学校教育の賜物?
病院の敷地内への侵入は特に妨害も無く容易だった。
普通だったらありえない話だが、この世界――日本の住む一般人は魔法が使えないどころか重火器など持ち合わせていない。侵入、不意打ちをされたところで大した脅威になり得ない。
しかし、それは猟兵団の慢心でしかない。
主戦場は病棟本館。其処へと至るまでの道中に猟兵団員が徘徊、或いは談笑をしている。恐らく休憩しているのだろう。戦場へ立つ者と休息をする者をローテーションしつつ、前線の勢いを衰えさせないようにしているのかも知れない。
そうなれば常に前線を張る自衛隊員はキツイ状況が予想される。勿論、弾薬の残量にも限界はあるだろう。
物陰に隠れつつ様子を伺っていたが、これ以上は隠れて進めるようにも思えなかった。
「――此処からは一気に突っ込みましょう。極力手助けをするつもりですが……」
「解ってる。自分の身は自分で守ってやるさ」
「なら大丈夫です。では――行きますよ!」
物陰から飛び出たアルが一気に最前線を駆けて行く。
俺も後を追って飛び出す。
「なっ⁉ 敵襲ッ!」
「遅いですよッ!」
先手必勝と言わんばかりに、アルが風の刃で直ぐ傍の猟兵の首を掻き切る。
鉄の臭いが漂う。
こんな世界になってから幾度と嗅いだ嫌な臭いだ。
俺の元へと数人の猟兵が殺到する。
アルよりも出力が無い魔法で何処までやるのか。属性を用いない魔法である身体強化を自身に施し、右手を拳にして最も近い猟兵へと肉薄、そのままドテっ腹へと叩き込む。
くの字に曲がって吹き飛ぶ猟兵だったが、その他の敵が魔法を放ち始める。
地属性の系統魔法。宙に創られた数多の石の槍が俺へ向かって一直線に奔った。
「っ――――⁉」
明らかに俺の魔法よりも出力は上だ。
アルはどんどん先へと進んでいる。これは手助けする気が全くないとしか思えない。
「クソォォォ!」
自ら選んで此処に立っているのだ。ならば、自身の尻は自分で拭くべきだろう。
風の基本魔法を行使、致命傷になりそうな石の槍のみに対象を絞る。当然、残った石の槍の何本かは俺の身体を掠める、或いは突き刺さる。
痛い。だが、止まれば殺される。此処はそういう場所だ。
四属性の魔法の出力が低い以上、己が肉体で叩き潰すしかない。肉弾戦は何だかんだ馬鹿にはならない。
が、当然相手は魔法一辺倒の集団ではない。奴らは猟兵団。戦争屋。肉弾戦もお手の物だ。
不意打ち気味に吶喊した最初こそ何とかなったが、次第に俺ではどうにもならなくなっていく。
「先にいった女は化物だったが、この坊主はド素人だ!」
内心で舌打ちする。
さて――どうすればいい?
荒い呼吸をしながら俺は立ち止まる。周囲は猟兵に囲まれ、四面楚歌。アルは先の方で他の猟兵を相手にしている。
故にこの苦境を俺一人で乗り切る必要があった。
「さて、何用で俺たちに喧嘩を売ったのかは知らないが、随分と命知らずな坊主だ」
ニヤけた顔でジリジリと近寄って来る猟兵たち。
俺は水の魔法を発動する。
が、出力が足りなさ過ぎて猟兵の片手間の魔法で消滅する。
「あん? お前、自分の系統も知らねえのか?」
「……実はそうなんだよ。四属性どれも俺には当てはまらないみたいでさ」
俺は敢えて猟兵の言葉に答えを返す。
その間に一つ試しを行う。
水属性の魔法。文字通り水を用いた魔法だ。主に水を射出する攻撃や上位者は治癒魔法も使用できる。大体はファンタジーゲームのノリで通用する系統。
そこで俺は考えた。水に関するものなら何でも操れるのではないのか、と――――。
実のところ魔術式は既に作り終えていた。これは俺が生み出した最初の固有魔法であり、キ・ガルシュ人にとっては取るに足らない魔法。
だが、俺が有する起死回生の一手。
ありがとう学校教育。理科の授業真面目に受けておいて良かったよ!
「得意分野が無いのなら頭を使うしかない。そこで考えた。水の系統魔法であれば水素ガスを造り出すことができるんじゃないかとさ」
猟兵らは怪訝な表情を浮かべる。
キ・ガルシュに元素などの概念があるかは知る由も無い。ただ、この世界では化学こそが力である。十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない――と言うのは烏滸がましいが、これも魔法と言うことで御一つどうぞ!
「――と、言うワケで吹っ飛びやがれ! これが俺の最大魔法! 名付けて、水 素 爆 発だッ!」
酸素は大気中にごまんとあった。
俺は火の魔法を発動した。
瞬間――――周囲を巻き込んで大爆発を起こした。
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