行こう

 少年の話を聞く限り状況は逼迫しているようだ。

 先ほどの猟兵団『千岩の槍』が避難所となっていた病院を襲撃。小隊規模ほどの自衛隊員がそれを迎え撃っている状況のようだ。

 そんな中を何故少年と俺の妹である少女が抜け出してきたのか?

 どうやら襲撃直前まで遊んでいたようで運悪く襲撃され、両親がいる場所へ戻れず、猟兵が侵入、何とか病院敷地外へと脱出したが先ほどの男に見つかって追われていたようだ。

 こうしている間にも銃声は響いている。

 それに先ほどの男が俺たちの事を知らせているだろう。


「とにかく状況は良くないのは間違いない。アル、『千岩の槍』という猟兵団についてどれくらい知っているんだ?」


「そうですね……五大猟兵団という屈指の猟兵団の一つであり、猟兵団長である『岩神』デューサー・アシュトレーが率いる集団。標的に慈悲は無く、依頼は何があろうと必ず達成する。その行いが外道であったとしても関係ありません」


 聞く限りヤバい奴らである事は解った。


「彼らは神楽にお任せして、私と純玲で病院へ向かいましょう」


 アルは言う。

 確かに幼い少年とその妹を連れて行くワケにはいかない。しかし、二人の護衛を神楽だけに任せて大丈夫なのか……。

 そんな事を考えていると、アルが一言。


「少なくとも純玲よりは強いので心配するだけ無意味です。それよりも私と共に行くのですから自身の心配をしましょうか」


「ぐっ――――」


 鋭い言葉の刃が突き刺さる。

 だが、事実である以上は何も言えない。

 しかし、そうなれば俺よりも神楽を連れて行った方が……。


「女の子を前線に立たせて何も思わないのであれば、それでも良いですよ」


「……あー、それはちょっと俺の僅かに残っているプライドが傷付くわ」


「そういう事です」


 アルはそう言ってから、小声で俺だけに聞こえるように耳打ちした。


「神楽を『千岩の槍』に合わせるワケにはいきません。予想ではありますが、神楽のいた経典を襲撃したのは『千岩の槍』です」


「っ――――⁉」


 アルの言葉にギョッとして、思わず顔を見る。


「デューサー・アシュトレーが得意とする魔法の属性は岩です」


「……そういう事かよ」


 あの襲撃現場でアルは滞留している魔力残滓から「岩の魔法が使われている」と言っていた。

 地属性の性質変化によって手に入る属性である岩。性質変化に至る者が多くない事から考えると、そういう事なのだろう。


「純玲さん?」


「ああ……すまんな、神楽。何でもない。じゃ、俺とアルで病院へ向かう。神楽は二人と安全そうな場所で待機だ。任せられるか?」


「はい。傷一つ付けさせませんよ!」


 力強く頷く神楽に俺は「頼んだ」と告げ、アルに顔を向ける。


「行こう」


「はい。犠牲者を増やさない為にも急ぎましょう」


 俺とアルは病院へと向かって走り出す。

 銃声は激しさを増し、おそらく魔法と思われる攻撃による轟音が響き渡る。


「……やれるだけの事をやるだけか」


 数歩先を先行するアルの後を追いながら、俺は自らに言い聞かせるように呟いた。

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