魔法

 傍から見ると、アルの使う魔法が非常に便利なものであると感心してしまう。

 スマートフォンなどの科学技術の産物は、その大体が電気などの外部からエネルギーを供給しなければ使い物にならない。対して、魔法は己自身に存在する魔力を用いる事で使う事ができ、その魔力も食事や睡眠で回復できる。汎用性として見れば、魔法は非常に優れている。

 しかし、その反面として魔力保有量は個人で異なっており、その才能差が顕著となる。それ故に魔力保有量が少なければ、社会的にも虐げられる対象と成り得るらしい。だが、科学技術は誰もが同じように使用できる点に置いては魔法よりも優れている。

 結局、どっちもどっちなのだろうが、現在の状況としては魔法の方が有益である事は間違いない。使えない科学技術の産物は唯の荷物でしかないのである。


「一応ですが、純玲にも魔力を保有しているみたいですよ?」


 道中、アルがサラッとそんな事を言った。

 これでも去年は男子高校生だったのだ。そんなファンタジーな事に飛びつかない理由はない。


「え? と言う事は、俺も魔法が使えるのか?」


「はい。何となくですが、魔力保有量も大いにありそうです」


「そうなの?」


「そうなんです! 量としては……そうですね、シューヴァント先輩と同じくらいでしょうか?」


「おおッ……って、いやいやいや、そのシューヴァント先輩って誰なのさ?」


 全く知らない人物と同じと言われても、俺には解らない。それに気付いたのかアルも顔を真っ赤にして誤る。


「申し訳ありません。えーっとですね、シューヴァント先輩は私が通っていた魔法学院で生徒会長を務めていた人物です。それは優秀な先輩でしたよ」


 なるほど、どうやら俺はそんな優秀なシューヴァント先輩と同等の魔力保有量らしい。


「魔力保有量だけならばキ・ガルシュでは上位に食い込めますよ。ただ、それだけで強者になれる訳ではありませんが……」


 魔術式の理解度や込める魔力量、魔力の集積速度など一つの魔法を放つのにも技術を要するらしい。正しく才能がモノを言う技術だ。

 俺としても魔法を習得できるならば、そうしたい。

 アルはキ・ガルシュ軍に追われる身であり、当然攻撃を仕掛けられるだろう。その際の防衛をアルだけに頼り切るワケにはいかない。俺も自分の身くらいは守れるようにしたい。あとは女の子に守られているのは、ちょっとカッコ悪い。

 魔法にも様々な種類があるようで、俺とアルが自然に会話できているのは翻訳魔法のおかげらしい。翻訳魔法は大気中に漂っている微量な魔力で常時発動できる他、魔術式も複雑ではないようでキ・ガルシュ人が最初に習得する魔法でもあるようだ。


「魔法式を理解できれば、オリジナルの魔法――固有魔法を生み出す事もできます。その中でも強力な固有魔法を持つ者を『偉大なる魔法使いマギウス』と呼んでいます」


 自分だけのオリジナル魔法――と言えば聞こえは良いが、其処に至れる者は限られており、才能だけではなく、ちょっとした閃きなども関わるらしい。

 なお、アルも一つだけ固有魔法を有しているようだが、基本的に固有魔法の魔法式は他人に開示しない事が暗黙の了解となっているとのこと。

 アル曰く、開示したところで固有魔法の性質上、発案者にしか発動できないらしいが……。


「私の魔法性質は風です。よって、私は風系統の魔法式と相性が良く、その運用効率も他属性に比べてスムーズとなります。言ってしまえば、風系統の魔法であれば行使した際の出力が大きいという事です」


「へぇ……その魔法性質って直ぐに判るものなのか?」


「魔道具である『性質判断の鏡』があれば早いのですが、当然手元にはありませんので、各属性の初歩的な魔法を行使して、その使い易さで判断するしかありませんね」


 属性は火、風、水、地の四つが基本属性として存在し、其処から何らかの切っ掛けで起こる性質変化によって焔、嵐、氷、岩の属性にも適性を得るようになるようだ。その他の属性も文献上は存在するようだが、伝説みたいなものという事で説明は省かれた。

 とにかく基本四属性のどれに適性があるのかを知る為に、各々の基本魔法の魔法式を覚える必要がある。

 そんなワケで休憩がてら立ち止まり、アルは紙に風の基本魔法の魔法式を記す。


「????」


 その魔法式を見た俺だったが、まる意味が解らなかった。


「あー、申し訳ありません。純玲は翻訳魔法をまだ習得していませんでしたね。魔法式の文字はキ・ガルシュでも古代文字になりまして、翻訳魔法で翻訳して理解する必要があります。あと魔法式は古代文字で作成した場合のみ有効となりますので注意してください」


「ん? そうなると翻訳魔法の魔法式はどうやって理解するんだ?」


「それは簡単です。翻訳魔法の魔法式だけで使用する古代文字を覚えてしまうだけです。心配いりませんよ。キ・ガルシュの子どもたちは三歳くらいで習得しますので!」


「……マジかぁ」


 妙にやる気満々なアルを横目に、俺は思わず空を仰いでしまった。

 今日も空は青かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る