第12話 調査


「『氷槍アイスランス』」


 影から出てきたシャドウウルフロードの胸元に、氷の槍が突き刺さる。

 傷を負ったシャドウウルフロードは再び影に潜ろうとするが、その前に土石の波に飲み込まれる。

 

「『氷結フリーズ』」


 シャドウウルフロードが埋もれた土を上から凍らせる。

 しばらく待つと、魔力の反応が無くなった。


「うーん……」

「影に潜れるのは中々面白い固有スキルだが、大した脅威ではなかったな」

「そうだなー。やっぱあのオークは例外だったのか?」


 現在俺達がいるのは横浜大迷宮の40階層。


 なんとかオークエンペラーを倒した俺達A組は、無事に地上に戻りそのまま解散した。

 何故か俺がオークエンペラーを倒した時は皆黙りこみ、その後誰かと話すこともなかった。まぁ、これがデフォルトだから慣れてるけど。

 が、その時の時間はまだ3時で、まだ時間に余裕があった。

 俺は一緒に帰ろうと誘ってきた綾音に断りを入れ、露店で食べ物を買ったのち、シルヴィスと共に再び大迷宮に潜っていた。

 その目的は主に二つある。


 一つ目は、他のボスの調査。他の階層でもオークエンペラーのような明らかに難易度設定をミスったかのようなボスがいるのかを確かめるためだ。

 今攻略した40階層のボス――シャドウウルフロードは、特殊個体ではあったものの、体感的な強さはAランクにも達していなかった。

 やはり、あのオークエンペラーは魔王の影響とは別の例外的な何かによって生まれたと見ていいな。あの硬い鎧を含めれば、恐らくA⁺ランクの戦闘力はあっただろうし。


 二つ目の目的は、刀の性能を確かめること。30階層までの道中ではすっかり忘れていたし、オークエンペラーとの戦いではそんな余裕はなかった。

 40階層までの雑魚敵でいろいろと試してみたが、やはり便利だ。

 火属性の付与はトレント系統や虫系の魔物が狩りやすくなったし、風属性の斬撃を飛ばすことで剣でも遠距離戦闘が出来るようになった。


「さて、どうしようか」

 

 40階層のボスを倒したので、一度地上に戻ることが出来る。

 一応、目的は全て達成できたのだが、時間的にも体力的にもまだまだ余裕がある。


 実は、30階層から40階層までの攻略には2時間くらいしかかかっていなかったりする。

 30人と2人では移動速度も段違いだし、戦いもほとんど一瞬で終わらせているから進むのが早いのなんの。

 

「俺としては、50階層まで行ってもいいと思うが」

「やっぱそうか?」

 

 オークエンペラーを除いたここまでのボスの強さからして、50階層のボスはAランククラスの魔物だろう。

 だがまぁ、こっちはAランククラスが二人いるし。


「行くか」






 41階層以降の魔物はほとんどがBランク以上であり、特殊個体も多く見受けられた。

 特殊個体の魔物は、それぞれが種族固有のスキルを持っている。

 40階層のボス、シャドウウルフロードの影移動もその一つだ。


 ユニークスキルや種族固有スキルのようなスキルは、魔法と違い仕組みがまったく解明されていない。

 魔力を使用するが魔法陣の構築は必要としないし、同じスキルを持つ人に共通点があるわけでもない。

 でも、なぜか皆が自分のスキルのことを自覚し、理解している。不思議なもんだな。

 分かっているのは、スキルを使用すれば使用するだけ練度が上がっていき、稀に能力が開花することくらいだ。俺の【融合】の変形なんかが良い例だな。

 変形が開花してからもう4年くらいは経つし、そろそろ新たな技能が開花してもいいと思うんだけどなぁ。


 折り返し地点の45階層に降りる。

 45階層のフロアは、これまでのフロアよりも一回り広かった。天井の高さも軽く10メートルは超えているだろう。


「って……」

「モンスターハウス、だな」


 俺たちの目の前に群がる魔物たち。

 ウルフ系、オーガ系、トレント系と、今までの階層で見た魔物たちが混在した姿はまるで軍隊だ。

 数は少なく見積もっても200体以上。 

 魔力感知で探る限りだと、A⁻ランクの個体もちらほらといる。


「面倒だな」

「ま、広くなったから大規模魔法で殲滅すればいいか」


 まだ魔物たちと離れているし、距離を詰められる前にさっさと殺ろう。


「融合魔法、『吹雪ノ剣ブリザードスラッシュ』」


 魔物を吹雪で凍らせて固定してから、氷の剣で切断していく。

 融合魔法は一見二つの魔法を同時に使っているだけのように見えるが、実は元の魔法より威力が上がっている。だから、二つ以上魔法を使うときはとにかく混ぜ得だ。


 結果、火属性を扱える魔物と一部の上位の魔物以外は一掃することができた。残ったのは約40体ほど。融合さんマジでチート。


 二手に別れ、残ったヤツらを近接戦闘で倒していく。


「『風斬撃エアスラッシュ』」


 魔法使いタイプの敵は、剣から風の斬撃を飛ばして牽制する。

 やはり便利だな。剣一本で近距離から遠距離まで対応出来るとかなり楽だ。


 こうして1分もしない内に、残った魔物の掃討がほとんど完了した。

 残ったのは3体。こいつらが最初に感知したA-ランクオーバーのヤツらだろう。

 トレントの上位種で、長寿な魔物として知られているエルダートレント。

 不死系統の中でも上位の戦闘能力を持つアンデッドナイト。

 コウモリのような翼を持つドラゴンの亜種、ワイバーン。


「これ、どっちかが2体相手にしなきゃいけないじゃん」

「俺はワイバーンの相手をする。残り2体は頼むぞ」

「ですよねー」


 一応これでも、俺はコイツの主だからな。俺が2体の相手をするのは当然。

 どちらもオークエンペラーよりは弱いと考えればまだ……それでも2体はキツいんだよなぁ。


 とりあえずトレントは火属性のエンチャント焼いて、アンデッドナイトは光属性魔法で何とかすればいいか。

 そういや、まだ無属性のエンチャントを試してないっけ。丁度いいし実験台になってもらおう。








 



 


 


 


 

 



 

 

 







 

 

 



 



 



 


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現実世界に転生したら魔法があったので、やりたいことやって好きに生きることにした。 周防 @reazMK

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