創作/ラプグロムに問う_1

ハイノメ

第1話

数ある記憶のうち、1番古い記憶はどれなのか分からない。

スラム街で"スィーフ_盗人_"と呼ばれ、その名の通り食料を確保していた事?それとも自分以外は信じてはいけないと知った時?


_"私の盾として仕えないか?"


どれも曖昧で、断片的で。

それでも、今でも鮮明に覚えている事。ハイメの世界はあの日から魅せ方を変えた。

*  *  *

ハイメは不意に目を覚ます。今日は誕生日。

....また1年、生きる事ができた。

ハイメはここ10年以上屋敷の外の景色を見た事が無かった。一日を屋敷の地下で体術、対話術、剣術の稽古をして過ごす。とはいえ、ここ数年は師範を超えているのでただAIと戦略勝負をするだけなのだが。

ハイメの友達は人型ロボット、"notitle"。彼らは皆、_個人差はあるものの_平均して人類と同程度の知能を持ち、人間の感情に限りなく近い"シコウ"というプログラムが埋め込まれてた。シコウは人型ロボットが持ち主と認めた人間の教育によって形成される。

人間の感情と唯一違う点。それは人間に対してとても友好的、という点だ。事実、1部を除いて、人型ロボットが人間を傷付けたことは無い。しかし所詮プログラム。シコウにもごく稀にバグが発生し、人を傷付ける考えに至り、実行する事がある。それを我々は"黒いシコウ"と呼んでいた。



汚いわけでもなく....寧ろ人が住むには綺麗すぎる部屋のソファに腰掛け、ふとテレビのリモコンに手をかける。

丁度、昨夜の事件の犯人による弁解が終わった所だった。

_notitleの失踪。本日で19日連続です。そこで国は有能メンバーを集め、失踪したnotitleの行方を追う「ラプグロム」を結成、現在ラプグロムの活動内容は明らかにされておりません。


notitleの失踪、ラプグロムの結成。これはハイメが地下にて生活している理由だ。ハイメは屋敷の持ち主の護衛となる事を条件に、8歳の時、スラム街から保護された。失踪が続いたのは1年前。ラプグロムが集めるのは国が厳選した有能メンバー。ハイメもその対象であった。存在を知られたら自分の護衛がとられる。そう考えた屋敷の主はハイメを地下にて生活させ、屋敷の外に行くことを許さなかった。

それでも地下の生活は特に不自由の無いものだったのでハイメは屋敷の主に従った。

*  *  *

秒針の進む音、何一つ落ちていないフローリング、灯りのない部屋。

何もかもシナリオ通り。乾燥した唇を舐める。

階段を降りる音、足音一つ出してはいけない。

そこにハイメは眠っている。まるで白雪姫。

それを見つめるオレンジの瞳。ナイフを持つ右手にもう一方の手を添え、腕を振り上げて、落ろす。

瞬間、ターゲットは瞼を開け、その手からナイフを奪いとり

_彼の喉仏に向けた。

「....誰の差金だ」

「へぇ。聞いていた通りだ。」

妙にオレンジの瞳が光っている。彼は続ける。

「君にはとある方から招待状が来ている。

....と、その前に部屋に灯りをともそうではないか。殺意と、君を傷付ける器具を持っていないからさ、調べてもいいぜ?」

両手を上げ、攻撃の意がないことを表そうとする彼。

ハイメは先程、ナイフを奪った時。微かに感じとった。彼はそこそこの実力者であると同時に、自分の方が1枚上手だという事に。彼がもし武器を持っていたとしても、ハイメの不意を突くことはできない。

ハイメはナイフを持っていない方の手で器用に胸元のペンダントを取り、ロウソク程度の灯りをつける。

「...これで満足?」

「さぁ?首の近くに置かれたコレをなんとかしてくれたら最高かな。」

コレ、と彼はナイフの刃先をトントン、と指さしている。ハイメは立ち上がり、ナイフを持った手を広げる。落ちたそれは丁度彼の足と足の間の床に突き刺さる。彼はそれを見て「やっと次に進めるよ」と溜息をつく。

「君に届いた招待状。

君はとても有能だ。国が作ったチームのメンバーになれるぐらいには。チームのメンバーになれば視界は広がるだろう。時間を知らせる時計塔、お洒落な服を着たマネキンとショーウィンドウ、あとは...アー、ウン、やっぱり前置きを置くのは苦手なんだ、単刀直入に言おう。

....ラプグロムに入らないか。」

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