迷う必要はない
福岡県道二六四号を進み、国道十号へ入り南下し、湯川飛行場線に入る。その最中にコンビニ、スーパーマーケットに立ち寄り、物資を手に入れながら進んだ。
暴徒と化した一般人をいなしつつ、寺迫口北交差点まで辿り着いた。このまま左に曲がれば、福岡県道二五号に入れるのだが……。
「純玲さん、何か聞こえませんか?」
神楽がそんな事を言ってきた。
俺は耳を澄まして、神楽の言う音を探す。
……確かに何か聞こえる。破裂音か、石と石が衝突したような――それと銃声だ。
アルもその音を補足したようで、直ぐにその音の出所を特定する。
「このまま真っ直ぐ行った先からの音のようです」
俺は地図を広げて、この先に何が在るかを確認する。
「この先にある大型施設だと――病院だな」
地図を見せながら俺は指差す。
銃声があるという事は間違いなく自衛隊員がいる事に他ならない。キ・ガルシュ人が重火器を有していない事はアルに確認済みだ。
そして、銃声がしていると言う事は、現在進行形で自衛隊員は敵対勢力との戦闘中であると考えられる。
俺たちに二つの選択肢が生まれる。
一つは銃声の発生源を無視して福岡県道二五号へ入り、先へ進む。
もう一つは銃声の元へと向かい、状況によっては加勢に入る。
言わずもがな、二つ目の選択肢には危険が伴う。
どうしたものか――と考えている俺だったが、これまでに選択した決断を知るアルは呆れた表情で言った。
「純玲、迷う必要がありますか?」
ああ、全くその通りだ。
俺は神楽の方へ顔を向ける。
「私は純玲さんの選択に従います」
その答えに頷き、俺は告げる。
「銃声の発生源へ向かおう。状況によっては戦闘も止むなしかも知れない。アルは俺と神楽の気にせずに動いてくれて構わない。自分の身くらいは何とかする」
俺の言葉に神楽が頷く。
「はい。教えていただいた魔法で何とかしてみせます」
この短い期間で神楽の魔法の扱いは俺よりも優れていた。適性の性質は水。元々の覚えが良い事もあり、既に中級程度の魔法の魔法式まで理解していた。
なお、俺は四属性の基本魔法で何とか――と言った具合だ。そこは身体強化の簡単な魔法と度量で何とかするしかない。
「了解しました。それと…………」
アルは先へと視線を向けて何かを考える素振りを見せた。
「アル?」
「いえ、これは現地に向かえば判明する事でしょうし、今は先へ急ぎましょう」
首を横に振ってそう言ったアルに俺と神楽は頷いた。
俺たちは銃声の元へと向かって走り出す。
走り出して直ぐに病院の建物が視界に映り、砂煙が巻き上がっている事も確認できた。
と、前方から小学生くらいの少年が幼い女の子の手を引いて走って来ている姿が見えた。そして、その後ろからは魔法を放つ男が一人。
少年は女の子の手を引きつつ、何とか放たれた魔法を回避している。
「っ――アルッ!」
「お任せください!」
情けない話、俺ではどうにもできない。
その事実に歯を食いしばりながら、俺は少年と女の子の元まで走る。
アルは風の魔法を発動し、一気に追手である男の前へと肉薄した。
「なっ⁉ 何者だ!」
「そう言う貴方こそ、幼い少年少女を追い掛け回しているようですが何者ですか? 恥を知りなさいッ!」
スピードに乗った状態のまま、アルは右手の拳を男へと突き出す。
が、男の方もそれなりに手練れのようで直ぐに両腕で棒業の体制を作り、その拳を受け止め後方へと飛び退いた。
「お前ら大丈夫か!」
俺は逃げて来た二人へと声を掛ける。
「僕も妹も大丈夫だよ! それよりも、あのお姉ちゃんが!」
どうやらこの少年はアルの事を心配しているようだ。
確かに相手は異世界人の魔法使いだ。そう考えるのは普通だろう。
だが――、
「心配ないですよ」
神楽が二人に微笑みながら言う。
「あのお姉ちゃんも魔法使いですから!」
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