#90 楽な☆ミーティング。
――業務連絡ッ!
フレースヴェルグが放った火球を、スルトくんが切り伏せてくれました。
炎を纏った大剣は蒸気を放ち、高温の鉄のように赤く輝いています。
よかった。
スルトくんが助けてくれなかったら、既にボロボロの邪竜さんがどうなっていたか。
「スルトくん、助けてくれてありがとう!」
「まかせて! ボクはラクナおねーちゃんに教わってから、まいにち筋肉トレーニングをかかさずやっているんだ!」
むむ! 筋肉トレーニング!
『――おい私の筋肉!』
『――おいボクの筋肉!』
スルトくんの腕が心なしか太くなっている気がする!
私はスルトくんに教えたその日から一度も筋肉トレーニングをやっていないのに!
すごいぞスルトくん!
「ウオッホッホッホ! おチビの男の子、助かったぞい!」
「ボクはおチビの男の子じゃないよ! 偉大なるムスペル族の英雄スルトだよ!」
「うむ、お主は間違いなく英雄! おチビの
いや
それにしても、どうしてスルトくんがここに?
しかもあんなに大きな大剣、どこで手に入れたんだろう。
シンモラさんの宝箱かなあ。
だとしたら、どうやって収納されてたんだろう。
ティルみたいに刀身がふにゃふにゃなのかなあ。
「あれは焔刀レーヴァテインじゃな。シンモラめ、とんでもない物を持っておったのう」
ん?
今の可愛らしい声は?
キョロキョロと辺りを見回すものの、見当たらない。
すごく聞き覚えのある声だったと思うんだけど……。
ふと、視線を下ろす。
すると、フレースヴェルグのちょうど眉間のところに小さな青い鷹が止まっている。
私はフレースヴェルグの頭の上に乗っているので、割と目の前だ。
あれ、いつからこんな鷹留まってたんだろう。
それに青い鷹って。初めて見た。
フニンさんのお友達だったりするかなあ?
私がまじまじ見つめていると、青い鷹は振り向いてこちらを見上げる。
ジト目で可愛い。
けど、誰かに似ているような気もする。
「ふふふ。またすぐに再会するとは思うとらんかったぞ、ラクナ」
むむ。さっきの声はこの青鷹さんの声か。
てゆーかシンモラさんのこともだけど、私のことも知ってるの?
「再会? えーっと、どこかでお会いしましたっけ?」
青鷹さんは「あっ」と一言つぶやき、こちらに背を向けた。
咳ばらいをすると、仕切り直したかのようにもう一度こちらへ振り向く。
「初めましてじゃな。
大鷲の王にして眉間の管理人??
この青鷹さんはなにを言ってるの?
「あ、ど、どうも初めましてべずるへろりろるさん」
「噛み噛みじゃな」
名前も長くて覚えられないし!
「まあそんなことはどうでもよい。状況を見るに、案の定神の使いに妨害されておるようじゃの」
「そうなんです。上空にはワタリガラスの二人に似た黒いローブの人たちが沢山居て、帆船には狼の獣人が二人乗ってきて……」
「その中でもやはりこのフレースヴェルグが一番ヤバいのう。神々の国でも『黒い怪物』と恐れられるほどじゃしな」
うう、そんなにやばい怪物なんだ。
確かに神であるトールでも、全然止められてなかったしなあ。
あれ。黒い怪物。どこかで聞いたような。
『――奈落に凶悪な魔物って、本当にいます? 正直、今のところ出会ったことないんですけど』
『――俺も詳しいことは知らねえが。魔物が封印されて落ちて来たとしても、黒い怪物が全部食っちまうんだとよ』
前にフェンリルがそんなことを言っていたような。フレースヴェルグのことだったんだ。
ともあれ、英雄スルトくんのお陰で火球での被害は心配なくなったけれど、フレースヴェルグ自体をどうにか出来たわけじゃないし……。
とはいえ無視してミズガルズへ行ったとしても、掟なんて関係なく一緒について来そうだし……。
『きゃああああ! なんか勇者と魔王が化け物を連れてやってきたわあ!』
「あ、その。ごご誤解です!」
『やっぱり勇者は魔王の手先だったんだあ!』
「ちょ、ち、違いますうううう!」
『なんか面倒だねお姉ちゃん。あいつら皆殺しにしようか?』
「ちょっとアリス、なに言ってんの!」
『そうだよアリスちゃん、皆殺しなんてダメ。とりあえず魔縄を使って、分かってもらえるまで縛り上げておけばいいんだよ』
「いや魔王さんもすごいこと言ってますけどおお!」
ああああ緊急事態ッ!
最悪のシナリオッ!
「フレースヴェルグを倒さねばならぬのう。それに、これ以上の被害が出るのはラタトスクとニーズヘッグが辛かろう」
「え? どういう意味ですか?」
「聞いておらぬのか? この大鷲はラタトスクとニーズヘッグのかつての友じゃよ」
フレースヴェルグとラタトスクと邪竜さんが、友達……?
邪竜さん、そんなこと一度も言ってなかったのに。
「随分と昔の話らしいが、その頃は三匹で世界をまたにかけてやりたい放題やっておったようじゃぞ。そこでついた仇名が暴食のフレースヴェルグ、
最凶の邪竜って、昔の仇名だったんだ。
邪竜さん、そんな感じしないけど、昔はワルだったのね。
ラタトクスは今でも変わらない気がするけれど。
「フレースヴェルグが神々に下ったことで、三匹はバラバラになったそうじゃが。昔過ぎて
そういえば初めて邪竜さんと泉で出会った時、世界樹の根をガブガブ
「大昔から恐れられておる怪物じゃ。神具を使わねば此奴は倒せぬじゃろう。まずは上空の黒ローブから対処して、ティルフィングを使えるようにするところからじゃな。ミョルニル、ティルフィング、レーヴァテイン。神具の力を結集すれば、この固い外皮も貫けるはず。よし、我ながら完璧な作戦じゃ!」
「……救えないでしょうか?」
「ん?」
「フレースヴェルグを倒すんじゃなくて、救う方法……ありませんか?」
私の言葉に青鷹さんがフリーズしてしまった。
せっかく完璧な作戦を立ててくれたのに申し訳ない。
でも。
「邪竜さんとラタトスクには本当にお世話になりっぱなしなんです。その二人から友達を奪うなんて、したくないです」
青鷹さんは翼を
目を細めて「むー」と唸っている。
暫くするとため息をついて、首を横に振った。
「まあ、お主は友達を救う勇者、だものな。仕方が無いのう」
「……え。青鷹さん、なんでそれ知ってるんですか?」
青鷹さんは「あ」と呟くと、咳払いをする。
「と、とにかくじゃ。フレースヴェルグの相手は
「は、はい!」
「悪いが火球の対処が出来るだけで、そんなに持たんかもしれん。急げよ!」
私は邪竜さんを呼ぶ。
近寄ってくれたその背にすかさず飛び乗った。
スルトくんには船に移ってもらう。
「スルトくん、あの大鷲から船を守ってください!」
「うん、ボクとヘルっちゃんにまかせて! ラクナおねーちゃんたちの大事な船は、ボクがぜったいに守るよ!」
そういって笑顔を見せると、自分と変わらない大きさの剣をぶんぶんと振り回した。
ヘルっちゃんて。そんな村の幼馴染みたいな呼び方。
てゆーかそのヘルっちゃんは一体どこにいるのよ。
……まあ、それにしてもスルトくん。
最初は小人族と間違うほどだったのに、なんて頼もしくなったんだろう。
なんだかすごく嬉しいな。
あんなに大きい剣を軽々振り回しているし。
そしてスルトくんの奥、船上では魔王さんとアリスが狼の人獣たちと戦っている。
というか、なんだか人が増えている気がする。
……ん!?
よく見たらフェンリルやレトさんもいる!?
本当にどうなってるの?
……って、とにかくそんなこと考えてる暇はないか。
むしろ、それなら船は大丈夫なはず!
「邪竜さん。フレースヴェルグを救うために、まずは黒ローブのところへお願いします!」
「救う、じゃと? 倒すのではなくて、か?」
「はい! 私は友達を救う勇者! 邪竜さんの友達も救ってみせます!」
「…………ホッホ。……そうか、わかった。……では、しっかりつかまっとれよお!」
邪竜さんは両翼を大きく広げ、紅い瞳がキラリと光る。
私たちは再び、上空へ飛翔した。
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