対面
「ごほっ! ゲホォ! ざまぁみやがれ!」
爆発直前に自身を中心に風魔法を全力展開し、爆発の衝撃を極力弱めて自爆を避ける荒業。完全に防げてはいないので髪先はチリチリと焦げ、着ている服にも火花で小さな穴が所々に空いている。
しかし、周囲を取り囲んでいた猟兵は軒並み爆死。辺りには肉の焼けた臭いが漂っている。当然、その死体も転がっている。俺自身が自らの意思で殺した死体が転がっている。
何も思わないなんてない。今を持って俺は人殺しの仲間入りだ。
「今のは何ですかッ!」
凄まじい形相で俺の元へと飛ぶようにやって来たアルに、俺は少しばかり呆れた表情を浮かべる。
「ちょっとした工夫による大爆発だよ。これほど学校の授業に感謝した事はないよ」
「そうですか。それよりも今の爆発音で猟兵全員に知れ渡ってしまった筈です」
まあ、それもそうか。
だが、今の爆発音で多少は動揺させる事は出来たのではないだろうか? まあ、あくまで願望の話ではある。
「この周辺の猟兵は先ほどの爆発と私で片付きました。病棟まで急ぎましょう」
そう言ってアルは俺の前に立つ。
「おい、何をする気だ?」
「純玲の進行速度が遅過ぎますので、私が抱えて一気に進もうかと思いまして」
なるほど、アルが俺を抱えて風魔法による進行速度の上昇で時間の削減とは理に適っている。
「すまんが頼む」
「ええ、お任せください。
斯くして俺はアルに抱えられる事になった。
なったのだが、どうしてお姫様抱っこ(される側)なのだろうか?
いや待って。ちょっと待て。これは何か俺の中の何かが崩れ去りそうな気がする。
「どうしてお姫様抱っこ?」
「お姫様抱っこ? あー、これですか? 一度やってみたかったのですよ」
「逆! それ絶対に逆! 寧ろ、俺がしてあげたかったよッ!」
「いえ、それだと進行速度が更に遅くなります」
「はい。マジレスは止めて」
「言っている意味は解り兼ねますが、与太話に興じている場合ではありません」
「あ、はい」
真顔で言われたアルの台詞に俺は真顔で返事をする。
アルにお姫様抱っこをされた俺。何か大事なものを失った気がする。
「一気に吶喊しますので、舌を噛まないようにお願いします」
そう注意をしてから、アルは魔法の発動の為に言霊を紡ぐ。
「風羽の子らよ、烈風の加護を我が身に与えよ!」
風を全身に感じた。
周囲の風景は線のようになり、その詳細を視認できなくなる。
速い。あまりにも速い。
途中、猟兵と出くわしているようだが、その全てを移動と共に生じる衝撃波で吹き飛ばしていく。また、ガラスが砕けるような音が聞こえるが、それも衝撃波によるものだろう。
「見つけました! 重火器を持っている彼らの前に着地します!」
無言だったアルが口を開く。
移動開始から僅か数十秒の出来事。
タン、という着地の音と共にアルに抱えられたまま俺は自衛隊員の前に現れた。当然、其処には猟兵の奴らもいる。
「何者だ?」
凶悪な気配を垂れ流す猟兵の男が眉間に皺を寄せて問う。
「通りすがりの魔法使いです」
ドヤ顔で答えるアルだが、俺をお姫様抱っこしているせいで何とも言えない空気になっている。主に自衛隊員側が……。
そんな事には気にもせず、俺を下ろすとアルは口を開く。
「アルシナート・クレナ・フェルツ。それが私の名です。勿論、貴方ほどの実力者ならばご存じですよね? 『千岩の槍』の猟兵団長、デューサー・アシュトレー」
凶悪な気配を垂れ流す男――デューサーを真っ直ぐ睨みながらアルは言う。
その言葉を聞き、デューサーは心底楽しそうな表情を顕わにした。
瞬間、ゾワッした悪寒が背に走った。
コイツは他の奴らとは違う、と俺の直感がそう告げていた。
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