夢から覚める時

「さて、ここからが重要です。皆さんは知りすぎてしまった」

勇の呼びかけに一切反応せず、弥生は続きを読み上げ始めた。

いや、読み上げると言うより脳内にある言葉がカセットのように再生されているようだった。

「まさか、俺たちは消されるのか」

信作が呟く。すると、壮太も怯え。その場から逃げ出そうとした。

「お待ちください。今日の依頼が最後です。そして、これからあなた方三人と。後ろにいるふたりの記憶を改ざんします」

後ろのふたりと聞いて、勇と信作はやっと正彦と朝美の存在に気がついた。

「そっか。これで終わりってわけだな」

信作は諦めたようにその場にあぐらをかいた。壮太も真剣な顔で弥生を見つめた。

しかし、勇は納得がいかない。

「まて!弥生はどうなる。なぜ、お前たちの代弁者のようなことをさせられてるんだ」

すると、弥生の目に人間らしい光が戻った。

そして、勇のもとに歩み寄ってきた。

「勇さん。ずっと嘘をついてたのは私なの。終戦直前の日本に調査として来た私は、あなたに一目惚れした。ずっと愛していたわ。ありがとう」

勇は弥生を抱きしめようとした。

しかし、彼女の身体は宙に舞い。未確認飛行物体に近づいた。

それは天女が空に昇るようだった。

そして勇は思い出した。

不思議な存在だった彼女。あまりに世間知らずだったこと。子供が出来なかったこと。

なんとなく、わかっていたのかもしれない。

彼女が人間では無い、遠い存在だと言う事に。

「弥生。俺は忘れないぞ。記憶を消されても、絶対に!」

閃光が瞬いた。

それは五人を包み込んだ。



「うーん。これは完全にミステリーサークルですね」

朝美は砂浜のミステリーサークルをじっくり眺めていた。

「下槻さん。どう思いますか」

正彦も腕を組み、砂浜の模様を見ていた。

「おいおい、確かにこの文字のような物はプラズマとは関係無いかもしれないが、プラズマで決まりだな」

「じゃあ、この港町で失踪者が相次いでいることはご存知ですか」

「それは、偶然以外の何物でもないね。とにかく、プラズマで決まりだ。譲れないよ」

「いいえ。未確認飛行物体が飛来したんです。この文字はどこの国の言語でもありません」

朝美は今まで通りのセレオロジストだったし、正彦もプラズマ発生説から揺らいだりしたなかった。

しかし、正彦はテレビ出演などは控えるようになった。

なぜなら、心のどこかで未確認飛行物体を信じている気持ちがあったからだ。

そんな中途半端な気持ちで日本中に情報を発信する訳にはいかなかった。

しかし、なぜ急にそんな気持ちがわきあがったのか、彼には分からなかった。

とにかく、何かを見たような気がした。

しかし、それは夢だったのかもしれない。そう思う日々だった。



最後の依頼から数日が過ぎた。

「信作さん。俺を大黒建設に雇ってくれるってほんとですか」

壮太は信作に呼ばれて事務所を訪れていた。

「ああ。銀行口座にどっかの援助団体から多額の寄付があってな、事業の拡大と従業員の増加を考えてる。壮太くんは、大きい声では言えないがミステリーサークル作り手伝ってくれただろう。いい仕事ぶりだったから雇おうと思ってな」

信作、壮太にはミステリーサークル制作の記憶はあった。

しかし、UOの存在。宇宙人との存在については完全に忘れていた。

また、UOからの報酬も別の形に置き換わっていた。

「信作さんから直々にお願いされるなんて、嬉しいですよ。ぜひお願いします」

壮太は喜んで話を受けると、待たせている人物のもとに向かった。


壮太の気持ちは弾み、スキップしながら村で唯一のカフェに入った。

「おひとり様ですか」

「いえ。待ち合わせです。あそこの彼女と」

壮太が指差す先には、朝美がクリームソーダ片手に手を振っている。

「お待たせ、朝美さん。俺大黒建設に雇って貰えることになったよ」

「あら。宇宙人の声が聞こえる嘘つきさんが、良かったわね」

「あの事はすまない。せっかく他県の砂浜まで来てもらったのに。俺は朝美さんの気を引きたくて、それで…」

「いいのよ。壮太さんのこと嫌いじゃないし」

「今なんて!」

「何度も言わせないでよ。また今度言うわ」

「なんでだよ。教えてくれよ」

壮太が朝美にUOからの依頼の内容をバラしたことは変わっていない。

しかし、現場では何も起きなかったと言うように記憶が変わっているようだ。

しかし、五人が去った後、サークルが出現し、朝美はそれを正彦と見て論争をしていたと思い込んでいる。

「とにかく、またミステリーサークルが出来たら一緒に観にいきたいね」

これは壮太にできる最大限の誘い文句だった。

「何よ急に。壮太さんとなら動物園だって、水族館だって一緒に行くわよ」

「ほんとかい!嬉しいな。早速明日はどう」

「急すぎるわ。大学の講義があるもの。今度の日曜日にしない?」

「もちろん!」

朝美と壮太はいい感じだった。

ある意味ミステリーサークルによって距離が近づいたと言ってもいいだろう。

しかし、二人とも心の奥に閉ざされた記憶があることをなんとなく感じながら生活を送っている。

なぜミステリーサークルを作るに至ったのか、朝美はなぜ壮太に心を引かれたのか。

本人達には分からない。

しかし、全ては操られた結果なのかもしれない。



信作は壮太を送り出したあと、事務所でぼーっとしていた。

突然の大金。ミステリーサークルを制作していた記憶。なぜ壮太と知り合ったのか実は曖昧だった。

そんな彼のもとに電話がかかってきた。

「もしもし。私、日本中部テレビ局のものなんですが、とある情報筋から大黒信作さん、月島勇さん、星野壮太さんが去年から話題のミステリーサークルの制作者では無いかという情報を得ました。つきましては、取材させて頂けないでしょうか」

この時の信作には断る理由もなかった。

UOの存在を忘れていたからだ。

目立ちたがり屋の彼は、そろそろ世間に打ち明けて注目を得たいと思っていた。

「そうですか。バレましたか。仲間と相談の上、ご連絡します」

その後、軽いやり取りを済ませると信作は受話器をおいた。

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