確信
それから1週間後ライブがあった。
神林のオタクっぷりもなかなか良くなっている。
一部界隈ではイケメンオタクとして話題になり、ライブのあと女性オタクが写真撮影に訪れる事もあった。
もちろん、山口と森田がシャッターを切る係だ。
この日のライブは午前中という事もあり、語り合う会は開催しない事にした。
都内の会場だったが、山口と森田は電車で、神林は家が近いと言って歩いて帰った。
「神林くん。家がこの辺だったんですね」
電車を待つ間に森田が言った。彼は先程まで全身黄色コーデだったが、さすがにそれで電車に乗る勇気は無いようで、駅のトイレで着替え終えていた。
「そうらしいな。この辺なら確かに家賃も高くないか」
「小さいアパートで一人暮らしって言ってましたもんね。でも、モテるんでしょうね」
森田は少し憎たらしそうな顔をした。
そういう森田だが、山口からしたら美形な方だと思う。
「エンジェル・アイを見に来たのか、神林くんを見に来たのか分からないような女性オタクもいたからな」
山口が言うとちょうど電車がホームに到着した。
それから、2人は当たり障りのないライブの感想を述べ。
これからの展望を予想し、次のサイン会とチェキ撮影会について相談をした。
山口にとったチェキ撮影会は初めてではないが、やはり緊張する。すぐ隣にマツリンがいると思うと、考えただけでドキドキである。
今どんなポーズが流行っているのか。どんな自己紹介をすればいいか。山口よりはチェキ撮影会の経験のある森田に尋ねた。
「それはノリですよ。前の人と同じでもいいし。あえて山口さんの昭和の感じがウケたりするんじゃないですか」
「それでいいのかな。ピースとかでいいなか」
「大丈夫っすよ。自信もって下さい」
そんな訳で相談も終わり。山口と森田が次会う現場はサイン会とチェキ撮影会に決まった。
神林にその日は参戦するか聞いたが、仕事のため不参戦だと言う。
ドキドキのサイン会とチェキ撮影会が終わり、マツリンとのツーショットは山口の家宝となった。しかし気を緩める事はできない、翌週はビックイベントである。
「レモンジュース」と「エンジェル・アイ」の合同ライブであるら。
会場もデカい。倍率も高かった。
何とか三人ともチケットを手に入れ、語り合う会の場所まで先に決めた。
三人にとっては待ちきれなかった。
山口は取材の現場にペンライトを持ってきてしまい恥ずかしかった。
森田も、黄色の靴下で出勤してしまいコンビニで買い換えたという。
神林は当日までにコールを完璧にしたいと言い、特にマツリンパートの練習に余念がなかった。
そして迎えたライブは言語化不能ライブだった。
山口はライブの感想などを取材力向上の為にパソコンに打ち込んでみたりするのだが、今回ばかりは何も打てなかった。
まずは、モカピとマツリンのユニットでの歌唱があり。
その日が誕生日の河咲結乃にはサプライズもあった。
「レモンジュース」の曲を「エンジェル・アイ」が歌い。「エンジェル・アイ」の曲を「レモンジュース」が歌うなど。
コラボならではの演出が見るものを唸らせた。
そんな素晴らしいライブの余韻を引き連れて語り合う会の会場である、近所の居酒屋に入った。
ちなみに今日の会場は前回のライブと同じ場所であり、この居酒屋も近所だと言う神林が見つけてくれた。
それぞれが語り合い、感想をぶつけ、酒も回り始めた頃、神林がマツリン情報を話始めた。
「この前サイン会があったらしいじゃないですか。あの後エンジェル・アイのメンバーでタコパしたらしいですよ」
「なんだ。タコパって」
山口はタコパを知らない。神林と森田が説明する。
「それ以来、マツリンはタコ焼きにハマってるらしいですよ」
「神林くん。そんな事ブログとかSNSに載ってたかい」
森田が聴くと、神林はとぼけた顔になり。
「あれ。この前ラジオで言ってませんでした」と言った。
山口は酔いが冷めるような気がした。
「この前のラジオは研修生組三人の質問返答コーナーだった気がするが」
山口の言葉を神林は笑って誤魔化す。
「あー。じゃあこの写真を見たんだ!」
すると、神林はスマホの画面を山口と森田に向け、写真を見せた。
それは「エンジェル・アイ」のメンバー5人が楽しくタコパをしているものだったが何かがおかしい。
背景が飲食店でも、楽屋でもなく住宅のように見える。
また、窓があり外の景色が若干見えている。
こういう場合、防犯上の観点からぼかしたりするものだ。
「この写真どうやって手に入れた」
山口の口調は思わず鋭くなってしまった。
「あれ。SNSに載ってませんでしたか」
「俺は見てないっすね」
森田も不審な顔をする。
少しの沈黙が流れ。山口は嫌な予感がした。
しかし、それを本人に確認する勇気は出なかった。
森田はライブの話題に戻り、少し雰囲気が戻ったが10分程すると神林が席を立った。
「すみません。俺、家に戻ってやることありました。代金置いてくんで山口さんと森田さんはごゆっくり」
山口は止めようとしたが、手遅れだった。彼は店を出てしまった。
「急にどうしたんですかね」
森田は串焼きを食べている。
「まずい。森田くん。追うぞ」
「なんでですか。追うなんてどうして?」
「歩きながら話す」
山口は素早く、会計を済ませると居酒屋を飛び出し。神林の歩いて行った方向に走った。
まだ間に合うはずだ。
「山口さん。待ってくださいよー」
森田は足元がおぼつかないがついて来る。
そして、すぐに神林を見つけた。
駅前のタコ焼き屋さんでタコ焼きを購入していた。
そして、向かったのは前回家に歩いて行ったのとは逆の方向だった。
「あれ。神林くんの家って逆の方向ですよね」
「森田くん。説明するからよく聞いてくれ。神林くんはマツリンのストーカーもしくはよりを戻そうとする悪質な元彼の可能性がある」
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