ルート選択

 話し合いの結果、関門橋付近へと可能な限り近づく事に決まった。

道中、飲食物を確保する為に無残な姿になっているコンビニへ立ち寄りつつ、時折鼻を撫でる不敗集に顔を顰めながらも、俺たちは周囲の状況を警戒しながら歩みを進める。

関門橋に近づくに連れて徐々にキ・ガルシュ軍の姿が多くなっていく。何度か戦闘になる事はあったが、その全てをアルが難無く打倒していた。

しかし、俺たちの情報が流石に伝わっているのか、道中の警戒は徐々に厳しくなっていく。

 北九州市小倉区を抜け、門司区に入った頃には随分と動き難い状況となっていた。


「……ここまで最小単位編成エレメントとの戦闘はありましたが、ここからは小隊規模以上との戦闘は避けられないかも知れません」


 安全を確認した廃屋で休息をしている最中、アルは難しそうな表情を浮かべて言う。

 現状の最大戦力はアルだけだ。多少なりとも魔法が使えるとは言え、俺と神楽は足を引っ張るだけの足手纏い。おんぶに抱っこの状況で小隊規模以上の部隊と衝突してしまえば、怪我程度では済まない。


「もう少し進めば門司駅だ。そのまま線路沿いに進めば小森江駅で、線路上を進めば在来線の海底トンネルに入る事はできる」


 道中で手に入れた福岡・山口県の地図を開いて、現在地から海底トンネルまでの道を指でなぞりながら俺は言う。

 トンネルを進む事は挟み撃ちの可能性も踏まえて危険とは言え、関門橋までの道中も危険である事は変わりない。

 関門橋付近に陣を取る本隊に接敵する事を回避し、予定を変更して多少の戦闘は承知の上で海底トンネルへと突入するべきだろうか?

 しかし、アルは首を横に振る。


「仮に突入できたとしてもやはり待ち伏せを受けて終わりです。それにトンネル内は視界も悪でしょう。いえ、そもそも真っ暗で何も見えない筈です」


 トンネル内で下手に明かりを灯せば、敵に見つかる可能性もある。だからと言って暗闇を歩くのは精神的に異常をきたすだろう。

 となれば、やはり関門橋の突破を目指すしかない。


「線路沿いに進むよりは少し内陸に入って北九州高速四号線を進むべきではありませんか?」


「そのまま門司ICから九州道に入って北上して行くルートか」


 神楽の問いに俺はそのルートに沿って地図をなぞる。


「私としては時間を掛けてでも市街地を抜けて行くべきでしょう。その高速道路での移動は目立つと思います」


 確かに高速道路上には障害物は無い。それは則ち、身を隠す物が無い事を示す。

 俺は少し考える。


「……いや、ここは一度引き返して、足立山を回って此処の反対側から迂回するのはどうだ? 此処から一直線に市街地を抜けるにしても明らかにキ・ガルシュ兵が多過ぎる。福岡県道二六四号を南下して、国道十号を通って湯川飛行場線を経由してから福岡県道二五号。そして、北九州カニ・カキロードに入って北上し、福岡県道七二号を通って関門橋近くまで進むルートだ」


 関門橋を渡る以上、どちらにしても門司港ICで九州道へは入る必要がある。とにかく騒ぎを最小限に抑えつつ、戦闘を回避しながら近づけるところまで進むしかない。

 俺はそのルートを指で示しながら言う。

 顎に手を当て、俺の示したルートについてアルは思考を巡らせている。


「山の間を抜ける七一号を通って二五号に出るルートはどうでしょうか?」


「それも少し考えたが、小森江駅との距離が近い。そうなると兵の数も多いと考えられるが?」


「……確かにそうかも知れませんね」


 その後も三人で案を出し合った末、俺が提示したルートで進む事に決定した。

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