誰カノ過去 一
___くらん、ぐらぁん。
目眩がした。
目の前は真っ暗で、肺が圧迫されたように息苦しくて空気が入ってこかった。
まだあの黒霊の領域だというのか。それとも、意識が落ちる間際に見た九尾の領域なのか。
それとも……俺はついに死んでしまったんだろうか。
行き着いた思考、真っ暗な視界。朦朧とする意識の中。
ふと、俺の耳に箏の音が聞こえた。
一定のリズムで弦を
俺はぼんやりと、何が映るわけでもないのに瞼を上げた。
「___彩椿さま」
『っ……⁉︎』
何も見えまい。そう思っていたら美女が現れた。
それ、何て名前のドッキリ番組かな?残念、現実……ということにしておこう。現実だよ。
突然の声と麗しすぎる視覚の暴力に、俺は目をパチクリとした。どうやら、薄ぼんやりとした照明の部屋で、着物姿の美女に寄りかかられているらしい。
………は?
物理の暴力より視覚の暴力の方がしんどい、心臓が千切れそうなんだが??
真っ暗でしかなかった視界がようやく晴れたと思ったら、和装美女が目の前に?
何を言っているかわからない?俺も今の状況が理解できない。
頭でも打ったのだろうか。いや、確実に打っているんだろう。あの黒霊は異様な程強かったし………とりあえず、上体を反らせて上目遣いをしてくる美女から距離を取るか。もう一回死ぬ前に。
ぐぐぐっと反り返って____
反り返れなかったわ。
目線も距離も、一ミリも変わらない。拷問ですか。
いや、マジ。
傾国という言葉がピッタリ似合う。そんな人だ。
それが!しなだれかかって!きてんだぞ⁉︎
残念ながら、女性から熱視線を注がれるほど俺はイケメンじゃない。慣れてないんでそろそろ死にますが?
だからね、金縛りか何か知らないけどやめてくれませんか。
妖なの?貴女、意思疎通は図れるの??
俺は、困惑するまま口を開いた。
「どうかしたかい、桔梗?」
『っ……はぁっ⁉︎』
勝手に動いた口と、自分ではない声。ついに声が出てしまうが、目の前の美女は特に驚いた様子も無い。
意図せずの言葉をトリガーとしたのか、俺の身体は勝手に動き始めた。
そしてあろうことか、手にしていたお猪口に口付け、日本酒らしきものを一息に呷った。
俺まだ未成年だよ⁉︎
親戚のおじさん達が絡んできても、上手くかわして飲まないでいたのに!
彼女は潤んだ瞳でため息をついた。
「……彩椿さまはいけずでありんす。」
……え、いけず?えっと、意地悪って意味だっけ、確か。と言うか誰だよ彩椿。
「
鈴のような声が、彼女の口から
物理でお祓いします! 夏 雪花 @Natsu_Setsuna
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