職人の正体
勇が完全に自分の意識を取り戻したのは砂浜で弥生と別れてから1週間後だった。
彼は、何故が墓場にいた。
真っ黒な喪服に身を包み。周りには親族が数人と、信作、壮太の姿もあった。
そして、自分の持っている物に驚いた。
弥生の遺影なのだ。
ここで勇の意識ははっきりして来た。
これは、弥生の葬式であり。弥生は死んでしまったのだと、自覚した。
親族は墓に手を合わせると、続々と帰っていく。みな、勇の前で頭を下げる。
信作と壮太もやってきた。
「いや。ほんとに驚いたよ。あんなに元気だった弥生さんが心臓発作で亡くなるなんて」
信作の言葉でさらに意識がはっきりした。
そうだ、弥生は先日心臓発作で倒れたのだ。救急車を呼んだが間に合わなかった。
まさか、妻に先立たれるとは、勇は病院で涙した事も思い出した。
しかし、何故だろう。
その記憶の裏側であの砂浜が見え隠れしている。なんの記憶だろうか。
しかし、考えても頭が痛くなるだけだった。
「ああ。信作、壮太くんありがとう。突然のことで俺も驚いた。でも、晩年は楽しかったと思うよ。俺たちのミステリーサークル制作、弥生も喜んでくれたしな」
こういった直後、勇はポケットの中に重さを感じた。
弥生にプレゼントしたネックレスがあったのだ。勇は涙をこらえた。
「こんなタイミングで悪いんだか、あるテレビ局に俺たちのミステリーサークル制作がバレちまったんだ。そろそろやめにしないか」
信作は意を決してそういった。
壮太には事前に話してあり、彼の覚悟は決まっているようだ。
「もちろん、弥生さんの事が落ち着いてからで大丈夫だ」
「そうだな。この際だ、公表しよう。信作そのテレビ局に連絡しておいてくれ」
三人は、サークル制作者として名乗り出ることを決めた。
その夜。
勇は一人寂しく家の中で、これまでのことを思い出そうとした。
ミステリーサークル制作は覚えている。しかし、前回の砂浜以降の記憶が曖昧だった。
それに、銀行口座にかなりの金額が入っていることに気づいたのだ。
調べて貰うと、弥生の生命保険だと言う。
そんなものに加入していたとは全く知らなかった。
しかし、勇が慎ましく暮らすには十分だった。
甥に農業車両を買うことも考えていた。
でもなぜ、三人はミステリーサークルなど本気で作っていたのだろうか。
考えれば考える程、頭痛と眠さが襲ってきた。
まるで、見えない何かが、これ以上の記憶を閉じ込めて解放させないようにしている感覚だった。
「では、御三方がこれまでのミステリーサークルの制作者という事でよろしいんですね」
東京のテレビ局内で取材が行われた。
「そうです。発案したのは私です」
信作は自信満々に答えた。
「どう言った理由で始められたんでしょうか」
「イギリスでミステリーサークルが発見されたって話題があったでしょう。私と月島は農家を引退して暇でしてね。色んな場所に作ることにしたんですよ」
「では次に、なぜ月曜日の朝発見されたのでしょうか」
「それについては俺が話します」
壮太が手を挙げた。
「元々、信作さんと勇さんが始めらてたサークル制作を偶然見かけてしまったんです。そして仲間に入れて貰いました。月曜日の朝に発見されたのは、僕の仕事が日曜休みだったからです」
「そうでしたか。では、月島さん。どのように制作しましたか」
今までほとんど喋っていない勇にアナウンサーが尋ねてきた。
「はい。信作が杭で形を決めて、私と壮太くんで農機具や足で踏んだりして作りました」
「そうですか。では、隣のスタジオにセットがありますので、実演して頂きましょう」
そんな事もするのかと驚いたが、取材は終わった。
数日後放送されると、大反響だった。
大黒建設の事務所は電話が鳴り止まず。
壮太はそこそこの男前だったため、女性ファンが現れたりした。
しかし、壮太は朝美一筋を貫いた。
下槻は度々テレビに出ていたが、プラズマ説を唱えるが、言い方は前よりソフトなぜものとなっており、様々な説に共感を示していた。
また、放送日には偶然が起こった。
なんと、イギリスのミステリーサークル制作者も同日に名乗り出たのだ。
イギリスの制作者も引退農家の、ダグ・カーンとデイブ・ステッドという老人が制作していた。
やはり、どんな物事にも理由があるのだと思った。
彼らのミステリーサークル制作理由もやはり老後の暇つぶしと話題作りだった。
勇の元にはあまり人が来なかった。
取材であまり喋らなかったので、近寄り難い人物と思われたのだろう。
マスコミは信作か壮太のもとに集まっていた。
ある夜、勇は目が覚めた。別にトイレにいこうとした訳では無い。
勇は、弥生の形見のネックレスを握ると導かれるように初めてミステリーサークルを作った田んぼに歩いた。
春とはいえ、夜は寒い。
しかし。勇の足が止まることはなかった。
全く根拠は無いが弥生に会える気がした。
田んぼに着いたが、今年は休耕田である。
僅かに雑草が生えているだけで、何も無い。
ただ、右手に握りしめたネックレスが手にくい込んで痛かった。
「弥生。なんでいなくなってしまったんだ。弥生がいないと俺は…」
その時、月明かりとは違う眩い閃光が勇を照らした。
すると目の前に、謎の飛行物体があり。
目の前には、弥生がいた。
飛行物体への驚きは何故かなかった。
記憶の奥に同じものがあった。
「弥生。弥生なのか」
「勇さん。私のことは忘れて。ずっと見守ってます」
「まってくれ。弥生。お前は何者なんだ」
「あなたを見守る宙の上の存在よ」
弥生の手が勇の頬に触れた。
勇の顔を涙が伝った。
目覚めると勇はベットに横になっていた。
「夢か」
しかし、勇の右手にはネックレスを握り締めていた感覚がある。
しかし、弥生の形見のネックレスは家のどこにもなく。
昨夜の夢もだんだん忘れてしまった。
そうして、サークル・クラフトマンの任務は終わった。
サークル・クラフトマン 栗亀夏月 @orion222
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