

「…学校行ってたんだよ」

「学校…?そういえば 行っていたわねそんなとこ」

「……」

「遥ちゃんは?まだよく来てるんでしょ?」

「…遥はもう来ないよ」

「あ、そう」

「…ところで誰 あの子」

「あの人が預かってほしいって言うから連れてきちゃった 私より彼方ちゃんの方が面倒見るの上手いでしょ?」

「そんなことないけど…」

「とにかくあの子よろしく 歳も近いって言ってた様な気がするし 話したら仲良くなれるかもしれないわよ じゃ」

そういって母さんは出て行った

この子を残して


「…お姉ちゃんどうして僕に会いに来てくれなかったの」

「……え?」

今お姉ちゃんって言った?

「なんのこと? 君は誰なの?」

「日向」

「おばあちゃんの家にどうしていたの?」

「……何も聞いてないんだね あの人から」

「そうだね」

「あの人は僕のお母さんだからお姉ちゃん」

……ちょっと待て

「どうゆうこと?」

「血の繋がりがあるれっきとした兄弟の初対面だよ おばあちゃんから何も聞いてないの?」

「聞いてないも何もおばあちゃんの連絡先も家も知らないよ」

「…は?」

「存在しか母親から聞いてない だから知らない」

「あっそ 楽しみにしてたのにな〜 僕の新しいお姉ちゃんはどんな人かなって」

「……」

「こんな暗い家に1人なわけ? あ…この子は誰?この写真立ての子」

「遥」

「ここ昔の家? 仲良さそうだね この人も僕のお姉ちゃん?」

「遥はただの幼なじみ あんたのお姉ちゃんなんかじゃないよ」

「…どうしてそう言い切れるの? この人も僕のお姉ちゃんかもしれない」

「……」

「やだな 冗談だって」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無題 かわら なお @21115

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ