猟兵団
「アンタ……キ・ガルシュ人だろ? どうしてこの世界の人間側に付いている?」
男は眉間に皺を寄せつつ、涼しい顔をして立つアルに問う。
まあ、当然の疑問だろう。
勝ち戦であるこの戦争。普通のキ・ガルシュ人ならばアルのような行いは愚行としか考えられない筈だ。
「さあ? それは貴方の頭で考えてみれば良いのではありませんか? それよりもその左胸のエンブレム――貴方は猟兵団『千岩の槍』の者ですか」
「へえ? 俺たちを知っているのか? 随分と有名になったもんだ。さて、世間話は程々にしようぜ。それと交渉だ。その後ろの奴らを寄こすなら、アンタは見逃してやるが?」
その言葉にアルの眉がピクリと動く。
「まさか、私がそれを受け入れると?」
「キ・ガルシュ人なら、そいつらを助けてやる理由も無いと思うが?」
「……まあ、そうでしょうね。ですが、彼らは私の仲間です。殺されると解っていて、仲間を差し出す馬鹿が何処にいましょうか!」
「――そうか、なら交渉は決裂だ」
男はそう言って両手を広げて不敵な笑みを浮かべる。
「団長程ではないが、俺もそれなりに名が通っていてなぁ? 『地烈刃』という二つ名を持っている」
「そうですか。それは滑稽ですね。たかが二つ名程度で誇れるとは、随分と低い意識ではありませんか。程度が知れますね」
全力で喧嘩を売りに行くアルに、後方で見守る俺は冷や汗を流す。
どうにもアルには煽る癖があるのか、性分なのか、とにかく敵を挑発していく。
当然の事ながら、アルの言葉に男は青筋を立てる。
「随分と舐めた事を言ってくれるなぁ――――女ァ!」
「女ではありません。では、冥途の土産に教えておきましょうか?」
胸の前で腕を組み、凛とした佇まいでアルは自らの名を名乗る。
「アルシナート・クレナ・フェルツ。貴方を地獄に叩き落とす者の名です」
「何?」
アルの名を聞き、男は困惑の表情を浮かべる。
が、そんな事を待つほどアルは優しくない。
「隙だらけですよ」
風の魔法による瞬発力の強化を施し、アルは男の腹へと拳を叩き込む。
並の奴らなら一発なのだろうが、流石は名の通った猟兵団所属の男だ。吹き飛ばされるも何とか着地し、顔を顰めてアルを睨む。
「『暴風雨』アルシナート・クレナ・フェルツ。軍のシューヴァント大佐が言っていた裏切り者で、『偉大な魔法使い』の一人か」
「ええ、その裏切り者の魔法使いです」
男は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
どうやら二つ名持ちの男でも、アルという存在は驚異のようだ。
「何でアンタみたいな実力者がキ・ガルシュを裏切る? 『偉大な魔法使い』なら将来を約束されていただろうに……」
「その約束された将来が何かは知りませんが、この不当な侵攻に疑問を抱いた――それだけの話です」
「…………ほう、なるほど。アンタは何も知らないのか」
男は目を丸くし驚いたような口調で言う。
「その口振りだと、この侵攻の理由を知っているみたいですね?」
「さあ? 少なくともこの地――キュウシュウだったか? キ・ガルシュ皇帝がお望みの物は存在しなかった。まあ、それとは面白いものは見つかったがな」
男はそう言って、アスファルトの地へ手を付ける。
瞬間、男の目の前の大地が盛り上がり、巨大な壁が聳え立つ。
「流石にアンタを俺一人で相手をするのは分が悪過ぎる。そんなワケで退かせてもらうぜ!」
そんな言葉を残して、壁の向こうで走り去っていく音が聞こえる。
アルは「ちっ!」と舌打ちをしつつも後を追う事はしなかった。
「アル!」
俺たちは不機嫌そうなアルの元へと近づいた。
「申し訳ありません。流石は猟兵。引き際も弁えていますね」
「ま、今はよしとしよう。それよりも――」
俺は逃げて来た少年少女の二人に視線を向ける。
「一先ず、何が起こっているか話を聞かせてくれないか?」
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