オタクの向こう側
神林ストーカー説に驚きを隠せない森田。
山口は様々な証拠を提示した。
まず、週刊誌の編集長から聞いた男の影。ストーカー説。
最近こちらに引っ越して来たこともマツリンを追って来たと考えられる。
縄跳び、お化け屋敷タックル事件のエピソードや、松園が偽名と知っている事。
メンバーやスタッフしか知りえないタコパの事実と、そのプライベート写真の保持。
実に恐ろし事だが、ストーカーとも言える。
山口達になぜ情報を明かしたのかは不明だが、ストーカー特有の自己顕示欲なのだろうか。
それだけ説明すると山口と森田は無言で神林を追跡した。
彼はマンション街に入った。
山口はこのマンション街は週刊誌の記者にとっては最高のスポット。つまり、芸能人が多く住む場所だと知っていた。
アイドルが住んでいてもおかしくない。
すると神林は慣れた足取りで、高層マンションに入った。
インターフォンを鳴らし、少し言葉を交わすとエレベーターを使う程ではないのだろうか階段で登り始めた。
山口は一連の動きを見ていた警備員に話かけた。
「今の青年。よくここに来ますか」
「ええ。しかし、すぐに帰ったり。時には1時間程滞在したりまちまちですね。どうかしましたか」
「彼がストーカーかもしれないんです。念の為警察に連絡をお願い出来ますか」
「ええ。でもその根拠を教えて頂けると」
山口は今すぐ神林を追う必要があった。
その場を森田に任せて階段をかけ上がった。
ちょうど扉が開けられる音が聞こえた。
3階か4階だろう。急いで登ると、4階の扉が開け放たれており、廊下の先に神林の姿が見えた。
片手にタコ焼きの袋をもち、ゆっくりと歩く神林。山口の予想がただしければ、マツリンが危ない。気づかれないように神林の行動に注目した。
「山口さん。お待たせしました。警察読んでくれましたよ」
森田が戻ってきた。それから2人は神林を睨むように見つめた。
神林はある部屋でインターフォンを鳴らした。すると、すぐに女性が現れた。私服で髪型も違うがおそらくマツリンだろう。
2人の言い争う声が聞こえる。
「今日は来ないで」「勘違いされる」「お前の事を思って」など、口論はヒートアップしている。
耐えかねた森田が飛び出し、山口と警備員も後に続いた。
「神林くん。そこまでだ!」
森田と山口は神林を捕まえる。
驚き戸惑うマツリンを警備員が室内に戻るように指示を出す。
マツリンは何か言いたそうだったが一度室内に戻った。
「神林くん。君はなんでこんなことをしたんだ」
森田が問い詰める。しかし、神林は何も語らない。
「大切なオタク仲間を疑いたくないが、ストーカーじゃないだろうね」
山口も振り絞るように言ったが神林は目も合わせない。
すぐに警察が到着した。
通報時にサイレンを鳴らさないようにお願いしたそうで、実に静かな登場だった。
神林は警察が現れても暴れる素振りさえ見せなかった。
「ストーカー事案と伺いましたが、詳しくお聞かせ下さい」
警察がそう言うと、神林は小さく息を吸った。
しかし、扉が開かれて。少しメイクをして、髪の毛と服装を整えたマツリンが現れた。
「すみません。この人私の兄なんです」
そして深く頭を下げた。
「神林くんが、マツリンの兄!」
山口は衝撃で頭がクラクラした。
「兄は、両親から私を連れ戻すように言われて東京に来たんです」
警察とマンションの管理人が見守る中、事務所で山口たちはマツリンの話を聞いている。
チェキ撮影会位の距離感で心臓が飛び出そうだった。
「今確認が取れました。神林蓮さんと神林凜音さんは兄妹です」
警察官が電話を切るとそう言った。
山口は脳内でこれまでの事を兄妹だとして考え直してみた。
もちろん縄跳びが上手いとこは知っている。遊園地に一緒に行っていたのたらお化け屋敷タックル事件も見ていただろう。
苗字が神林も言う事も知っていたがもちろん言えない。
メンバーとのタコパ。その写真も得られるかもしれない。
また、ダンスと歌の上手さは遺伝だとすれば説明ができるし。
マツリンも神林も美形である。
そして、何より兄の影響で小一からダンスをしている。この兄こそが神林蓮なのだろう。
「仲良くしてもらったのにこんな嘘をついててすみません」
神林はやっと口を開いた。
「妹の言う通り、僕は始め両親から妹の見張り、もしくは連れ戻すように言われてました。だけどライブに言って妹の頑張る姿とそれを本気で応援してくれる人に出会って変わりました」
山口は納得した。始めたあまり乗り気ではなかったのはその為か。また、妹のサイン会とチェキ撮影会は兄としては行きづらい。
「でも、神林くんはなんで俺たちに匂わせ的に色々喋ったんだ。関係者もしくはストーカーって言ってるようなもんじゃないか」
森田が質問した。それにはマツリンが答えた。
「それは。兄はアイドルの仕組みとか、ルールとか分かってなくて。あと単純にバカなんです」
思わず全員が吹き出した。
「山口さんたち、何笑ってるんですか!妹が心配で大切だから話しちゃったんでしょ!兄の優しさですよ」
一同は爆笑しその日は楽しく終わった。
それから山口と森田は行動に困った。
悪用はしないとはいえ、マツリンの住所と兄を知ってしまったのだ。
しかし、神林は二人に寛大だった。
「僕より口が硬そうなんで大丈夫ですよ。それより、僕が暴走しないか見張って下さい」
そう言って、三人はまたオタク仲間として復活した。
神林は妹を応援し、山口と森田は神林を見張り、マツリンのプライベートは聞かない。神林の事は秘密にするなどいつくかの条件のもと適度な距離感で接している。
「レモンジュース」のエースモカピの卒業公演では三人で涙した。
モカピは24歳で卒業した。
神林のマツリンは24歳まで卒業しない。という発言はマツリンはモカピをリスペクトしており、モカピに習って24歳まではアイドルをすると宣言したのかもしれないと思った。
謎は全て解消された。
三人のオタ活はこれからも続く。
三人のオタク 栗亀夏月 @orion222
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